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(4) 不測の事態 勃発。大なり小なりの影響が、各所で生じる。

2月・・グアム沖の海上は陽光に満ちており、海洋事故地点で捜索活動中の地元の漁船のデッキ部分には誰も居なかった。長い時間、デッキ上で留まるのは酷な状況にあるからだ。一方で米軍関係者は停留している潜水艦の検査に炎天下でも汗を掻きながら取り組んでいた。

メディアのヘリやチャーターした民間船やヨット上の記者やカメラマンが、潜水艦の映像を離れたところから撮っていたが、水面上の船体部分には漁船と衝突した跡は見られなかった。
また、沈船の場所は明らかにグアム領海内であり、下降時に浮力の関係で、垂直降下とならずに多少揺れたとしても、違法操業を行っていた可能性は高いと判断されていた。
網を引きずられながらも沈没を免れた2隻の漁船が停泊しているが、乗組員達は船内に留まっていて、デッキ上には出ていない。どうやら船同士は接触していない。浮上してきた潜水艦が網に引っ掛かったのだから、漁をしていたのだろうし、乗組員達が発砲してきたのも、違法操業であるのを漁船団が認識していたからではないかと見られていた。

中国の食糧事情も当事故に影響を及ぼしたと考えられている。バクテリア汚染した石油が齎したエンジン故障から幸運にも免れた漁船に、どうしても負荷が掛かる。 少しでも多くの海産物を獲得して、市場へ提供して欲しいとの通達が各省の共産党支部から出ていた。突然、市民の食を守る責任感のようなものが船長と乗組員達に課せられる。少しでも人民の食卓へ魚を届けねばという想いが、多少なりともあったのかもしれない。グアム沖でキハダマグロの群れに遭遇して「逃してなるものか」と領海内に踏み込んでしまった・・後日、船長が供述する事になる。

一連の策を練った新人作戦参謀である翔子は、人の生死が絡んだ事故が生じた事態に衝撃を受けていた。
「人工バクテリアをオイルプラントに投入して、軍隊の能力を著しく低下させる」これが想定外の結果を導いた。機体や戦車のエンジンが錆びついて稼働しなくなると、軍がガソリンや軽油を市場へ横流ししてしまい、民間の航空機、船舶、自動車のエンジン不良、故障へと広がっていった。故障原因の石油を市場に流通させたので証拠の石油が拡散してしまう。 一体どこから拡散したのか、横流し品だけに軍部が箝口令を引いたために原因の究明まで時間が掛かってしまった。このまさかの事態が事件を導いた原因と言えるかもしれない。
日本では頓に考えられない事象だった。結果的に沈没、乗員の行方不明、漁船の損失と、中国の水産会社や漁師たちまでも追い込んでしまった。

一人でも多くの生存者の発見を願い、翔子は娘の玲子とスービック市内の教会で祈っていた。
軍が石油を横流した時点で「これは僕も想像できなかった。君は何も悪くない。作戦の実行を決断したのも、全ての責任を負うのも、僕だ。君は何も気に病むことはない・・」
あの人はそう言って庇ってくれたが、実際に海難事故が生じてしまった事で、横流しが発覚した際の鬱屈した気持ちが、倍となって翔子にのしかかっていた。「仕方がない・・」と、また慰められるのも想像できるのだが・・早くモリに逢って懺悔したいと思いながら、教会で祈り続けていた。

ーーー
 
アンドリュース基地のヘリを操縦していたハッチェンス空尉は、中南米軍の小型無人機の能力に驚いていた。あれだけの数、目算で130機体はあろうか水面を事故海域から放射状に捜索する機体と、潮の流れに沿って上空を周回する機体とで分かれていた。転覆船のものと思われる漂流物が発見されると、潜水艦がやってきて停泊し、その下の海中を大型ロボットが捜索している。
ヘリの操縦交代と給油の為に、フリゲート艦のハッチに着艦する。ヘルメットを取って機体の外へ出た時に、見覚えのある塗装を施したプロペラ機が飛んでいるのを目にした。
「確か、大統領専用機って言ってたよな・・」ハッチェンス空尉は青が基調となった迷彩色のプロペラ機を目で追っていた。

フリゲート艦シンシナティの作戦室で、捜索活動中の中南米軍機の情報収集に当たっていたマクスウェル少佐は、米軍機との比較で中南米機各機の飛行時間の長さ、燃料補給回数の少なさに目を見張っていた。そもそもパイロットや哨戒担当者など、人員を必要としないので、交代要員も不要だ。燃料に関しても小型機で重量も軽いので、航続時間が長い。分析班は使っているのは水素燃料だろうと見なしていた。
通常の戦闘機、航空機では人員を交代し、燃料補給の他に機体の保守点検に時間を掛けるが、中南米機は潜水空母に着艦すると、燃料を搭載し終えると即座に離陸してゆく。
無人機なので安全性を確認しない訳ではなく、単純に機の性能と安全性が高いレベルにあるのだろう。
迷彩色の零式戦闘機がやってきたので、大統領機だと思ったが、操縦席に居るのはロボットだとの報告があった。モリ大統領は今は韓国に滞在している筈だ・・。

「フィリピンにベネズエラにもある大統領機と同じ機体があるとなれば・・頻繁にフィリピンに滞在しているのではないでしょうか。大統領のスケジュールを見ると・・週末の予定は記載がありません。週末はフィリピン周辺に居るとしたら・・」

分析班の一人がそう呟いた。確かに可能性は無くはない。しかし北朝鮮は国民投票を控えているので分かるにしても、何故、フィリピンなのか・・そこが今一つ釈然としないものがある・・。

米軍、グアムの第7艦隊、海兵隊、航空部隊が燃料のバクテリア被害にあったが為に、通常時の1/5の体制で救援活動を行っていたが、通常時の3倍相当の部隊を投入し、既に沈船の引き上げ作業に取り掛かっている。米軍ならば水深1960mの引き上げ作業ともなると、沈船の具合によっては作業を諦めるレベルらしい。そんな内容の作業を今日中に終えてしまう能力が中南米軍にはあるのだと言う。
モビルアーマーにモビルスーツ・・大型ロボットを開発製造し、量産化する能力はベネズエラと、近いうちに日本でも可能になるという。宇宙空間では、新型のモビルスーツと戦艦が現れたのが確認されており、火星基地の工業力がどのレベルに達しているのかよく分からない。月面に建設中の基地に隣接するように工場も建設されており、建設中の建造物や工場がどう進んで行くのかで、火星の生産能力を分析しようとしていた。
しかし、それが分かった所でキャッチアップしたくとも出来ない状況にあるのは、明白だった。根底の技術力すら追いついていないのだから、仕方がない。

沈船がモビルアーマー3体によって水面まで引き上げられると、グアムの海上保安庁と中南米軍のロボットが沈没した船の内に入った。海保の職員たちは操舵を行う艦橋室に入り遺体の検死へ、ロボット達は魚の冷凍庫内に入り、船が沈まないようにバルーンを膨らませて浮力を船に齎せようと作業に取り掛かった。14名の御遺体が操縦室で確認され、遺体が持ち運ばれると、空からの哨戒機とドローン、ヘリ等による捜索活動は中止となった。
後は事故調査委員会に委ねられる。グアムまで沈船が曳航され始めると、中南米軍はそれぞれの拠点へと散会してゆく。引上げ作業の一部始終を見ているだけとなった米軍関係者は、底知れぬ敗北感を感じていた。
事故調査を担当する者たちだけが、忙しそうに引き上げた沈船の各所を写真に取り、原因の究明に当たっている・・彼らだけが仕事があった。         ニューカレドニアに落ちた隕石が元となって沈没した艦の引き上げを、同じように指を咥えているだけの仏軍関係者の喪失感や軽い絶望感を受けたという報告内容を思い出していた。

ヘリで捜索任務に当たっていたハッチェンス空尉は、同僚達と慰労会と称して街へ飲みに出掛け、店内に居たチャモロ族の人々から、からかわれ、罵られる。   「君たちは何をしたんだ? 中南米軍の潜水艦は事故の予防が徹底しているというぞ。民間人を巻き込んだのは、これで何度目だ?」と。

殴りかかろうとした同僚を制止して、店を出る。
アジアに居場所を失くした米軍が、グアムに留まる意味合いは既に無くなっていた。サイパンもそうだが、経済的にはアジア圏内に組み込まれており、グアム政府、北マリアナ政府も、米軍との防衛協定に懐疑的だ。アメリカの戦略拠点としての意味合いも大きく後退しており、今回の事件で撤退の声が強くなるのは間違いなかった。
とは言え、グアム・サイパンから手を引き、ハワイに集結したとしても、同じように撤退の声は大きくなっていくだろう。もし、アジア資本が更に入ってグアム・サイパンが興隆しようものなら、ハワイも かく有りたいと願うようになるやもしれない。      

 ーーー

グアム沖の事故が発砲事件を兼ねた格好となり、双方が撃ち合った場所・・と言っても片方は漁船なのだが・・そこへ中南米軍を仲裁役であり、クッション材の様に送り込む判断が優先された。

長年啀み合ってきた米中の事件でもあり、韓国側も会談を途中で切り上げ、延期となった。結局、決まったのは4月から中南米軍の防衛協定を開始するだけに留まった。  
韓国側が求めたものが、何一つとして聞き入れられず、中南米軍は病院ですら韓国内に設置しないケースとなると報じられると、韓国の株価が下がった。
南米で展開している中韓合弁の自動車組立工場、部品工場等の権利を、シンガポールの投資会社に売却を進めていた中国は、韓国側と組もうと考えていた企業が買収を諦めたと伝えてきて、シンガポール企業に成り代わる投資会社、金融会社を新たに探す必要が出てきた。
合弁会社の権利売却が座礁して、中国資本の入っている自動車、半導体等の韓国企業の株価も下がった。買収しようと暗躍していたのが台湾企業だった、と漏れ聞こえてくると中止を決めた台湾の自動車会社と半導体企業に対して、英断だったと株価が上がる。

このまま買い手が見つからないのはマズいと中国側も焦るが、グアム沖の海難事故でそれどころでは無い。当てにしていた売却益もご破算となってしまったので、産業省の役人がアジア各国の投資会社に、コンタクトを取り始める。しかし、韓国に対する中南米諸国の関与の薄さと中国漁船の密漁や発砲までしてくる姿に快く応じる企業がなくなっていた。 
間が悪かったとしか言いようがない。

一泊二日のソウル滞在の工程が、数時間の会談だけとなり、タニア外相、櫻田副総督のペアはグアム沖の事件に関して日本政府と協議に向かう。
モリは東京では機から降りずに平壌に戻り、台湾総督府で極秘会談に臨んだ越山総督の報告を受ける。中韓の合弁会社を買収を計画していた台湾企業の中止を決断した「変節」は実は予定通りのものだった。半ば決定の様に周囲に情報を流して、他資本の牽制をして一本化しておきながら最終コーナーで「中止」を宣言して下駄を外した。
台湾企業にしてみれば、グアム沖の事件とベネズエラの韓国支援の欠落という、2重の不安要素がたまたま重なってしまったので、何の後腐れもなく下駄を外すことに成功した。
台北を訪れていた越山北朝鮮総督も、台湾総督もグアム沖の事件を受けて、小躍りしたという。「人が亡くなっているのに、何たる不謹慎か」とモリは越山から報告を受けて憤慨したが、久々の2人っきりの夜だと越山に宣言されて、怒りも有耶無耶なモノに転じてしまう。

仮病の越山総督は自室でモニターで鑑賞を決め込み、北韓総督府の会見場でモリ一人で会見に臨む。突発的な海難事故も発生し、関与した事でマスコミ各社からも要請も受けていた。ソウルを避けて平壌での会見に応じたのも、北朝鮮駐留の中南米軍から関係者の意見を聞いた上で会見に応じたかったが為だ。
会見場にはアジア各国のメディアが参集していた。平壌に支局を構えるマスコミの数が、台北、ソウルを上回り、北京・上海に肉薄しつつあるという。北朝鮮初の国民投票が近づいているのもあるのだろうが、嘗ての北朝鮮が大きく変貌した事も相応に影響している・・とモリは捉えたかった。

「・・今回のグアム沖の海難事故は一人も救出出来ない、最悪の結果となってしまいました。中南米軍は捜索活動に加わらせて頂きましたが、力及ばず、誠に申し訳ありませんでした。ご家族の方々にとって残念な結果となってしまい、また、至らぬ点がありました事、重ねてお詫び申し上げます」モリは暫く頭を下げていた。  

北韓総督府の報道官が下げていた頭をモリと同タイミングで上げると、記者会見開催を宣言し、記者からの質問を要請した。最初の質問は中国の新聞社だ。

「中南米軍に救助要請が届いた時間の経緯を教えていただけますでしょうか?」     

発砲、射撃が双方で発生したので、遅れたのだろうと断った上で、ベネズエラ政府に連絡があった時間を告げる。事故発生から2時間半近くが経過していた。連絡があった時点で恐らく船内の全員がご他界されて居た筈だ。捜索と沈船引上げの要請は米国・中国の双方からあったが、政府ではない非公式ルートだった旨は伏せる。米国、中国どちらからの連絡が早かったのかと中国の記者が問うので米軍が先だったと回答すると、中国人記者がバツの悪そうな顔をする。          

「避難民問題で、アメリカと中南米諸国との関係が拗れていますが、宜しかったのでしょうか?」台湾メディアが続いた。                  

「担当者の方が「北米の人々が、国境を越えて迷惑を掛けており申し訳ない」と開口一番言われたと報道官から聞いております。米国から要請を頂く前に、我々は出動の準備に掛かっておりましたが」   

「それはベネズエラであれば、迅速に対応できるというお考えがあったという事ですか?」

「海難事故が生じると、救助は一刻を争うものとなります。私共も海洋諸国ですので、暖かな海であっても軽視しません。今回は弾丸が飛び交ったので、救助活動初動の遅れが致命傷となったと考えております。船内に全員が留まったまま2000m近くまで沈んでしまったのですから。マグロ漁船ですから遠洋・外洋向けの転覆時の体制も整っていたのだろうと思います。南太平洋は深度があることも想定していたはずです。船の検証作業に委ねなければなりませんが、少なくとも私達はどのような装備があったのか、知らないまま周辺海域を飛んで捜索活動に臨み、沈船を引上げました。情報の提供がされませんでしたので、周辺の海流の向きや潮流の強さ、事故時の気候、風力などをバックデータ含めて掻き集めて、浮き輪で浮上していた場合、ライフジャケットのみの場合と幾つかパターン分析を行いました。       今回のデータ類は全て米軍に提供しましたので、事故分析班で活用いただけるものと考えています。また、再発防止の観点から当事国である中国とアメリカには、特に潜水艦浮上時、航行時の今後の安全対策をご提示いただきたいと要望したいですね。両国とも相応の数の潜水艦を保有されていますので」

実際は中国の梁振英外相から、事故発生して直ぐにモリの元へ、漁船と米軍が撃ち合い始めたという連絡があった。この時点で沈船引き上げ作業を想定してチーム編成が始まったのだが、中国側がその後に完全に沈黙したのは、「違法操業していた網に潜水艦が引っ掛かった」という事実が露呈するのが嫌だったのだろう。船体同士が接触した転覆事故だと主張していたものが、引き上げ船にも潜水艦にも跡が無く、編みを巻き上げるウィンチに損傷が確認できれば、網を出していた事になり、違法操業を認めることになる。引き上げ作業を回避したいと考えていた可能性がある・・。米軍は一刻も早く引き上げて、真相を究明したかったのだろう・・。

「中南米軍のドローンとモビルアーマーを補助的に使った、潜水艦安全航行のノウハウを各国へ公開するお考えはありませんか?」韓国のメディアだ・・何故、手に入れる事ばかり考えるのだろうか・・

「軍事機密に該当する内容ですので、お答えできません。申し訳ございません・・」
機密事項だとすると、記者が黙り込んだので、モリは続ける。

「体制が整ってから発表しようと考えておりましたが、このような惨事が生じてしまいましたので、この場を借りて、各国政府に連絡致します。中南米軍は世界各国で生ずる、今回のような海難事故、地震・噴火などの各種天変地異が発生した後の、レスキュー部隊であり、復興事業に従事する部隊を世界各地に派遣致します。今回は海洋型モビルアーマーに沈船の引き上げ作業を担いましたが、昨年のピナツボ火山噴火後の復旧作業などで、モビルスーツと人型ロボットを被災地に派遣し、作業を迅速に進めました。                これまでロボットの開発に注力して来ましたが、必ずしも兵器としてではなく、様々な用途や場面でロボットが活用できるよう取り組んできたつもりです。日本とベネズエラにしか無い技術だと自負していますが、地球のいかなる場所であっても1時間以内にこのレスキュー先行部隊を派遣できる輸送力も兼ね備えております。ご活用いただけると幸いです」       
発言後に記者たちが挙手する。「中南米軍が事故現場や被災地に向かうという話ですが、これは国連などの組織と協議されたのでしょうか」

「いえ、第三者の関与はありません。複数の拠点が介在して遅れ兼ねない可能性は排除します、何よりも人命が優先されますので。
例えば、間に国連のように24時間体制で対応できない組織が間に入れば、連絡のやり取りだけで救出の機会を逸してしまいます。出動の要請をいただければ迅速に現地に派遣出来る、そんな体制を構築しようとしています。体制が完全ではありませんが、例えば今にでも何かしらの災害が発生すれば対応致しますので、要請いただければと考えております。

今回のグアム沖の事故の様に、双方の間で発砲が生じれば、それだけで初動の遅れに繋がります。米軍が銃火器の応酬が生じている状況を含めて報告しながらも、我々に対応の要請をしてきました。方や、中国側からは公式な連絡は未だにありません。人命の重さに対する両国の受け止め方が異なり、違法操業をしていた事実に触れたくないが故の、ダンマリなのかもしれません。もし、中国海軍と中国漁船の衝突事件であったならば、レスキュー部隊の出動要請は中国からは来ないかもしれないと、邪推してしまいました。我々は自己防衛的に、事故発生、災害発生時刻から各国政府からのレスキュー部隊派遣要請までの時間を抑えておく必要性を、今回の件から学びました。例えば「先ずは自国で対応してみたが、時間が掛かるのが分かった。これから現地に向かってくれないだろうか?」と言われたら、部隊を派遣する意味あいが大きく薄れたものになるかもしれません。派遣したあとで今回の様に何ら成果が得られず、ご家族から「何の役に立たなかった」と、対応の遅れを指摘されて、我々が告訴される可能性もゼロではない とも考えました」

ネーション紙の安部記者が手を上げているので、手を差し伸べて質問の機会を与える。

「中国側からその後の連絡が無いと大統領はおっしゃいました。中南米軍が、告訴されるケースが生じるかもしれないという可能性も含めて、言及されました。それでも中南米軍はレスキュー部隊を用意し、備えようとしています。国によっては災害が生じてもベネズエラに相談しないかもしれません。それでもレスキュー隊の計画をベネズエラは続けるのですか?」

「ええ。軍隊に所属するロボット達がレスキューのノウハウを身に付けて行けば、国際社会に多少なりとも中南米が貢献出来ると考えています。戦闘行為が減少する軍が、軍事以外に活動の場をひろげてゆくのも、ロボット工学の進展には自然と繋がると捉えています」

ロボットの活動範囲をレスキュー分野に拡げると、様々な場面で必要な機能、あったら良い機能と、開発する上で様々なオプションや筐体設計を考える情報が得られる。ワザと欲しい情報を取得するのが目的と、俗な話をしておく。ボランティア活動を装いながら、それなりにメリットはあると知ってもらうだけでいい。

「そのレスキュー部隊ですが、韓国内に置かれる予定はないのでしょうか?中南米軍は韓国内に駐留しないと聞いておりますが・・」また韓国の記者だ。先程の質問とは違うメディアのようだが。

「はい。もし韓国内で災害が起きれば、当面はここ北朝鮮の部隊が、来年以降はチベットか、旧満州経済特区の中南米軍が対応させていただきます。そこは日本で災害が生じても同じです。日本の場合は自衛隊に災害対策部隊が独立していますし、韓国には韓国軍があります。即座の対応に関しては両国内で賄えてしまいますので、幾ら中南米軍が、対応が早いと言っても自衛隊と韓国軍には初動では敵いません」

自衛隊を持ち出して、韓国での駐屯について伝えると、不思議なもので誰も本件に追加の質問をすることは無かった。
会見を終えると、越山の移動用のワンボックスカーに乗り込み、越山・櫻田の2世帯住宅に向かった。

(つづく)

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