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歴史を積み重ねるということ

2021年12月。初めてアウェー取材。しかも2週連続。裏話じゃないけど取材の記録として書いてみる。


そうだ 宇都宮、 行こう。

沖縄バスケ情報誌OUTNUMBERにとって、琉球ゴールデンキングスは最も注目を集めてくれるコンテンツだ。

そのキングスがBリーグ全体首位を快走中。戦いぶりからも今季は優勝が現実的な目標として見えてきた。

優勝したその時に取ってつけたような言葉を並べるのではなく、いまこそ力を入れて取材するタイミングじゃないのか。

理屈っぽいけど急に突拍子ない事をするのは昔から変わらない僕。

12月のキングスはアウェー戦が続くスケジュールで、しかもその対戦相手が素晴らしい(ストーリーを描く上で)

宇都宮、渋谷、横浜、三遠

全てのチームに、キングスとのストーリーを持つ人物がいる。決めた。


そうだ 宇都宮、 行こう。


第10節 GAME1 宇都宮ブレックス戦

12月4日(土)5日(日)のホーム富山戦、相手のヘッドコーチである浜口炎さんが凄くいいコメントをくれた。ちなみにこの質問をしたのは僕ではなく地元テレビ局琉球放送の片●さん。いい質問ありがとうございます。

また、富山の浜口炎HCも、同じくプロコーチとしてbjリーグ時代から何度もキングスを苦しめてきた。浜口HCに、桶谷HCがキングスに復帰して久しぶりに対戦した感想を聞いた。

「大ちゃん(桶谷HC)がB1に戻ってきてくれたのはとても嬉しいです。彼がキングスの文化を作ってきたと思うし、強いチームを作り上げてきた。彼が戻ってきた事で、選手の顔つき、雰囲気も良い。(ヘッドコーチとして)タレントを上手く使う采配もあり、短い準備期間だったが、負けられない(アルバルク東京との)開幕節を2つ勝った。本当にさすがだなと感じています。」

浜口HCは常にキングスの好敵手となる良いチームを作り上げてきた名指揮官。その人が桶谷HCを『大ちゃん』と呼んで懐かしむような笑顔で話してくれた。

長く第一線で戦う者同士。もちろん交流もあるだろう。ただファンには見えない部分かもしれない。その人間味が感じられる部分をコンテンツとしてどう表現するか。こちらがどんなに脚色しても『大ちゃん』という呼び名より関係性を表現することは出来ない。色々なヒントを得た瞬間だった。


そして桶谷HC。この富山戦の記者会見で、僕は桶谷HCにアウェー連戦について質問した。もちろん自分がアウェー取材に行く事を見越してストーリーに連続性を持たせるためだ。

12月5日の富山戦後、桶谷HCに、伊佐HC率いる渋谷戦への抱負を聞いた

「(アウェイで対戦する宇都宮、渋谷は)強いチームなので、どれだけ自分達が満足できるプレイ、冷静に自分達のパフォーマンスが出来るかが重要になってくる。」
  〜(中略)〜
「(厳しいスケジュールで)色々な逆境が出てくると思うがそれでも、七転び八起きじゃないですが、常に立ち上がるチーム、立ち上がる人間が、最終的には強いチーム、強い人間だと僕は思っています。」
「そういう強いチームになるための、ひとつのテストだと捉えて、そこにしっかり向き合いながら戦っていきたい。」

桶谷HCが素晴らしいと感じるのは、メディアが使いやすい「映える」言葉を意図してチョイスしてくれているところ。プロとは何たるかをしっかり考えている。昔の桶谷HCはどうだったのか。機会があれば聞いてみたい。

「強くなるためのテストだ」という言葉を持って、僕は宇都宮に飛んだ。


宇都宮ブレックス。琉球ゴールデンキングスと同じく地元に根ざした人気球団。何より元キングスヘッドコーチの佐々宜央さんがアシスタントコーチだ。

佐々さんがキングスHCをシーズン途中で辞任して約2年。辞任も本当に急だったし、その直後に古巣のブレックスに復帰した事もあり複雑な思いだったファンもいるだろう。

ただ、佐々HCによってキングスは本当に強くなったし魅力あるゲームを何度も見せてくれた。

佐々さんが去って、敵として沖縄に戻ってきた事はまだ無い。いずれ敵として戻ってきた時に、最高の拍手と最大のブーイングで迎えたい。そうなるために少しでも役に立てたら。佐々さんに話を聞こうと決めた。

宇都宮ブレックスにダメ元で佐々ACへのインタビューを申請してみた。こちらの緊張をよそにブレックスは快くインタビューを承諾してくれた。


そして12月11日(土)のキングスvsブレックスは、残り0.9秒の逆転劇。

遠征前に桶谷HCが「必ず逆境が来る。アウェー連戦はそれに負けず立ち上がるチームになるためのテスト」と話していた通りの展開。

マジか桶さん。予言者か。と興奮しながら記者会見での質問内容を考える。

「選手達に、今日は何点をつけてあげたいですか?」

桶さんの笑顔を引き出せた。我ながら良い質問だった。


そして息つく間も無くバタバタと佐々さんのインタビュー。ああそうだったここからが今回の大仕事だった。ボイスレコーダーのスイッチを入れながら佐々さんにご挨拶。

「わざわざ沖縄から来たんですかー。何でも答えますよー(笑)」と気さくな雰囲気の佐々さん。初対面だけど色々話してくれた。

あと、沖縄県の人は「沖縄が大好き」ですよね。県外に住む方々も沖縄県人会を作って集まっているくらい、沖縄への情熱がある。

まさか佐々さんからこの言葉が出るとは思ってなかったのでハッとした。

そうなのだ。僕も含めて沖縄の人は「沖縄が大好き」なのだ。佐々さんは沖縄が大好きでバスケが大好きな沖縄人のなかで頑張っていたのだ。

自分のキングスでの別れ際も複雑なものもありましたが、今でも本当に沖縄は大好きです。

佐々さんへのインタビューで「辞めた理由」は絶対に質問しない、と決めていた。過去を掘り返すような下世話な事はしたくない。でも佐々さんは自分からこの言葉を話してくれた。それだけでこのインタビューは成功だった。


第12節 GAME1 サンロッカーズ渋谷戦

伊佐勉さんがアシスタントコーチに就任した2017-18シーズンから、サンロッカーズ渋谷はキングスにとって特別な存在になった。

ムーさんと桶さんの対戦は特別だ。価値がある。それをどうコンテンツとして作り上げるか。こちらの腕の見せ所だ。

宇都宮ではひとりだけの取材だったが、渋谷では協力してくれる中野さんというフォトグラファーと一緒に取材。中野さんとコンビを組むのは初、というかリアルでも初対面。取材前にホットコーヒーを飲みながら記事のイメージを共有して青学の体育館に入る。

結果的にこの記事イメージの共有が本当に大切だった。


試合自体は大差がついてしまった。試合経過で緊迫感ある内容にするのは難しい。記者会見でどこまで引き出せるか。

アウェーチームの桶さんから記者会見が始まる。同じく取材に来ていた琉球新報の長嶺記者が「ムーさんと久々の対戦の感想は?」と質問すると、桶さんは「いやー懐かしかったですよね」と目を細めて笑顔を見せた。

その瞬間、僕はカメラ席の中野さんに目配せした。「この笑顔」を撮って!彼女も一瞬で察知してシャッターを押し続けた。


そしてホームチームであるムーさんの記者会見。大差での敗戦に険しい表情で会見が続く。何とかムーさんの表情を崩してくれる瞬間を作らなくちゃ。

僕は質問の最後に「沖縄のファンも、ムーさんが敵として帰ってくる時を心待ちにしていると思います。」と伝えると、冗談好きのムーさんは「それまでクビにならないように頑張ります」と悪戯っぽく笑った。

もちろん中野さんはその笑顔も逃さなかった。


ホテルに帰りデータ整理すると、中野さんはコーフリッピンの躍動感溢れるゴールアタックもファインダーに納めていた。記事サムネも決まった。

僕にとってもアウェーの渋谷で、僕らはチームで記事を作り上げた。

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第13節 横浜ビー・コルセアーズ戦

渋谷戦の翌週、クリスマスのアウェー横浜戦。さすがに3週連続アウェー取材とはいかず、沖縄からzoomで試合後の記者会見に参加。

横浜ビー・コルセアーズの青木 勇人さんはキングスbj初優勝時に大事な役割を果たしたベテラン選手だった。その時のヘッドコーチは桶さん。ここにも大事なストーリーがある。

この日の記者会見には岸本選手も出席してくれた。次戦は山内盛久選手のいる三遠戦。このストーリーの種も逃すわけにはいかない。(岸本選手の記者会見リクエストをしたのは僕ではなく大●和○さんだったのは内緒だ)


第14節 三遠ネオフェニックス戦

そして12月29日(水)のアウェー三遠ネオフェニックス戦。こちらも沖縄からzoomで試合後の記者会見に参加。

三遠の広報さんにお願いして山内選手の記者会見をリクエスト。この日の試合は大差でキングス勝利。山内選手のイイ顔が欲しい僕にとってはまた難しい状況だったが、そこはさすが山内選手。質問によって気持ちを切り替えて時折り笑顔も見せてくれた。

この4人(山内選手、マクヘンリー選手、並里選手、岸本選手)が一緒にプレイしていた事を、今のキングスファンで知る人はたぶん少ないだろうし、また昔を知ってるファンからしてもすごく楽しみな試合だと思います。

そうか。もう山内選手がキングスを離れて5年目になるのか。本人から言われると改めて感じる。


歴史を積み重ねるということ

今季のキングスはここまで絶好調だ。今季は本当に優勝するかもしれない。その瞬間、大手メディアは何と表現するだろうか。

雑草から優勝へ

盛り上がる沖縄のプロスポーツ

そんなとこだろうか。

悪くないけど、それだけじゃ表現として足りないんじゃないだろうか。

前述の山内選手のインタビューで、彼はこんな事を言った。

また、新しい沖縄の子供たちに、県外に出ても沖縄の選手や元キングスの選手たちは今も頑張ってるんだよ、と見せる場だと思っているので、そんな子供たちに良いものを見せられるよう、楽しみながらプレイしたいと思っています。


沖縄にとってキングスは、いや、沖縄から飛び出して全国の舞台で活躍するウチナーンチュは、それだけで価値がある。


今回の取材中、僕は知人にこんな質問をされた

「アウェーまで追っかけて取材するのは『キングスへの愛』からですか?」

僕は即答した。

「いや、キングスではなく『沖縄への愛』からです」


もしキングスがBリーグという舞台で真の日本一になったら、その優勝に価値があるのではなく、沖縄と共に積み上げてきたその歴史に価値があるのだ。

師走の1か月をかけて取材してきた中で、その思いをさらに強くした。

その思いを胸に、僕らは2023年に向けて積み上げていく。その道程にこそ価値があると信じて。

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