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減法の意味(1) 教科書から

 正負の数の「減法」を考えるために、前提として、立式の意味としての減法と、絶対値計算のためのひき算を分けて考えなければいけない。

 ここでは便宜的に、小学校で習うたし算(非負数+非負数)・ひき算(非負数ー非負数=差が非負数)と、中学校で学習する負の数を含めた加法・減法を区別して表現する。

 なぜ立式の意味を考えるかというと、「その減法の式の答はこれだ!」ということを、減法の式の意味から説明するためであり、もっというと

●「+2をひく」ことは「-2を加える」ことと同じ
●「-2をひく」ことは「+2を加える」ことと同じ
● ある数から正の数または負の数をひくには,ひく数の符号を変えて加えればよい

というルールの根拠を説明するためである。

 各社の教科書を見ると、「①減法の式の意味」「②ひく数の符号を変えて加法になおす」それぞれの根拠がなかなか苦しい。

 引用等は、執筆時点の2021(令和3)年度版から。

減法は加法の逆算。数直線の矢印の向きを変えるのは天からのお告げ。

東京書籍)
 (+8)-(+5)=□ は、□+(+5)=+8 の□にあてはまる式を求める計算。
 (+2)-(+5)=△ は、△+(+5)=+2 の△にあてはまる式を求める計算。
 (+2)-(-5)=○ は、○+(-5)=+2 の△にあてはまる式を求める計算。
→(原点のない、ベクトルどうしの)数直線の図になおす
→ひく数の矢印を反転させた図をもうひとつつくる
→(+8)-(+5)=□ や (+2)-(+5)=△、(+2)-(-5)=○ は、(+8)+(-5)=□ や (+2)+(-5)=△、(+2)+(+5)=○ と、たし算でも求められる。
→ このように、ひき算はたし算になおすことができる。

大日本図書)
 ●+2=5 の ●にあてはまる数を求める式が 5-2
⇒ (+5)-(+2)=□ は、□+(+2)=+5 の□にあてはまる式を求める計算。
  (+3)-(-2)=△ は、△+(-2)=+3 の□にあてはまる式を求める計算。
→ □+(+2)=+5 や △+(-2)=+3 となる□を、(原点から出発する)数直線を使って求める。
→ 数直線の図でひく数の +2 や -2 の矢印の向きを変えると、その式はどのように表されるか? 
 (+5)-(+2)=□ → (+5)+(?)=□
 (+3)-(+2)=△ → (+3)+(?)=△
→ この式を比べて、気づいたことを言いなさい。
  ・・・ひく数の符号を変えて加法になおすことができます。

 数研、教育出版、日本文教も概ねこの線。

(動いた結果)-(1回目の動き)=(2回目の動き) 加法との関係は、神から気付き給えと。

学校図書)
  (+5)-(+2)は、数直線上で考えると、(動いた結果)+5は(1回目の動き)+2から見て、正の向きへ3動いた位置→2回目の動きは+3であることがわかります。
  (+2)-(+5)は、数直線上で考えると、(動いた結果)+2は(1回目の動き)+5から見て、負の向きへ3動いた位置→2回目の動きは-3
 (+4)-(-2)は、+4は-2から見て、正の向きへ6動いた位置→2回目の動きは+6
 (-6)-(-2)は、-6は-2から見て、負の向きへ4動いた位置→2回目の動きは-4
   ↓
 次に減法と加法の関係を調べてみましょう。・・・どれが同じになるかな?
→「+5をひく」ことは,「-5をたす」ことと同じである。
 「-5をひく」ことは,「+5をたす」ことと同じである。
→正、負の数の減法では,ひく数の符号を変えてたせばよい。

減法は○より□小さい数を求める計算 □小さい数⇔-□大きい数(ここは神のお告げ) ○より-□大きい数を求める計算は加法 

啓林館)
 減法○-(+□)は○より□小さい数を求める計算、「□小さい数⇔-□大きい数」⇒○より-□大きい数を求める計算は加法○+(-□)
 減法○-(-■)は○より-■小さい数を求める計算、「-■小さい数⇔■大きい数」⇒○より■大きい数を求める計算は加法○+(+■)
    ↓ 
負の数を使って表されたことばは、例えば「-3大きい・・・3小さい」のように、負の数を使わないであらわすことができます
このことから、ある数より負の数だけ大きい数、小さい数についても考えることができます。
(中略)
ある点より負の数だけ大きい数、小さい数は、負の数を使わない言葉で表すと、正の数だけ小さい数、大きい数の場合と同じようにして、求めることができます。
(太字引用者)

正の数・負の数をひくには,符号を変えた数をたせばよい。

 「符号を変えて加減を変換すれば、負の数の加減も求答できる」が、降って湧いてくるわけではない。むしろ、負の数の操作を正の数の操作に「置き換える」準備をして、その結果なのである。説明のための理屈を、正の数の大きい小さいしか知らない中1向けに、結構丁寧に示している、と言えるのではないか。
「減法などない! あるのはベクトル操作だけだ!」

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