見出し画像

体操の技を覚えよう【ゆか4】組み合わせ加点

これまでゆかにおける技グループごとにどんな技があるのかを、技グループごと、3つに分けて紹介してきました。
体操の技を覚えよう【ゆか1】前方宙返り
体操の技を覚えよう【ゆか2】後方宙返り
体操の技を覚えよう【ゆか3】アクロバット以外の技


ここでは、チャプター4としまして、組み合わせ加点についてまとめていきます。

Dスコアについて

体操競技におけるDスコアは、「難度価値点」「グループ点」「組み合わせ加点」の3つの合計で成り立つ加点方式です。
以前これについて説明した記事を書いていますが、そちらはルール改正前2017-2021年度版のルールに基づいた記事なので、改めてここでDスコアについてまとめておきます。

難度価値点

難度価値点は、選手が演技中に実施した技によって決まります。一つの演技の中でいくつ技を実施しようが自由なのですが、男子の場合は難度の高い順に最大10の技が計算され、その価値点の合計が難度価値点としてDスコアに反映されます。女子は8つの技が反映されます。
難度はそれぞれアルファベットで表されており、最も難度が低いものからA難度、難しくなるにつれて、B難度、C難度とアルファベット順に表記が変わっていきます。
男子では現在A難度〜I難度まで、女子ではA難度~K難度までが存在しており、A、B、C…と難度が上がっていく毎に価値点は0.1、0.2、0,3…と上がっていきます。
表にするとこのようになります。

もしこの先L難度なんていうものが認定されたら、価値点は1.2になるわけですね。

例として、2022年世界選手権個人総合6位のアメリカの新星アシャー・ホン選手のゆかの演技を見て、価値点を洗い出してみましょう。

アシャー・ホン選手のこの演技では11技行っています。しかし、Dスコアにカウントされる技は難度の高い順に9技+終末技の計10技までと定められているため、最も難度の低い後転とび(バック転)は対象外となります。
ここでは、後転とびを除いた10技の価値点の合計は3.7になりました。

グループ点

体操競技の技というのは、いくつかの技グループに分けられています。
これまでの3つの記事に分けてゆかの技を紹介してきましたが、「前方系」「後方系」「アクロバット以外の技」と、ゆかにおける技グループ毎に、そのグループに属する技を紹介してきました。

男子ではひとつの演技で10の技が演技価値点として反映されますが、なにも好き勝手に10の技を選んで良い訳ではありません。
体操競技は種目ごとに4つの技グループがあり(ゆかは3つ)、演技を構成する10技の中に4つのグループに属する技をそれぞれ必ずひとつは入れなければなりません(跳馬を除く)。そして、ひとつのグループの中でDスコアに反映できる技は5技までと決まっています。

先ほどのアシャー・ホン選手の演技構成を再び見てみましょう。

このように、あるグループに属する技をひとつでも実施すれば、0.5点が獲得できる仕組みです。同じグループの技を1つやろうが5つやろうが一律0.5点が与えられます。
しかし、グループⅣ:終末技だけは、C難度=0.3、D難度以上=0.5というふうに、難度に応じてグループ点が変動します。
アシャー・ホン選手の演技構成は、4つのグループ要求を満たしているので最大の2.0点獲得です。
しかし、大概の選手は終末技をD難度にしてグループ点をしっかり2.0獲得するので、これに関しては特に珍しい話ではなく、彼だからできるとかそういうわけではないです。

男子6種目すべての種目に技グループがあり、跳馬以外の5種目にグループ点というものがあります。各種目技グループは4つあるのですが、ゆかだけは例外で、ゆかの技グループは3つしかありません。ゆかには、各種目共通で存在する「グループⅣ:終末技」がありません。
ゆかの場合は、「グループⅡ:前方系の宙返り技」「グループⅢ:後方系の宙返り技」どちらかの技を終末技にすることで、最後に実施した技が、その技グループグループⅣ:終末技を兼任するという特殊な構造になっています。
アシャー・ホン選手は終末技をD難度の後方3回ひねりにすることで、グループⅣのグループ点を0.5獲得しています。

組み合わせ加点

そして、Dスコアを構成するもう一つの要素が、今回の記事の主題である組み合わせ加点です。

条件を満たした技を使用し、一定の難度以上の2つの技を連続して実施することで、ボーナスがもらえる仕組み。これが組み合わせ加点です。
組み合わせ加点はゆかと鉄棒でのみ得ることができるのですが、ここではゆかの組み合わせ加点について説明します。

ゆかの場合、組み合わせ加点を得られる条件と与えられるボーナスは下記の通り。

  1. 〔D難度以上の宙返り技〕+〔BorC難度の宙返り技〕=0.1の加点(順番は逆でも可)

  2. 〔D難度以上の宙返り技〕+〔D難度以上の宙返り技〕=0.2の加点

  3. 切り返し系の宙返りには組み合わせ加点は得られない

  4. ひねりを伴う1回宙返り技同士を直接連続しても組み合わせ加点は得られない

1,2の項目は組み合わせる技の難度によって与えられる点数の違いを表しています。このことから分かるように、組み合わせ加点を得るには、少なくとも一方の技はD難度以上である必要があります。

3の「切り返し系」というのは、下記画像のように、進行方向に向かって後ろ向きに着地する技を実施し、着地せず直接踏み切ってもう一方は前方系の技を行う連続技の事。

そして4つ目の項目が最も重要なポイント。これが、2022年以降追加になったルールです。
「ひねりを伴う1回宙返り技同士を直接連続しても組み合わせ加点は得られない」というのはどういうことか。

ゆかの宙返り技は、前方・後方とは別に、大きく2種類に分けることが出来ます。それが、「1回宙返り」と「2回宙返り」です。

1回宙返りはアクロバットの基本となる動きですが、シンプルな宙返りでは高い難度は得られず、より高い難度を得るには「ひねり」を加える必要があります。ゆえに、「1回宙返り」はひねり技が主流になります。
一方、「2回宙返り」は、ひねりを加えなくても高難度を得ることができます。もちろん、これにひねりを加えることでより高い難度を得ることができます。現在のルールでは、演技中は2回宙返り系の技を必ずひとつは実施しなければならないという要求が課せられています。

これまでのゆかでのチャプターのうち、【ゆか1】前方宙返り【ゆか2】後方宙返りを見て頂ければ、「1回宙返り」と「2回宙返り」の違いが分かると思います。

現行ルールでは、このうち「ひねりを伴う1回宙返り技」を2つ連続して実施しても、加点を得ることができなくなったのです。
例えば、東京五輪が行われた2021年までのシーズンでよく行われていた、
後方伸身宙返り2回半ひねり(D)+前方伸身宙返り1回ひねり(C)
前方伸身宙返り1回ひねり(C)+前方伸身宙返り2回ひねり(D)
後方伸身宙返り2回半ひねり(D)+前方伸身宙返り2回ひねり(D)
これらの〔1回宙返りのひねり技〕+〔1回宙返りのひねり技〕は組み合わせ加点の対象外となりました。

後方2回半ひねり(D)+前方2回ひねり(D)

「ひねりを伴う1回宙返り技同士を直接連続しても組み合わせ加点は得られない」
この文章をさらに言い換えると、「ひねりのない1回宙返り、前宙臥、またはすべての2回(3回)宙返りを使った連続技は加点が得られる」という事になります。

以上の4つの項目をまとめるとこうなります。
「一方、またはその双方が、ひねりのない1回宙返り、前宙臥、またはすべての2回(3回)宙返りを使った連続技であり、一方はD難度以上の技であり、もう一方がB・C難度の場合は0.1、D難度以上の場合は0.2の加点が得られる。ただし、切り返し系の宙返りは除く。」

この条件に該当する技というのはある程度絞られてきます。
◆前方伸身宙返り

◆前方抱え込み宙返り臥

◆後方伸身宙返り/後方速伸身宙返り(テンポ宙返り)

◆すべての2回(3回)宙返り


上記の技が組み合わせ加点を得るために必要な技となるわけです。
先ほどのアシャー・ホン選手の演技構成を再び見てみましょう。

アシャー・ホン選手は加点の得られる連続技を3シリーズ実施しています。
①前方伸身宙返り1回ひねり(C難度)+②前方屈身2回宙返り(E難度)=0.1
④前方抱え込み宙返り1回ひねり(B難度)+⑤前方抱え込み2回宙返り(D難度)=0.1
⑧後方伸身宙返り2回半ひねり(D難度)+⑨前方伸身宙返り(B難度)=0.1

①+②、④+⑤のように、一方がひねりを伴う1回宙返り、もう一方が2回宙返り、1本目の宙返りはB・C難度ですが、2本目の宙返りがD難度以上の技という事で、組み合わせ加点の条件に合致します。

⑧+⑨は1回宙返り同士の組み合わせですが、1本目はD難度のひねり技、2本目はひねりのない宙返り(B難度)なので条件に合致します。
B・C難度の宙返りを先に実施しても、後に実施しても同様に組み合わせ加点を得ることが出来ると分かりますね。

難度価値点・グループ点・組み合わせ加点を総合したアシャー・ホン選手のゆかのDスコアは、3.7+2.0+0.3=6.0となりました。
加点の条件が厳しくなったことで、現行ルールのゆかでDスコア6点台を出すことはかなり難しくなってしまいました。
アシャー・ホン選手の演技構成は世界レベルのかなり高度な演技構成と言えます。

組み合わせの例

さて、Dスコアの仕組みが分かったところで、組み合わせの話に戻ります。
この組み合わせ加点についてのルールが適用されたのが東京五輪が終わった2022年から。2022年からこれまでの1年間で、これらの技を使った様々な組み合わせが見られました。
ここからは、実際に世界中の選手によって実施された、加点が得られる組み合わせの例を紹介します。

①前方伸身宙返り(B)+前方伸身宙返り2回ひねり(D)=+0.1

②前方伸身宙返り(B)+前方伸身宙返り2回半ひねり(E)=+0.1

③前方伸身宙返り2回ひねり(D)+前方伸身宙返り(B)=+0.1

④後方伸身宙返り2回半ひねり(D)+前方伸身宙返り(B)=+0.1

⑤後方伸身宙返り3回半ひねり(E)+前方伸身宙返り(B)=+0.1


⑥後方伸身宙返り2回半ひねり(D)+前方伸身宙返り(B)+前方伸身宙返り2回ひねり(D)=+0.1+0.1=+0.2


⑦前方伸身宙返り(B)+前方抱え込み2回宙返り(D)=+0.1

⑧前方伸身宙返り(B)+前方屈身2回宙返り(E)=+0.1


⑨前方伸身宙返り(B)+前方屈身2回宙返りひねり(E)=+0.1


⑩前方伸身宙返り2回ひねり(D)+前方抱え込み宙返り臥(B)=+0.1


⑪テンポ宙返り(B)+後方伸身宙返り2回半ひねり(D)=+0.1

⑫テンポ宙返り(B)+後ろとびひねり前方抱え込み2回宙返り(D)=+0.1

⑬テンポ宙返り(B)+後方抱え込み2回宙返り1回ひねり《月面宙返り》(D)=+0.1

⑭テンポ宙返り(B)+後方伸身宙返り2回半ひねり(D)+前方伸身宙返り(B)=+0.1+0.1=+0.2


⑮前方抱え込み宙返り1回ひねり(B)+前方抱え込み2回宙返り(D)=+0.1

⑯前方伸身宙返り1回ひねり(C)+前方抱え込み2回宙返り(D)=+0.1

⑰後方伸身宙返り1回半ひねり(C)+前方抱え込み2回宙返り(D)=+0.1

⑱前方伸身宙返り2回ひねり(D)+前方抱え込み2回宙返り(D)=+0.2

⑲後方伸身宙返り2回半ひねり(D)+前方抱え込み2回宙返り(D)=+0.2

⑳前方抱え込み2回宙返り(D)+前方抱え込み宙返り1回ひねり(B)=+0.1

㉑前方抱え込み2回宙返り(D)+前方伸身宙返り1回ひねり(C)=+0.1


㉒前方伸身宙返り1回ひねり(C)+前方抱え込み2回宙返りひねり(D)=+0.1


㉓前方伸身宙返り1回ひねり(C)+前方屈身2回宙返り(E)=+0.1

㉔後方伸身宙返り1回半ひねり(C)+前方屈身2回宙返り(E)=+0.1

㉕前方伸身宙返り2回ひねり(D)+前方屈身2回宙返り(E)=+0.2

㉖後方伸身宙返り2回半ひねり(D)+前方屈身2回宙返り(E)=+0.2


㉗後方抱え込み2回宙返り1回半ひねり(E)+前方伸身宙返り(B)=+0.1

㉘後方抱え込み2回宙返り2回半ひねり(F)+前方伸身宙返り1回ひねり(C)=+0.1

㉙後方抱え込み2回宙返り2回半ひねり(F)+前方伸身宙返り2回ひねり(D)=+0.2


これらのほかにも、条件に合致さえすれば加点が得られる組み合わせはもっともっとあります。
今、日本選手が多く使っている連続技は、伸身前宙を使った1回宙返りの連続技が主です。そんな中、南一輝選手のような世界レベルのスペシャリストともなると、2回宙返りを使った連続技を使ってきます。
選手たちは、加点によってDスコアの上積みを狙うために、様々な連続技を実施してきます。
ルールが変わってからこれまで1年余りでこれだけの連続技が実施されてきたので、パリ五輪まで新たな連続技が出てくるかと思うとわくわくします。


これまで4つの記事でゆかの技を覚えられたでしょうか。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?