基礎編26* 「偶然3つ以上の分母⑤」【研究】くじで委員を選ぶ・座席を決める
手法としては、これまで解説してきたことの中で解けるけど、特に「パターン」として練習しておいた方がよい問題を【研究】として取り上げます。
その最初が、このくじで選ぶの問題。
問題を解く前に。
中学校の公立高校の入試問題は大まかに2つのパターンに分かれます。
(パターン1) だれもが誤解のないように、細かい手続きを細かく細かーく丁寧に一つ一つ、つぶさに書きすぎて、実はしっかり読まないとなんだかよく分からなくなりそうだけど、言っていることはとっても単純な問題。
(パターン2) ざっくりな問題。
実は、これまではパターン1、偶然を発生させる手続きについては、だれもが誤解のないように、つまり「問題文からは、こうも解釈できるから、そうすると確率が変わって、答え違いますよね」って高校や教育委員会に異義や苦情や来ないように、だれがどう読んでも「その解釈はできないだろう」っていうふうに、事細かに偶然の起こし方を書いているパターンです。
もうひとつは、ざっくりな問題。この問題では「くじびきで2人を選ぶ」としか書いていません。でも、どんなクジを用意して、だれがどういう順番でひいて2人を選ぶのかは、問題文には書いていない。
いくつか考えられると思うけど、クジ引きするにしても思いつくだけで2つの決め方があります。
【クジでの決め方 その1】 「当番」「当番」「(無印)」「(無印)」のクジを4本用意して、(ジャンケンかなんかで順番を決めてもらって)、A~Dに1本ずつひいて「元にもどさず」次の人にひいてもらう。もちろん「当番」をひいた人が当番。
【クジでの決め方 その2】 「A」「B」「C」「D」と書いてあるクジを4本用意して、(4人の中でだれかジャンケンするとか、別のEさんにお願いして)同時に2本ひいてもらう。出てきた名前の人が当番。
え? 決め方その1と決め方その2で確率変わらない? ・・・と思うかも知れませんが、実は変わらないんです。苦情は来ません。いや、苦情を言う人は、確率は計算できないってことがバレバレのクレーマーということになります。だからこそ、問題文はざっくりなのです。
また、ここで重要なのは、【決め方 その1】で、
くじをひく順番によって、その人が当たる確率は変わらない
ということが関係してきます。教科書では(どの教科書でもだいたい)「5本のうち3本のあたりが入っているくじを、ひいたあと戻さずにすると、1番目にひくのと2番目にひくのとでは確率が変わらない」ということを試しに確かめています。
実は、どんな場合でも
くじをひく順番によって、その人が当たる確率は変わらない
ということを信用してもらえれば、【決め方その1】でもいいわけです。で、たぶん【決め方その2】と確率は変わらない、ということなのです。
【決め方1】
順番で確率は変わらない、ということを信じてA→B→C→Dの順でくじをひくことにします。4本のクジに同様に確からしいことが分かるように①、②、3,4という番号にしておいて、①か②をひいたら当番、と言うことにしておきます。
お暇な方は、Aが1番でBが2番のとき、Aが1番でBが3番のとき、Aが3番でBが1番のとき・・・・などなどで、確率が変わるか同か、試してみてもいいですが、ま、
くじをひく順番によって、その人が当たる確率は変わらない
ということを信じてもらうのが早そうです。
で、確率は4/24=1/6です。
【決め方その2】
A~Dの4本クジを用意して、Eさんに2本同時にひいてもらうやり方です。偶然は2回起こりますので、表はこうなります(基礎編8参照)
というわけで、確率1/6。決め方1と2で同じでしたね。
答えは・・・
問題を解いたあとに・・・
ではあなたはどちらの決め方で委員を2人選び出しますか? というのも面白い問題ですが、これはあくまで確率の求め方の問題。どうやって決めようと、クジで決めると確率はおんなじなのよね~。・・・ということの裏側に、【決め方1】で決めようとすると実は,くじをひく順番によって確率は変わらないという中学の数学では数学的に確かめることのできない知識、「暗黙の了解」を使う、という話なのでした。いくつかやって見せて,ホラ、同じになるでしょ、と,中学校の確率では感覚的にしか「了解」してもらえないのです。ま、しょうがないんですけどね。でも、直観的に「いやーひく順番変わると,さきに当たりをひかれてしまうと不利になるし、先にはずれをひいてもらえれば有利になるでしょう」という感じにもなりそうなので、これがややこしいのです。
問題を解いたあとに・・・2
特にクジの問題は「自分の力で当たりを引き寄せたい」という思いが働きがちです。たとえばクジを使って次のような決め方もできますかね。ジャンケンで当番を決めるときの勝ち残り・負け残りのようなイメージです。
【決め方3】 4人のうち2人決まればいいので、確率1/2で委員になると考えて「○」「×」と書いた(使い回しのできる)クジを用意する。
最初のターンで、4人が順番にくじをひいて、それをもどして次の人がひく、というくじのひき方をする。○の人が2人いたら、その2人が「当番」確定となり、それで終わり。○をひいた人が1人だけなら、その時点でその人は「当番」が確定。×をひいた人が1人だけなら、その時点でその人は「当番じゃない」が確定。
確定していない人で次のくじびきターンを繰り返す。次のターンで、先に「当番」「当番じゃない」が確定した人を含めて「当番じゃない人が2人」「当番が2人」確定したら、その時点で終了。2人の当番が確定するまでくじびきターンを繰り返す。
例えば、初回に○3人、×1人だったら、×の人は「当番じゃない」が確定して、○の3人の中で2人の当番を決めるためもう一度くじびきをする。2回目のターンで○が2人だったら、自動的にその人たちが当番。2回目のターン○が1人×が2人だったら、2回目で○の人が当番確定。次のターンで(1回目で×の人は当番じゃないが確定しているので)残りの2人でくじびきをして、当番がもう一人確定するまで繰り返す・・・
・・・のような感じで、とにかく自分がひいたくじの結果によって自分が当番か当番にならないかが決まるようなシステムの方が、自分のひいたくじの結果の責任で当番になるかならないかが決められるので、気持ち的にはすっきりする、というのがポイントなような気がするのです。しかーし、このやり方では何度もくじをひくことになり、想像しているように延々と決まらない可能性もあります。
もっというと、この決め方3でも「いや、くじをひく順番を決めておかないと、有利不利が生まれるのではないか?」という疑義をはさむ人もいるかも知れません。あーめんどくさい。
確率的には(数学的な説明は中学ではできないのですが)1~3のどの決め方をしても、最初と最後だけを考えればひく順序関係なく確率は同じになるのです。だから、このことを常識というか、深く考えずにというか、納得して決めることができればいいのですがね。たぶん「自分が運を引き寄せる力」みたいなものを信じたい気持ちが働いて、あくまで「人がひいたくじで自分の運命は左右されたくない!」と思うので、うまく行かないのですね。【決め方3】のように、自分がひいたくじの結果で自分の運命が決まっているように見えても、結局自分以外の人のひいたくじの結果で次のターンが始まったりする・・・ということに気づくと「実は自分の力だけでは決まっていない」と腹落ちするでしょうか。
なかなか難しい問題なのです。たとえば「自分が運を引き寄せる力」みたいなものは、ソシャゲのガチャのような形で誘惑をしてくるのでタチが悪い・・・おおっと字数が尽きたようだ。
類題 和歌山県2022 岩手県2021 長野県2021 奈良県2019 静岡県2018 大阪府A2015 熊本県2011 福岡県2006
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