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(資料)平成20年 2008年 中学校学習指導要領解説部分 および解説

 現行の1つ前。「ゆとり教育」への強い世論の批判の影響もあり、授業時数を増やし、特に理数系に重点的に増加時間を充てることに。内容も増加。
 中学数学では、確率・統計分野が「資料の活用」に再独立し、余事象が中学範囲に戻る。(高校では数Cがなくなり、確率分布が数Bに。つまり確率分布がセンター試験範囲に。一方、行列が高校からなくなる。)
 また、小学校6年生では「具体的な事柄について,起こり得る場合を順序よく整理して調べることができるようにする。」

「簡単な場合」とは:::樹形図や二次元の表などを利用して,起こり得るすべての場合を簡単に求めることができる程度の事象
 はじめて「二次元表」が、樹形図に加えて入る。

第3節 各学年の内容
[第2学年]
D資料の活用

(1) 不確定な事象についての観察や実験などの活動を通して,確率について理解し,それを用いて考察し表現することができるようにする。
ア 確率の必要性と意味を理解し,簡単な場合について確率を求めること。
イ 確率を用いて不確定な事象をとらえ説明すること。

 小学校算数科においては,第6学年で,具体的な事柄について起こり得る場合を順序よく整理して調べることを学習している。
 中学校第1学年においては,相対度数は,全体(総度数)に対する部分(各階級の度数)の割合を示す値で,各階級の頻度とみなされることを学習している。
 中学校数学科において第2学年では,これらの学習の上に立って,これまで確定した事象を表すのに用いられてきた数が,さいころの目の出方など不確定な事象の起こりやすさの程度を表すためにも用いられることを知り,確率を用いて不確定な事象をとらえ説明できるようにする。

確率の必要性と意味

 数学の授業では,確定した事象を取り扱うことが多い。しかし実際には,日常生活や社会における不確定な事象も数学の考察の対象となり,その起こりやすさの程度を数値で表現し把握するために確率が必要になる。
 さいころを振る場合,どの目が出るかを予言することはできない。しかし,多数回の試行の結果をそれぞれの目について整理してみると,全体の試行回数に対するある目の出る回数の割合には,ある安定した値をとるという傾向が見られる。このような「大数の法則」を基にして,事象の起こりやすさの程度を表すのに確率が用いられることを理解する。
 例えば,さいころを振る回数$${n}$$を大きくし,1の目が出る回数$${r}$$を求めて,$${\dfrac{r}{n}}$$の値を計算してみる。$${n}$$を次第に大きくしていくと,それに伴って$${r}$$も大きくなるが,$${\dfrac{r}{n}}$$の値は次第にある値に近づいていく。この$${\dfrac{r}{n}}$$が近づいていく一定の値を,さいころを振って1の目が出る確率という。
 ところでこの場合,さいころを正しく振るならば,どの目が出ることも同様に期待されるから,多数回の試行を行えば,それぞれの目が出る回数の割合は,どの目についても$${\dfrac{1}{6}}$$に安定すると考えられる。実際,多数回の試行を行ったとき,上述した$${\dfrac{r}{n}}$$が近づく一定の値とは,$${\dfrac{1}{6}}$$に他ならない。
 このように,起こり得るどの場合も同様に期待されるとき,つまり「同様に確からしい」ときには,起こり得る場合の数を数えることによって確率を求めることができる。
 確率を求めるには,実際に多数回の試行を行うよりも,場合の数に基づいて考えた方が,時間も労力も節約できる。しかしその反面,不確定な事象について何が分かるのかという確率本来の意味は忘れられがちである。例えば,「さいころを振って1の目が出る確率が$${\dfrac{1}{6}}$$である」ことから,「さいころを6回投げると,そのうち1回は必ず1の目が出る」と考えてしまうのは,確率の意味の理解が不十分であることが原因であると考えられる。
 指導に当たっては,実際に多数回の試行を行うなどの経験を通して,ある事柄の起こる割合が,一定の値に近づくことを実感を伴って理解できるようにする。また,場合の数に基づいて確率を求めた際には,それが正しいかどうかだけでなく,そのことによってある事柄の起こりやすさについてどのようなことが分かったのかを実験や調査などを通して確認することも大切である。

簡単な場合について確率を求めること

 起こり得る場合の数を基にして確率を求めるには,同様に確からしいと考えられる起こり得るすべての場合を正しく求める必要がある。ここでは小学校第6学年における指導を踏まえ,起こり得る場合を順序よく整理し正しく数え上げるようにする。その際,樹形図や二次元の表などを利用して,起こり得るすべての場合を簡単に求めることができる程度の事象を取り上げる。
 簡単な場合の例として,2個の硬貨を投げたときの表・裏の出方が考えられる。2個の硬貨の表・裏の出方のすべての場合は(表,表)(表,裏)(裏,表)(裏,裏)の4通りであり,それぞれの場合の起こることは同様に確からしいと考えられる。このうち,2個とも表になる場合は,同様に確からしい4通りの場合のうちの一つであるから,その確率は$${\dfrac{1}{4}}$$になる。
 ところで,この例で「確率が$${\dfrac{1}{4}}$$である」とは,先にも述べたように2個の硬貨を4回投げると,そのうちの1回は必ず二つとも表が出るという確定的なことを意味するものではないことに注意する必要がある。
 また,上の事例では,表・裏の出方のすべての場合が(表,表)(表,裏)(裏,裏)の3通りであると考え,2個とも表になる確率は$${\dfrac{1}{3}}$$であると考える誤りが起こりやすい。この場合,起こり得る場合を落ちや重なりがないように数えられるようにするとともに,実際に多数回の試行を行ってその結果と比較し,実感を伴って理解できるようにする。

不確定な事象をとらえ説明すること

 我々は,確率を用いることで,不確定な事象をとらえ説明することができる。不確定な事象をとらえ説明するための根拠として有効なのが確率である。指導に当たっては,確率を求めることだけを目的とするのではなく,不確定な事象に関する問題解決を重視し,生徒が確率を根拠として説明することを大切にする。その際,日常生活や社会における事象を取り上げ,確率を基にして説明できる事柄を明らかにすることが必要である。
 例えば,くじ引きをするとき,何番目に引くかで有利不利が生じないかどうか,つまり公平なくじ引きであるかどうかを考えて,その理由を確率に基づいて説明することが考えられる。この場合,くじ引きのルールを明確にすることの重要性や,ルールを変更すると判断も変わることがあることに気付くように指導することも大切である。
 確率を用いて不確定な事象をとらえ説明することを通して,「必ず~になる」とは言い切れない事柄についても,数を用いて考えたり判断したりすることができることを理解し,数学と実生活や社会との関係を実感できるようにする。その際,確率の必要性と意味の理解を大切にして指導する。

[参考]小学校学習指導要領

D(5)起こり得る場合

(5)具体的な事柄について,起こり得る場合を順序よく整理して調べることができるようにする。

 第5学年までの分類整理して考える活動の上に,第6学年では,起こり得るすべての場合を適切な観点から分類整理して,順序よく列挙できるようにすることをねらいとしている。
 起こり得る場合を順序よく整理して調べるとは,思いつくままに列挙していたのでは落ちや重なりが生じるような順序や組み合わせなどの事象について,規則に従って正しく並べたり,整理して見やすくしたりして,誤りなくすべての場合を明らかにすることを指している。
 指導に当たっては,結果として何通りの場合があるかを明らかにすることよりも,整理して考える過程に重点をおき,具体的な事実に即して,図,表などを用いて表すなどの工夫をしながら,落ちや重なりがないように,順序よく調べていこうとする態度を育てるよう配慮する必要がある。
 例えば,4人が一列に並ぶ場合を考えるときには,特定のAに着目して,まずAが先頭に立つ場合を考える。2番目の位置にBが並ぶとすれば,3番目はCかDになる。次に,2番目の位置にCが並ぶ場合,Dが並ぶ場合と考えを進めていく。そうすると,Aが先頭に立つ場合は,次の図のように6通りであることを明らかにすることができる。Aのほかにも,B,C,Dが先頭に立つことができることから,起こり得る場合を図をかいて調べると24通りであることが分かる。
 (樹形図 略)
 また,四つのチームの対戦の組み合わせを考えるときには,次の図や表に示すような方法で,すべての場合を落ちや重なりがないように調べていくことができる。
 (対角線図 P型2次元表 略)
 このように,図や表を適切に用いることができるようにするとともに,条件に従って筋道を立てて考えを進めていけるようにすることが大切である。また,名前を記号化して端的に表すことは,順序よく整理して調べる際に有効であることを実感できるようにすることも大切である。


(現行の指導要領)


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