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【詩】はじまりのうた

十両列車を見送るごとに
回る風車は遠ざかり
わたしは立ち止まれないまま
往来をゆく夏を見る
木陰のあった十年前
翠の君の笑い声は
静かでもない公共広場で
わたしの鼓動に音を与えた。

鳴らない鐘を何度鳴らし
帰らぬ時間を何度想い
今日まで人は生きてきたか。
この風向きは百年前
とうに決められていたのに。

今日の天気をわたしが知って
それを君に伝えるまでに
既に消えた生活音が
鼓膜の中で聞こえている。

だから蝉は歌うのだ
過ぎゆく夏とその生を
だから君をうたうのだ
一度しかないその声を

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