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チケットはただの入場券ではない ~Bリーグ決算考察① 琉球ゴールデンキングス入場料収入編~

どうも。プロスポーツがどうやって稼いでいるのか、おはようからおやすみまで四六時中考えているTaiyoです。

前回のnoteは、がっちりマンデーに取り上げられた琉球ゴールデンキングスの儲かりポイントを私なりに解説したツイッターまとめでした。

では、実際の決算報告の金額も見比べながら、さらにキングスのスポーツビジネスを営業収入項目ごとに深く掘り下げてみましょう。

2016-17シーズンより2018-19シーズンまで3シーズンの琉球ゴールデンキングスの決算報告が以下となります。

2016-2018比較_琉球

参照元:クラブ決算概要 - B.LEAGUE(Bリーグ)公式サイト

では、今回のnoteは入場料収入についてソースを交えながら掘り下げます。

Bリーグ1年目~3年目の入場料収入・入場者数

入場料収入
2016-17 ¥228,745,000
2017-18 ¥291,003,000
2018-19 ¥355,863,000
入場者数
2016-17 99,615人(30試合) 平均3,320人
2017-18 107,824人(30試合+2試合) 平均3,369人
2018-19 118,417人(30試合+6試合) 平均3,289人

参照元:Basketballnavi.DB

キングスのホームアリーナ沖縄市体育館の収容客数は約3,200人です。つまりキングスはBリーグ1年目から全試合満席(フルハウス)を達成しています。もう入場料収入は天井が見えている状態がずっと続いています。2017-18からは2年連続地区優勝でCSホーム開催権を得る事で、入場料収入がさらに増加しました。

チケットの価値への強烈なこだわり

キングスが2007-08の設立当初から強烈にこだわっている事は「チケットの価値」をいかに高めるか

キングス取締役のジュン安永氏は、下の動画にて「チームの価値はチケットに反映される」として、チケットがちゃんと売れる、つまり有料観客にこだわる経営モデルについて熱く語っています(動画43分頃)

事実、キングスは設立当初から今日に至るまで、団体チケット割引は行っていてもタダ券ばらまきによる入場者増はほぼ行っていないはずです

2018-19の入場料収入とチケット価格、入場者数から推測しても、有料観客数100%である事が分かります。

2018-19の各チームの決算報告とチケット価格表、入場者数から推測しても有料観客数が100%近いクラブはキングスと宇都宮ブレックスくらいです。現在のBリーグにおいてもタダ券による集客はかなり存在するはずです。それほどハードルの高い有料観客にこだわる経営モデルをキングスはいかに作りあげたのでしょうか。

ポイントは「顧客データを集めろ」「全席指定席への挑戦」「シーズンシート最優先主義」です。

顧客データを集めろ

キングス創設者の1人である大塚泰造氏は書籍「メディアをつくって社会をデザインする仕事」で以下のように語っています。

ぼくらスポーツチームの運営側は、チケット販売を業者に委託するのが一般的です。 (中略)  ここでの問題は、販売業者が誰に売ったかがぼくたちにはわからない、という点です。 (中略)  だから顧客情報を管理するためのシステムを自社でつくったんです

これ、最近の話じゃないですよ?bj2年目ですので2008-09、今から約10年前から自社で顧客情報の管理・分析に投資していたんです。言葉では簡単ですが、当時規模が小さいクラブにとって大きなチャレンジだったはずです。

この本には「いかにチケットを売るか」当時キングスが行った様々な施策が紹介されています。奇をてらった策ではなく、どれも顧客分析に基づいた施策。ぜひ読んで欲しい1冊です。

そしてbj7年目の2013-14、顧客データベースを活用してキングス独自のオンラインチケット販売・チケットレス入場を開始します

現在のBリーグ入場料収益の中核システムであるBリーグチケット、そして携帯電話を活用したチケットレス入場。キングスはBリーグ開幕前からそれらを独自で完成させ、どんどん入場料収入を拡大させていきました

全席指定席への挑戦

Bリーグ初年度の2016-17、キングスは日本プロバスケ界初の全試合・全席指定を開始します。

全席指定化の持つ意味は「前売り券での完売が前提」「チケット販売窓口の一元化」「入場料収入の先取りが出来る」ことです。そして全席指定化は、従来のチケット販売方法だと想像以上にハードルが高いです。

全席指定だと、試合当日会場でのチケット販売はほぼ想定していません(試合開始直前に指定席選ばせて売る手法は現実的じゃない)。席確保の入場並びもありません(立ち見券は並びます)。キングスは、それまでのデータから前売り券で完売させる事が可能であると予測出来ていた事になります。顧客情報の管理が成せる業です。

指定席は紙チケットの場合、販売窓口を1か所にしないと絶対に効率的な販売はできません。なぜなら、その座席の紙チケットは1枚しかないはずなので「Aの窓口には1階席エンド」「Bの窓口には2階席」と、自分が欲しい座席を買うのにどの窓口で売っているか調べてその窓口まで行って買うはめになります。キングスはすでにチケットレス販売そして販売窓口をほぼ一元化していたため全席指定に踏み切れたのです。

また、全席指定の一番のメリットは「入場料収入の先取りが出来る」ことです。前売り完売を前提にしているため、試合開始前それもかなり早い段階で入場料収入が入ってきます。これはクラブのキャッシュフローにとって非常に大きなインパクトです。素人考えですが、5,000枚当日券が売れる事と、数か月前に3,000枚前売り券が完売する事はクラブ経営にとってほぼ同じ価値、もしかしたら前売り券完売の方が価値は高いかもしれません

そして今季2019-20より、キングスは前売り券販売時期を開幕前とシーズン中盤の年2回に少なくしましたつまりクラブは入場料収入を年2回で先取り出来る構造になっています。さらにキャッシュフローが安定している事でしょう。

シーズンシート最優先主義

プロスポーツの本場アメリカでは、各チームはシーズンシートをいかに売るかを基本戦略としており、シーズンシートホルダーはそれ自体がステータスとなっています。なぜでしょうか。

おそらくシーズンシートこそが「入場料収入の先取り」の最たるものだからでしょう。シーズン開幕前に入場料収入が入ってくる。その資金を使って収入アップの施策を打つ事が出来る好循環が生まれてきます。

キングスはシーズンシートの購入率・継続率が高く、2018-19には1階席ほぼシーズンシートで完売という状況が起きました

もちろんキングスはシーズンシートホルダーを最上級顧客と位置付けて各種サービスを提供しています。

BリーグのBチケットも、システムをシーズンシートにも対応させ、さらにシーズンシートの2次流通を公式システムとして立ち上げる話も進行中です。

これらの流れから考えると、シーズンシート優先主義はこの先のトレンドになるはずです。

余談ですが、シーズンシートホルダーとファンクラブ会員、あなたはどちらを顧客としてプライオリティが高いと位置付けますか?

キングスは、シーズンシートホルダー>ファンクラブ会員、と位置付けているはずです。現在のファンクラブシステムは、おそらく音楽業界で「アーティストのライブチケットを優先購入できる」ことをメリットとして出来上がったシステムで、いつも同じホーム会場で興行するプロスポーツにおいては、シーズンシート購入が普及すればファンクラブの存在意義が薄れてくると個人的には思っています。

いかがでしたでしょうか。単なる入場者数ではなく「入場料収入にこだわった」キングスの先見性が見えてきたのではないでしょうか。

次回は、キングスのスポンサー収入について掘り下げてみたいと思います。

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