見出し画像

2022年3月第一週の体操ニュース

ウクライナ情勢は日毎に混迷を極めていますが、その影響はスポーツ界、体操界にも波及しています。
前回の記事からロシア・ベラルーシ選手に関連する続報が出ているのでまとめています。


▼米国ナショナルチームメンバー発表

まずは通常ニュースから

ウィンターカップを経て、米国ナショナルチームのメンバーが発表されました。

米国体操連盟:米国ナショナルチームメンバーを発表

ナショナルチームメンバーは以下の通り

○キャメロン・ボック
○アレックス・ディアブ
○ビタリー・ギマランイス
○アッシャー・ホン
○ポール・ジュダ
○ラン・レシック・エリス
○ライリー・ルース
○ブロディ・マローン
○ユル・モルダウアー
○スティーブン・ネドロシク
○クラン・フィリップス
○コルト・ウォーカー
○シェーン・ウィスカス
○アレク・ヨーダー
○コイ・ヤング

新鮮な顔ぶれです。
東京五輪代表のサミュエル・ミクラックは今のところ引退という情報はありません。
去年までナショナルに入っていたアカシュ・モディはコトブスW杯にコーチとして名前が載っていました。引退したのでしょうか。


▼テン・スルビッチが新たな演技構成を披露

東京五輪鉄棒銀メダリストのクロアチア テン・スルビッチについてFIGが寄稿しています。

FIG:テン・スルビッチ 新しい演技構成に挑戦

東京五輪までは4連続トカチェフを得意とするなど「トカチェフ使い」のイメージが付いたスルビッチ。しかし、五輪後のルール変更によりトカチェフ系とコバチ系は使える数が制限されました。
これにより、スルビッチは新たにコールマンを取り入れ新境地を見せています。
コトブスW杯で新構成を披露し銀メダルを獲得。
新しい技を入れても尚、スルビッチの強みであるEスコアは高く出ていて、さすがはスペシャリストと言ったところでしょうか。

記事では新型コロナの影響にも触れています。
「オリンピックが開催されるかわからない状況で、もう1年続けるのは精神的に辛かった。」と、精神面での影響が大きかったようです。

ドーハW杯では決勝進出したものの、鎖骨の負傷により決勝は棄権したそうです。

▼ドーハW杯 ハンガリーのバチカイが跳馬で銀メダル

ハンガリー女子のチェンゲ・バチカイが跳馬で銀メダルを獲得しました。

ハンガリー体操連盟:ドーハ・ワールドカップでバチカイが銀メダル獲得

予選よりも高い得点で、チュソビチナに次ぐ2位に就きました。
「オリンピック、世界選手権、ヨーロッパ選手権のチャンピオンであるチュソビチナ選手の横で表彰台に上れたことは、本当に気持ちのいいものでした。」と喜びを語っています。

▼徳洲会体操クラブに2名が新加入!

徳洲会体操クラブに来年度から新加入する2名の選手が紹介されています。

徳洲会体操クラブfacebook

新たに加入するのは鹿屋体育大学の藤巻竣平選手と清風高校の川上翔平選手。
全日本団体で団体メンバーとして活躍した岡慎之助選手は3月で高校を卒業し、シニア選手としての活動になります。
岡選手は2019年のジュニア世界選手権個人総合チャンピオン。
中学生の時に全日本団体のジュニア選抜に選ばれるなど、超エリートです。
最近では北京五輪のフィギュアスケート銀メダリストの鍵山優真選手と同級生という事で取り上げられたりもしました。

岡選手のジュニア世界選手権での演技。
ちっちゃかわいいのに凄い技バンバンやってます。





ここからはウクライナ・ロシア・ベラルーシに関するニュースです。

▼オレグ・ベルニャエフ ロシア選手の排斥を要求

リオ五輪個人総合銀メダリストであり、種目別平行棒金メダリストのオレグ・ベルニャエフがSNSを投稿。
その内容は、ロシア選手をすべてのスポーツ競技から排斥することを要求するものでした。


ベルニャエフの要求は以下の通り。
1. すべてのスポーツ国際統括団体(IOC、FIFA、UEFA、IIHF、IAAF、FIBA、ISUなど)からロシアを排除すること。
2. ロシア人選手の国際大会への参加を禁止すること。
3.ロシアのメディアに対する国際スポーツ大会の放映権の販売を停止すること。

ベルニャエフはウクライナのドネツク出身。
ドネツクを含むロシアの国境に近い地域一帯は親ロ派地域とされ、ロシア語話者が多い地域です。
ベルニャエフはロシア人選手との交流も多く、競技中もロシア人選手と会話をしたり、一緒に写真を撮ったりもしていました。
2014年のロシアによるクリミア併合、そして今回のウクライナ侵略。故郷が戦地と化した彼の気持ちは計り知れません。
共に戦っていた選手の排除を求めるこの投稿は、正義であると共に悲哀を感じずにいられません。どうしてこんなことに…。

▼W杯ドーハ大会 表彰式でロシアとウクライナの選手が別々に表彰

W杯ドーハ大会、種目別決勝が行われました。
日本選手は出場していません。

ゆかは東京五輪チャンピオン、イスラエルのアルチョム・ドルゴプヤットが優勝。
あん馬優勝はカザフスタンのナリマン・クルバノフ。
つり輪は、ヴァハン・ダフチャンが1位、アルトゥール・アベティスヤンが2位でアルメニア勢がワンツーフィニッシュ。
跳馬はアルメニアのアルトゥール・ダフチャンがコトブスW杯に続き2冠。
平行棒はウクライナのイリア・コフトゥンでこちらもコトブスに続く2冠。
鉄棒はイスラエルのアレクサンダー・ミヤキニンでした。
女子跳馬では、引退発表から一転、現役続行を表明したオクサナ・チュソビチナが優勝。
段違い平行棒はロシアのヴィクトリア・リスツノワ、マリア・ミナエワがワンツー、3位にウクライナのダニエラ・バトロナが入りました。
平均台もヴィクトリア・リスツノワが優勝。
ゆかはミナエワが優勝。2位にウクライナのバトロナ。3位にハンガリーのボゾゴが入りました。

ロシアとベラルーシの選手は国旗を使用できず、国旗の代わりに各体操連盟のシンボルが使われました。

スクリーンショット (170)

スクリーンショット (169)

その女子段違い平行棒とゆかの表彰式は異例の形となりました。
段違い平行棒の表彰式では、先に3位のバトロナが1人でウクライナ国旗を纏い登場。メダルを授与され退場します。次に1位2位のロシア選手が登場。国歌の替わりにチャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番変ロ短調が流されました。
翌日の女子ゆか表彰式では、まずウクライナのバトロナとハンガリーのボゾゴが登場。メダルを授与されフォトセッション後、バトロナのみ退場。続いてミナエワが登場し、チャイコフスキーが流され、再びフォトセッション。

これはバトロナがロシア選手との表彰を拒否したのが理由だとされています(男子はロシア選手とウクライナ選手ともに表彰しているので)。


▼FIGがロシア・ベラルーシに追加措置

FIG(国際体操連盟)はロシア・ベラルーシに対する追加措置を発表しました。
これまでは、ロシア・ベラルーシの国旗・国歌の使用禁止、ロシア・ベラルーシでの大会の開催を禁止という措置を取っていましたが、此度、さらなる措置が課されました。

FIG:ロシアとベラルーシに対するさらなる措置を採択

内容は「3月7日以降、ロシアおよびベラルーシの選手および審判員を含む役員は、FIG競技会およびFIG公認の競技会に参加することができない。」とするものです。
体操競技だけでなく、新体操、トランポリン、アクロ体操、エアロビック、パルクールも同様です。

体操競技はドーハW杯が終わり、次のW杯であるエジプト・カイロ大会(3月17日~20日)からこの措置が執行されます。

選手を始め、コーチ、審判員、役員もろともロシア・ベラルーシの人間は競技から排斥されます。

FIGはこれらの措置の目的として「体操競技の完全性、会員およびすべての選手と参加者の安全と完全性を維持し、あらゆる形態の暴力とスポーツの不正と闘うことを目的とした措置である。」としています。


▼アレクセイ・ネモフ「選手には適用されるべきではない」

2000年シドニー五輪個人総合金メダリスト、ロシアのアレクセイ・ネモフがFIGのロシア選手出場停止処分についてコメントしています。

ロシア体操連盟:FIGのロシア選手出場停止処分にネモフが落胆

「この決定には失望した。選手には適用されるべきではない。ロシアがいなければ、違うレベルの競技になる。(中略)おそらく、同じ中国で、選手のレベルが高い国際大会が開催されるでしょう」

自国のせいでウクライナの選手が国際大会に出られない状況で、自国の選手が出られない決定に落胆するというのは虫が良すぎやしませんか。
せめて一言くらいウクライナの選手を慮る態度をとってほしいものです。
ロシアのいない体操競技はつまらんとでも言うつもりでしょうか。
そして何やら中国との共同で国際競技大会の開催を企んでいるようです。

東スポ:ロシアと中国で〝ユーラシア五輪〟共催の動き「こちらはアスリートのレベルも高い」

仲が良さそうで何よりです。

▼ロシア イヴァン・クリアックの胸に”Z”のシンボル

ドーハW杯。
本来出場が認められなかったはずのロシアとベラルーシの選手は例外的に個人としての出場を認める代わりに、今大会出場時は国旗・国歌の使用を禁じられていました。
体操競技は国際大会の際、ユニフォームに自国の国旗をあてがうのが決まりです。
これに伴いロシア・ベラルーシの選手は国旗を隠して出場していました。
こちらはベラルーシの選手。胸の右側に国旗を隠した形跡があります。

スクリーンショット (175)

問題となったのは種目別平行棒決勝に出場したロシアのイヴァン・クリアック。
本来ならば出場を認められなかったはずの彼はあろうことか、国旗を使えない代わりに”Z”というシンボルを手作りし、ユニフォームに貼り付けて種目別決勝に出場し、演技をしたのです。

デイリー:胸に「Z」露体操選手がウクライナ選手の横で軍支持象徴をユニホームに

”Z”とは、“Za pobedu”の頭文字であるZを指し、「勝利のために」という意味を持ちます。この”Z”とは、ロシアの戦車にも刻まれているシンボルであり、戦争への支持を表明するものでもあります。

クリアックは種目別平行棒で3位に入り、優勝したウクライナのイリア・コフトゥンの横でZのシンボルを着けたユニフォームを着用し表彰式に臨みます。
ほかの2名はジャージを着ていますが、クリアックはユニフォームのままでした。

コーチの証言によると、クリアックの行動は彼自身の意志であり、周囲の人間はZの文字が貼られたユニフォームを事前に見ていないと主張しています。

胸糞悪いので画像は載せませんが、確認したい方はこちらをどうぞ。


▼スイス体操連盟がウクライナの選手への支援を表明

スイス体操連盟がウクライナの選手と関係者に対する支援策を表明しました。
ウクライナ体操連盟会長に書簡を送ったとのことです。

スイス体操連盟:ウクライナの体操選手を支援

ウクライナ人体操選手を支援し、必要に応じてスイスでのトレーニング施設や宿泊施設を提供することを申し入れたそうです。

現在ウクライナから出国を禁じられている選手、また、W杯に出場している選手たちの拠り所となれるのでしょうか。


▼各国が声明発表

前回の記事投稿から今日までに声明を発表した国々です。

フランス体操連盟「我々はウクライナの人々と連帯する」

画像3

スイス体操連盟「ウクライナの状況に愕然としている。」

米国体操連盟「我々の願いは、すべての国のアスリートが、国際社会の安定と安全を脅かす軍事行動の悲惨な結末から解放されることである。」

英国体操連盟「私たちは、この戦争を終わらせるために、できる限りのことをするという姿勢で一致しなければならない。 」

ドイツ体操連盟「ドイツ体操連盟(DTB)は現在、ウクライナやウクライナから逃れてきた人たちを支援するキャンペーンを組もうとしています。」

そして日本体操協会も声明を出しました。
日本体操協会「日本体操協会は平和を心から祈ります。」



ベルニャエフの投稿やFIGの決定が下された頃、僕は正直「そこまでしなくても」と思ってしまいました。選手自身に罪はなく、悪いのはロシア政府でありベラルーシ政府であると。
でもネモフやクリアック、そしてここに意図的に載せていない記事で話す人物の言葉を見てから、そんなバカバカしい憐憫の情は露とも残らなくなりました。
ロシア・ベラルーシの選手は排斥されるべきで、侵略を止めるまで国際大会の舞台に出てこないことを望みます。




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?