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番外編)高校で習うことを高校入試で出しちゃうことについて

 学習指導要領では「簡単な場合について確率を求めること」とされ、その解説で「樹形図や二次元の表などを利用して,起こり得る全ての場合を簡単に求めることができる程度の事象を取り上げる」とされている。

 中学校と高校の境目となる「簡単な確率」とは,さいころ3つが大中小であらかじめ区別されていることではない。さいころ3つでは「起こりうるすべての場合」216通りが図表で列挙できない、というところにある。また、公立でも兵庫県などでこの範囲を超える問題が出される場合がある。


サイコロ3個・3回

 たとえば、私立ではサイコロ3個・3回なども数多く出題されている。が、表を書こうにもできないし、すべての場合の数が216もあると、樹形図も1ページにおさまるはずがない。

大中小3つのさいころを投げて,出た目の和が12となる確率を求めなさい。

中央大学附属2020

大,中,小3つのさいころを同時に投げる。出た目をそれぞれ$${a,b,c}$$とする。このとき。$${3a-2b-c = 0}$$となる確率を求めなさい。

函館ラ・サール2020

偶然は2つだがすべての場合の数が大きい

 偶然は2つだがすべての場合の数が大きい問題もある。

 袋Aの中に赤玉と白玉が合計13個入っている。袋Bの中に赤玉2個、白玉4個の合計6個の玉が入っている。それぞれの袋の中から玉を1個ずつ取り出した時に玉の色が同じである確率が$${\dfrac{23}{39}}$$であった。このとき、袋Aの中にはじめから入っていた赤球の個数は全部で[ ]である。

日本大学習志野2018

 これなんかは,図表を使って列挙するとなると78通りである。もう少し袋Aの合計が7個とか少なかったらいい問題なのかも知れないが、図表を書くにはちょっと大きくて惜しい感じもする。やはり積の法則の適用を前提とした出題と思われる。

確率の積の法則を使う前提?

 高校入試問題の中には、「確率どうしのかけ算」を使った方がとても早い問題もある。

 大,中,小の3つの箱があり,それぞれの箱には数字が書かれたカードが下の表の枚数だけ入っている。3つの箱から1枚ずつカードを計3枚取り出すとき,次の確率を求めよ。
(1) 3枚とも0である確率。(答だけでよい)
(2) 3枚の数の積が2である確率。
(3) 3枚の数の積が偶数である確率。

愛光高等学校2020

(よくない点) 確率の積の法則を使った方がよっぽどスマート(それを知っている人が圧倒的に有利になる問題)
 たぶん、箱に0,1,2が1枚とか、どこかが2枚とかの枚数ならば、樹形図が書けて、なんならここに「いい問題」として採録していたかもしれない。
 しかし、たぶんこの問題を高校の問題集に載せて,大学受験を目指している受験生に解かせたら,十中八九「独立な試行の確率」として積の法則を持ち出すだろう。ならば、中学生に便利な方法として確率どうしの掛け算を教えてよいか? 私はちがうと考える。「独立試行」の考え方があやふやなときに、中学生にかけ算だけ教えるのは危ないからだ。(だーかーらー そもそも学習指導要領外なんだってばさー)

 中には、あからさまに積の法則を使わないと解けないような問題も出される。

A,Bの2人がある検定試験に合格する確率が,それぞれ$${\dfrac{2}{5}}$$,$${\dfrac{3}{8}}$$であるとする。2人のうち,少なくとも1人が合格する確率を求めなさい。

法政大学高2017

 もしかしたら出題側が履修範囲を勘違いしているのか、付属中ではすでに学んでいるのか、塾や高度な問題集などでテクニックとして学んでいるかどうかを選別してしまう問題。確率の積の法則は高校での学習範囲で、高校入試で直接にそれを試してはいけない。(そしてもう一度確認すると、中学校で計算できるのは根本事象が「同様に確からしい事象」である。そして世の中のペーパーテストについては、正直言うと、A,Bがある検定試験に合格する試行の独立性は担保されていない。簡単に言うと、同じペーパーテストを受けて、AとBが合格する確率は独立とはいえない。だって、簡単な問題だったらどっちも合格するだろうし、難易度がムズい問題だったらどっちも合格できないでしょ。だから入試問題が今年は難化しただの易化しただの、血眼を変えて塾予備校業界は分析をするわけです。説明変数と目的変数すらわかっていない、確率・統計の本質をとらえてない悪問であるとさえ言える)

 積の法則を使わなければならないことは明示されないが、どうやっても積の法則でないと解けない問題もある。

 A,Bの2人がサイコロを持っている。Aのサイコロには,1から6まで,Bのサイコロには2から7までの目が書かれている。今,2人が同時にサイコロを投げ,大きい目が出た人が勝ちで,同じときはあいことする。
 このとき,1回目は勝負が決まらず,2回目にAが勝つ確率を求めなさい。

城北2007

 確かに積の法則を使うと,より速く解答ができる問題、というのはある。それが確率の問題の「自由さ」にもつながるし、別解が広がっているのは数学のいいところである。

 しかしこの問題に関しては、積の法則を知っているのと知っていないのとでは、答えまでにどれだけ時間がちがうか、想像をしてほしい。これは中学校内容を問う入試問題ではない。

 学習指導要領にある「簡単な場合」の範囲を超える問題については、中学校の段階でなんとなく一般化させるより、高校段階で独立・従属の概念をちゃんと説明して、積の法則やP・Cの公式を使えるようにして解いた方がよいのでは、と私は考える。特に独立性は数学的にしっかり定着させた方がいい。だからこそ、小さい子がたっぷりと積木遊びをして空間認識を養うように、中学段階では「簡単な場合」にとどめて、複数の偶然を起こすときに互いに影響するのかどうかの感覚を養うほうが大切だと考える。
 安易に、公式やテクニックを適用すれば正解できる問題をこなさせる,それがこなせた人が点数を取れるような問題を出すのは,ちょっと違うと思う。(なので、このnoteでは私立学校の受験問題はほとんど扱っていないし、現実的には、ねらう上級高校レベルの問題集に取り組んだ方がいい,ということを言わざるを得ない)

 そして、平気で積の法則を使うような問題を出す学校(出題担当の先生)には、そんな塾で教える知識を問うのではなく(←これは知ってるか知らないかで選別する安易な方法)、確率の本質を突いたり、発想力を問うたりして「問題を難しくする」方法はもっとあることを知ってほしいし、そっちで勝負に出てほしい。


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