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フルスペックでの“キングス vs キングス”は前代未聞!? ~Bリーグの映像制作、著作権、放映権~

2020年3月21日、Bリーグにおいて画期的な試みが行われました。

新型コロナウイルス感染拡大の影響で公式戦開催を中断したBリーグ(その後シーズン中止)において、琉球ゴールデンキングスは『団結の力』プロジェクト “キングス vs キングス”と題してチーム紅白戦をTwitterでlive配信を行いました。無観客の全座席に「団結の力Tシャツ」を設置して、ファンとの繋がりを感じさせる素敵な演出!

試合は以下よりフルで視聴可能です。

試合は6分の4クォーター制で行われました。試合内容もかなり本気のぶつかり合いで見ごたえ十分でした。

今回の “キングス vs キングス”、公式戦中止となったファンを喜ばせる企画でしたが、「会場設営・演出」「試合映像制作・放映」という点においても非常に考えさせられるものでした。今回のnoteはその点について述べてみます。

「フルスペック」の会場設営・演出

この無観客の試合、キングスは仮設席、コートマーキング、照明、BGM、会場内広告看板と、会場細部に至るまで完全に公式戦と同じ「フルスペック」の会場設営を施しました

このフルスペックの設営にかかる経費は「500万円以上」です。観客収入も無いし放映料も入らない文字通り「一銭にもならない」事にここまでの経費をかける心意気がスゴいです。

キングス木村社長がこの “キングス vs キングス”にかけた思い、当日の会場設営の様子や負担については以下のインタビュー記事で詳しく答えています。

このフルスペックの会場設営、演出は、キングスの「興行主としての興行開催能力の高さ」を見せつけました。今回私が一番驚愕した点はここでした。

繰り返しになりますが、この “キングス vs キングス”は観客も入らない、Bリーグ放送にも流れない、琉球ゴールデンキングスを運営する沖縄バスケットボール株式会社「だけ」が実施した企画です。

つまり、リーグもテレビ局もバスケットliveも実際の企画運営には関わっていない。なのに公式戦と全く同じ事が出来る。キングスは全て自分たちだけで公式戦スペックの興行を開催できる設備、人材、ノウハウ、協力会社を抱えている事を意味します

特にカメラワーク。完全に公式戦と同じ。明らかに公式戦と同じカメラスタッフ、制作スタッフがこの試合も担当しています。この事実は次に述べる今後のBリーグの放映権ビジネスと大きく関係してきます。

”Twitter”でライブ配信出来た事の意義

今回、前代未聞だったのが ”Twitter”でライブ配信を実施した事です

なぜ前代未聞だったのかを話す前に、Bリーグ放送についてまとめです。

Bリーグはソフトバンクと2016年より4年125億円のメインスポンサー契約を行い、2019-20シーズンはソフトバンクが提供する「バスケットlive」にて全試合配信、ソフトバンクからのサブライセンス契約(?)によりDAZN、スカパー、Amazonプライムビデオでも視聴可能でした。またNHK BS、BS12トゥエルビでも月1試合程度ですが放送されていました。

放送映像は、バスケットlive・DAZN・スカパー・Amazonプライムビデオはすべて同じ映像、実況解説で放送されており、それらは「制作された同じ映像をそれぞれのプラットフォームで配信」しているものでした。(NHK BSは独自映像、実況解説)

Bリーグはリーグ自身で試合映像を制作してそれを各プラットフォームに提供しているのです

この「自前で試合映像を制作する」事はBリーグビジネスの根幹であり、「著作権」と「放映権」に大きく関わります。

映像の「著作権」は一般的にはその映像を製作した者に認められるため、Bリーグの試合映像は「Bリーグ」が著作権者となり、DVDパッケージ販売や過去試合のネット配信等の二次利用から得られる収入もリーグ収入となります。

ソフトバンクは、Bリーグが著作権を持っている試合映像を放送する「放映権」を持っている、という事になります。(逆にNHK BSが放送している試合映像はNHK BSが著作権も保有している事になります)

参考:スポーツ中継映像にまつわる 著作権法の規律と放送権

ちなみに、Bリーグの映像制作は以下会社が行っている様です。Jリーグの映像制作もこの会社みたいですね。

参考:B.LEAGUE 映像利用規程

Bリーグの映像ビジネスをまとめた上で、さて本題です。

今回のTwitterライブ、これは

①Bリーグ主幹試合(公式戦)ではないのに、Bリーグ主管試合と同様の映像制作を実施した

②Twitter、という今までリーグが一度も試合配信した事が無いプラットフォームにて配信した

という2点において前代未聞でした。

①についてはこの試合映像は「誰が著作権者なのか」という点。キングスなのか、Bリーグなのか。著作権に絡む収入があるならば誰の収入となるのか。

その事からも、この “キングス vs キングス”は「一銭にもならない」からこそ各種権利など色々な制約を超えて実現可能になったことが分かります。

事実、この “キングス vs キングス”の試合映像はメモリアルDVDとして「中止になった観戦チケットと交換」として提供され、一般販売は行いません。

上記事によると

>販売商品として必要な権利等の諸条件をクリアしておらず、非売品として制作発注をしておりますため、一般販売することができません。

つまり、映像制作はBリーグ自身が行っているが、パッケージ販売などは放映権を持っているソフトバンクとの契約も大きく絡んでくるため、「映像データは自分のとこにあるからDVD販売しよー」という事は出来ないのですね。

②については、一度も配信した事の無いプラットフォームであっても同じクオリティーの試合映像を配信出来る、Bリーグの試合放送は配信媒体に全く依存しないという事実が明らかになった点。

2019-20はソフトバンクとのメインスポンサー大型4年契約の終了年でした。そしてスポーツ放映権は世界中で高騰しています。

新型コロナウイルスによる混乱によって、Bリーグの映像制作能力の高さを証明してみせたのは何とも皮肉でしたが、将来に向けてのリーグビジネスの大きなアドバンテージでもあります

特にOTTと呼ばれるネット動画配信は、ソフトバンクはスポナビライブで撤退した一方、DAZN、Amazonはスポーツ中継で勢力拡大中ですし、Netflix、Hulu、Disney+なども確実にスポーツ中継に絡んでくるはず。

個人的には、今ソフトバンクと袂を分かつ理由は無いので、これからもソフトバンクと協力体制で行くとは思いますが。

放映権ビジネスは以下記事がとても分かりやすいです。

いかがでしたでしょうか。ビジネス面においても前代未聞だった “キングス vs キングス”。一日でも早く今まで通りスポーツを楽しめる世界に戻る事を願って書きました。今はStayHome!

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