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体操の技を覚えよう【鉄棒05】組み合わせ加点

体操男子6種目の中で、ゆかと鉄棒にのみ適用されるのが
「組み合わせ加点」

ゆかの組み合わせ加点については「体操の技を覚えよう」シリーズ、ゆかのチャプター04にて、Dスコアの仕組みと合わせて説明しています。

現行ルールのゆかの組み合わせ加点はだいぶ複雑で分かりにくいものになってしまいましたが、鉄棒はそれよりはいささか理解しやすいかもしれません。

そもそも組み合わせ加点とは、難度価値点・グループ点とは別に、ある条件を満たす技を連続で実施することで得られるボーナスのことです。
鉄棒の組み合わせ加点の要となるのは、グループⅡ:手離し技です。
鉄棒では、組み合わせ加点を得るには手離し技の実施が必須になります。
では、手離し技をどのように使えば加点が得られるのか。
それは大きく分けて2種類に分けられます。

▼手離し技+手離し技

分かりやすいのが、手離し技と手離し技の組み合わせです。
その中でも技ごとに難度や技の系統などの要素があり、どの手離し技を実施するか、技選びが重要になってきます。

組み合わせの対象となる技の難度に応じて「0.1」もしくは「0.2」の加点を得ることができ、その条件と得られる加点は以下の通りです。

◆C難度の手離し技+C難度以上の手離し技=0.1の加点

手離し技の中で加点の対象にならないのはB難度の技のみ。
少なくとも片方がC難度、もう片方がC難度でもD難度以上でも一律0.1の加点が得られます。
この場合、技の順番は逆でも可能です。
以下に実際に0.1の加点が得られる組み合わせの例を列挙します。

トカチェフ(C)+屈身トカチェフ(C)

MIRANDA Bernardo (BRA)_2023 Artistic Worlds, Antwerp (BEL)_Qualifications_Horizontal Bar

イェーガー(C)+ギンガー(C)

Heath THORPE Australien Reck - EnBW DTB Pokal 2024 - Team Challenge Männer Stuttgart - Turnen

伸身トカチェフ(D)+トカチェフ(C)

HASHIMOTO Daiki (JPN)_2023 Artistic Worlds, Antwerp (BEL)_Qualifications_Horizontal Bar

ピアッティ(D)+トカチェフ(C)

リューキン(F)+ギンガー(C)

Alex Buscaglia - High Bar - 2012 Visa Championships - Sr. Men - Day 2

ヤマワキ(C)+トカチェフ(C)+屈身トカチェフ(C)

Taylor Burkhart - High Bar - 2022 U.S. Classic - Men - Session 1

伸身トカチェフ(D)+トカチェフ(C)+屈身トカチェフ(C)

Tin SRBIC (CRO) - 2023 Artistic European Champion, high bar


◆D難度以上の手離し技+D難度以上の手離し技=0.2の加点

D難度以上の技同士の組み合わせには0.2の加点が得られます。
以下は実際に0.2の加点が得られる例です。

ピアッティ(D)+伸身トカチェフ(D)

SRBIC Tin (CRO)_2023 Artistic Worlds, Antwerp (BEL)_Qualifications_Horizontal Bar

コバチ(D)+コールマン(E)

KARIMI Milad (KAZ)_2023 Artistic Worlds, Antwerp (BEL)_Qualifications_Horizontal Bar

コバチ(D)+カッシーナ(G)

コールマン(E)+コバチ(D)

DEURLOO Bart (NED)_2023 Artistic Worlds, Antwerp (BEL)_Qualifications_Horizontal Bar

コールマン(E)+抱え込みゲイロード2(D)

MYAKININ Alexander (ISR) - 2022 Artistic Worlds, Liverpool (GBR) - Qualifications Horizontal Bar

コールマン(E)+ゲイロード2(E)

Epke ZONDERLAND (NED) - 2019 Artistic Gymnastics European Champion, high bar

カッシーナ(G)+コバチ(D)

Epke ZONDERLAND (NED) - 2019 Artistic Gymnastics European Champion, high bar

カッシーナ(G)+コールマン(E)

カッシーナ(G)+コバチ(D)+コールマン(E)

Epke Zonderland Wins Artistic Men's Horizontal Bar Gold - London 2012 Olympics


▼アドラー系の技+手離し技

手離し技以外にも、組み合わせ加点の対象となる技があります。
それがグループⅢ:バーに近い技のアドラー系統の技です。
しかし、そのアドラー系の技もD難度以上の技でなければなりません。

D難度以上のアドラー系の技といえば、主な技は以下の4つがありました。
アドラーとび逆手倒立【D難度】
アドラーひねり倒立【D難度】
アドラー1回ひねり片逆手倒立【D難度】
アドラー1回ひねり両逆手倒立【E難度】

これらの技とD難度以上の手離し技とを組み合わせることで、加点を得ることができます。

中でも組み合わせ加点でよく使われるのが、順手倒立で技を完了させるアドラーひねり倒立【D難度】です。

手離し技同士の組み合わせとは、難度と得られる加点の値が少々異なるので
ややこしいですが間違えないようにしましょう。

◆D難度以上のアドラー系の技+D難度の手離し技=0.1の加点

対象となるD難度以上のアドラー系の技D難度の手離し技を連続で実施すると0.1の加点を得ることができます。
以下、実際に0.1の加点が得られる組み合わせです。

・アドラーひねり倒立(D)+伸身トカチェフ(D)

TVOROGAL Robert (LTU) - 2022 Artistic Worlds, Liverpool (GBR) - Qualifications Horizontal Bar

・アドラーひねり倒立(D)+ピアッティ(D)

・アドラーひねり倒立(D)+コバチ(D)

SEIFERT Noe (SUI) - 2022 Artistic Worlds, Liverpool (GBR) - Qualifications Horizontal Bar

また、アドラーひねり倒立(D)+手離し技+手離し技のように、その後の手離し技の連続へ繋げることも可能です。
例えば、アドラーひねり倒立(D)+伸身トカチェフ(D)+トカチェフ(C)+屈身トカチェフ(C)と、加点対象の技を4つ連続すると

アドラーひねり倒立(D)+伸身トカチェフ(D)=0.1
伸身トカチェフ(D)+トカチェフ(C)=0.1
トカチェフ(C)+屈身トカチェフ(C)=0.1

とそれぞれ加点が得られることになり、合計0.3の加点を得ることが可能です。

MARIANO Arthur (BRA) - 2022 Artistic Worlds, Liverpool (GBR) - Qualifications Horizontal Bar


◆D難度以上のアドラー系の技+E難度以上の手離し技=0.2の加点

対象となるD難度以上のアドラー系の技E難度以上の手離し技を連続で実施すると0.2の加点を得ることができます。
以下、実際に0.2の加点が得られる組み合わせです。

・アドラーひねり倒立(D)+伸身ピアッティ(E)

SRBIC Tin (CRO)_2023 Artistic Worlds, Antwerp (BEL)_Qualifications_Horizontal Bar

・アドラーひねり倒立(D)+リューキン(F)

HASHIMOTO Daiki (JPN) - 2022 Artistic Worlds, Liverpool (GBR) - Qualifications Horizontal Bar

・アドラーひねり倒立(D)+コールマン(E)

SUN Wei (CHN) - 2022 Artistic Worlds, Liverpool (GBR) - Qualifications Horizontal Bar

・アドラーひねり倒立(D)+ゲイロード2(E)

Epke Zonderland Wins Artistic Men's Horizontal Bar Gold - London 2012 Olympics

・アドラーひねり倒立(D)+デフ(F)

Oliver HEGI (SUI) - 2018 Artistic Gymnastics European Champion, horizontal bar

・アドラー1回ひねり片逆手倒立(D)+ウェルストロム(F)

2024 Baku Artistic Gymnastics Apparatus World Cup – Highlights


こちらも、アドラーひねり倒立(D)+手離し技+手離し技のように、アドラー系からの連続以降の手離し技の連続へ繋げることも可能です。

例えば、アドラーひねり倒立(D)+コールマン(E)+コバチ(D)+カッシーナ(G)というふうに加点対象の技を4つ繋げると、

アドラーひねり倒立(D)+コールマン(E)=0.2
コールマン(E)+コバチ(D)=0.2
コバチ(D)+カッシーナ(G)=0.2

とそれぞれ加点が得られることになり、合計0.6の加点を得ることが可能です。


これらの組み合わせ加点を得るためには、その対象となる手離し技やアドラー系の技は、演技を構成する10技の中に含まれていなければなりません。


▼特別な制限

ここからが重要なのですが、あるひとつのグループに属する技は5つまでしか演技構成に入れることはできないという事は、すべての種目に共通する事項でしたよね。
その中でも、鉄棒のグループⅡ:手離し技の中には、使用回数を制限されている技の系統があります。
それが、トカチェフ系コバチ系の技です。

・トカチェフ

Hashimoto wins the men's individual all-around! | Tokyo Replays

・コバチ

Men's Horizontal Bar #Tokyo2020 qualifications - Subdivision 1

トカチェフ系とコバチ系の技は、単発で実施する場合、演技中に最大2回までしか演技構成に入れることができません。

ただし、ほかの手離し技と直接連続した場合に限り、3回目の実施が認められています

これはどういうことかというと…

下の画像のように、コバチ系の技であるカッシーナとコールマンをそれぞれ単発で実施すると、コバチ系の技を2回使ったことになるので、これ以上コバチ系の技を実施しても認められません。

HASHIMOTO Daiki (JPN) - 2022 Artistic Worlds, Liverpool (GBR) - Qualifications Horizontal Bar

しかし、コバチ系の技であるカッシーナと、コバチ+コールマンの連続を実施した場合、
3つ目のコバチ系の技(この場合はコールマン)が、ほかの手離し技と直接連続しているので3つ目のコバチ系の実施が認められるのです。

KARIMI Milad (KAZ) - 2022 Artistic Worlds, Liverpool (GBR) - Qualifications Horizontal Bar

実際に実施されているコバチ系同士の連続を例として挙げましたが、
これが【カッシーナ、コールマン、コバチ+ギンガー】というふうに実施された場合も、3回目に実施されたコバチ系の技であるコバチはほかの手離し技と直接連続しているので認められます。

トカチェフ系にも同じことが適用されます。
もしも、【トカチェフ、伸身トカチェフ、屈身トカチェフ】というふうにそれぞれが実施された場合、3回目に実施された屈身トカチェフは認められません。

しかし、【トカチェフ+ギンガー、伸身トカチェフ、屈身トカチェフ】というふうに実施された場合、ひとつ目に実施されたトカチェフがほかの手離し技と直接連続しているので、3回目に実施された屈身トカチェフは認められます。


ここで、鉄棒チャプター02㉓ゲイロード2という技の項目でこのような記述をしたことを覚えているでしょうか。

ゲイロード2
Bill Roth - High Bar - 1990 Men's Winter Nationals

この技は現在コバチ系として扱われていますが、もともとはギンガー系の技でした。バーを越えながらギンガー+1回宙返りをして逆手でバーを掴むといった技なのですが、いつからかコバチ系の技になったのです。

この技がかつてギンガー系の技だったのが、現在はコバチ系の技になったことで、コバチ系の技数制限の対象となってしまうのです。
もし、この技がギンガー系のままだったならば、
【カッシーナ、コバチ+コールマン、ゲイロード2】といった演技構成が可能だったわけです。

しかし、この技がコバチ系に属する技であるために、上記のような演技構成は不可能になってしまうのです。

このような技数の制限は、コバチ系、トカチェフ系にのみ与えられており、ほかの手離し技の系統(マルケロフ系、イェーガー系、ギンガー系、ゲイロード系)は3回以上使用しても問題ありません。

選手たちはこのような制限があることを意識しながら、コバチ系とトカチェフ系をうまく演技構成に入れているのです。


▼橋本大輝選手の鉄棒の演技構成

橋本大輝選手の鉄棒の演技構成は、世界でもトップクラスのDスコアを持ちます。
その内訳がどうなっているのか、この記事で書かれていた事柄をおさらいしながら確認していきましょう。

まずアドラーひねり倒立(D)+リューキン(F)で0.2の組み合わせ加点を得ています。
これは「アドラー系の技+手離し技」における
「D難度以上のアドラー系の技+E難度以上の手離し技=0.2の加点」に該当します。

次に、カッシーナとコールマンとそれぞれ単発で実施しています。
これにより、これ以上コバチ系の技を使用することはできなくなりました。

それから伸身トカチェフ(D)+トカチェフ(C)の連続を実施。
これは「手離し技+手離し技」における「C難度の手離し技+C難度以上の手離し技=0.1の加点」に該当するだけでなく、
3つ目のトカチェフ系の技であるトカチェフが「ほかの手離し技と直接連続」しているので「3回目の実施が認められ」ていることになります。



いかがでしたか。
鉄棒は派手で華やかで見ごたえのある種目ですが、結構複雑なルールの下に選手が演技構成を組んでいるという事がお分かりいただけたでしょうか。
なるべく分かるように説明したつもりですが、この記事を見ただけで一発で分かるようになるとは思いません。
これらのルールを覚えるには、いろんな選手の色んな演技構成を見てDスコアと照らし合わせて答え合わせをするしか方法はありません。

これまで「体操の技を覚えよう」シリーズとしまして
ゆか・あん馬・つり輪・跳馬・平行棒・鉄棒と
主だった技と特殊なルールについて書いてきました。
これだけボリューミーな記事を計28回に渡って書いてきたのは、ひとえに、これを見た方々がパリオリンピックで体操を少しでも楽しめるようにとの一心です。

今からすべて見返すのはなかなか骨が折れますが、これらのうちの何かひとつでも誰かの知識となっていれば幸いです。


画像出典
Men's Horizontal Bar Final | Tokyo Replays


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