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(資料)平成元年 1989年 学習指導要領 

 前の指導要領まで、小学校で「数が不確定な事象の起こる程度を表すのにも用いられることを知ること」となっていたのが、これを扱わないことにして、確率を数値化することを初めて中3で学習する、ということに。
 それよりも何よりも、高校のコアカリキュラム化、ⅠⅡⅢとABCの6つに分かれるのだが、このうちABCはいくつか設定された単元の中から「履修する生徒の実態に応じて」「適宜選択させる」ということに。

簡単な事象とは・・・「高等学校で学習する順列,組合せの考えを必要としない程度の簡単な事象について確率を求めることが,ここでのねらい」「その程度については,樹形図などを利用して起こり得るすべての場合を簡単に求めることができる程度の事象」

H1

C数量関係
(1)「数量関係」指導の意義

 従前の学習指導要領では,独立した領域であった「関数」と「確率・統計」を合併し,これに「数の表現」を加えて,新しく「数量関係」の領域が作られた。この領域では,関数や確率・統計の基礎的な学習を通して,関数的な見方や考え方及び統計的な見方や考え方を養うことが主なねらいである。
中略
③確率・統計について
中学校における確率・統計指導の目標は,現在急速に発展しつつあるいわ
ゆる「情報化社会」に備え,あらゆる場面に氾濫するデータを正しくよみと
る能力をすべての生徒に育てることである。
このように考えたとき,確率・統計指導の目標としては,次の二つの面がある。
ア 日常生活の場で現れる個々のデータやその変動に目を向けて,代表値や散らばりについての感覚を養うこと。
イ 偶然現象を大量に観察するときに現れる規則性に気付くようになり,その規則性の表現のために資料の整理をする方法の基礎を学ぶこと。
確率・統計については,前処理的な部分をしっかり体得すること,つまり,生徒の生活体験に密着した対象を用いた学習が大切である。
このことが着実に行われていれば,確率論に基礎をおいた数理統計学の基本的な部分を高等学校において導入することも意味をもつであろう。また,それを体得した生徒ならば簡単な統計資料の意味を正確に理解できるであろう。このような基礎的な理解は社会科や理科などの学習に欠かせないのみならず,日常の新聞記事等における統計資料の理解にも欠かせないものである。

(2)指導内容の概観
(中略)
③確率・統計について
小学校では,第3学年において表や棒グラフのよみ方,かき方,第4学年において,資料の分類整理や,資料を折れ線グラフなどに表したり,グラフから特徴や傾向を調べたりすること,第5学年において円グラフ,帯グラフを用いて表すこと,第6学年において度数分布を表す表やグラフについて知るなど,漸次,統廿的に考察したり表現したりする能力を伸ばしてきている。中学校では第2学年において,「目的に応じて資料を収集し,それを表,グラフなどを用いて整理し,代表値,資料の散らばりなどに着目して資料の傾向を知ることができるようにする。」こととしている。
これは一見,小学校と同じ内容に見えるかもしれないが,中学校では取り扱う対象も広がるし,その取扱いにおいても発達段階に応じた考察を要求するので,決して小学校教材の復習ではない。むしろ,資料の整理についての感覚はこの段階で十分に育てられることを期待している。
なお,ここでは,前回の学習指導要領と比べて,累積度数の意味が削除され,相関図と相関表の見方が新しく付け加えられている。
また,第3学年では,頻度に基づく確率の概念の導入に加えて,ごく単純な場合には確率を求めることが場合の数を数えることに帰着できることが理解できるようにする。なお,その際,小学校において従前扱われていた「数が不確定な事象の起こる程度を表すのにも用いられること。」が今回削除されていることに留意する必要がある。そして,その後に続く「母集団の傾向を標本から判断する。」ことを実験や観測を通して感覚的にとらえるために,確率の概念をある程度はっきりと理解させておくことが望ましい。この標本調査の考えについては,高等学校でも取り扱うので,ここでは体験的に理解する程度で十分である。

第3節 各領域の内容
(中略)
C 数量関係
(2) 多数の観察や多数回の試行によって得られる頻度に着目し,確率について理解する。
ア 不確定な事象と確率
イ 簡単な場合について確率を求めること。
「内容の取扱い]
(3)内容のCの(2)のイについては,樹形図などを利用して起こり得るすべての場合を簡単に求めることができる程度の事象を取り上げるものとする。

従前は,小学校第6学年で,「数が不確定な事象の起こる程度を表すのにも用いられることを知ること。」が扱われていた。これにより,数は確定した事象を表すのに用いられるだけでなく,さいころの目の出方など不確定な事象の起こる程度を表すこともできることを扱い,確率の素地を培ってきた。しかし,今回の改訂では,小学校では不確定な事象については扱わないことになり,中学校第3学年で確率を初めて学習することになる。
中学校第2学年では,資料の収集・整理の仕方を学習しており,このことが多数の観察や多数回の試行によって得られる頻度に着目して,相対度数の考えから確率の考えへと導く基盤となっている。
なお,高等学校では,順列,組合せ,確率,期待値などについて詳しく学習することになっている。
確率の意味
例えば,さいころを振った場合どの目が出るかを予言することはできない。しかし,多数回の試行の結果をそれぞれの目について整理してみると,相対度数がある安定した値をとるという傾向が見られる。このような事象の起こる程度を表すのに確率が用いられる。
ある事象の確率は,実験の回数や観察する資料の度数を限りなく大きくしていくとき,その着目している事象の相対度数が近づいていくであろう値を求めるのであるが,実際には実験や観測を無限に行うことはできないので,有限回で打ち切ってその値を想定することになる。
ある事象の確率pのとり得る範囲が,0≦p≦1であることは,相対度数の考えからみて自然であろう。
また,ある事柄が起こる確率をp,その事柄が起こらない確率をqとするとき,p+q=1であることも容易に理解できよう。
実験や観測の結果から,起こり得るすべての場合の相対度数がほば等しく,どの場合に対しても等しい確率を与えてよいと考えられる事柄がある。そのような事柄の一,二の例を知ることにより,他の事例についても起こり得るすべての場合が等確率とみてよいことを推測できるようにしたい。
簡単な場合について確率を求めること
高等学校で学習する順列,組合せの考えを必要としない程度の簡単な事象について確率を求めることが,ここでのねらいである。したがって,その程度については内容の取扱いに示されているように,樹形図などを利用して起こり得るすべての場合を簡単に求めることができる程度の事象を取り上げることにする。
例えば,2個の硬貨を投げて2個とも表になる確率について考えてみよう。
まず,2個の硬貨の表・裏の出方のすべての場合を樹形図などを用いてすべて挙げてみることが必要である。すなわち,(表,表),(表,裏),(裏,表),(裏,裏)の4通りの場合がある。各場合の起こることは同程度に期待できると考えてよい。このことが「同様に確からしい」といわれるものである。この考えを基にすると,2個とも表になる場合は,同様に確からしい4通りの場合のうちの一つであるから,その確率は1/4になる。
さて,上の確率の1/4という数の意味であるが,2個の硬貨を4回投げれば,いつもそのうちの1回は必ず2つとも表が出るという確定的な数でないことに注意する必要がある。しかし,硬貨を投げる回数を多くし,2個とも表が出る場合の数rを求めて,相対度数r/nを計算し,nをしだいに大きくしていくと,それに伴ってrも大きくなるが,r/nの値はしだいに上で求めた確率に近づいていくことを見いだすことができよう。
このことから,確率を求める方法としては,同様に確からしいということに基づいて求める方法と,多数回の試行によって求める方法とが考えられる。この二つの方法について,後者の方法で求めた確率が前者の方法で求めた確率と比べて差が大きいときは,同様に確からしいとしたことに誤りがあるか,試行の仕方に偏りがあるかのいずれかであることに気付かせることも必要である。


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