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【時事抄】 中小企業の倒産、とある一事例

中小企業の倒産件数が急増しています。せっかくコロナ禍を凌いだのに、当時の緊急融資の返済が始まり、事業継続が難しくなるところが出てきています。倒産が倒産を呼ぶ「連鎖倒産」の頻発が懸念されます。

物価高や円安による各種原材料費の高騰に加えて、人件費を上げないとヒトが集められないという事情が重なり、中小企業の置かれた経営環境は一段と厳しくなっているからです。

ある印刷業者の破綻を報じた、日本経済新聞の記事を見てみます。

<要約>
東京・東池袋の東京スガキ印刷が、東京地裁へ自己破産を申請した。60年にわたる事業は、相次ぐ取引先の倒産によって生じた多額の債権貸倒れで資金繰りが困難となり、ついに事業継続を断念した。

◆新型コロナで外食向け需要減少、赤字
1953年に設立された同社は、64年に別の一族が経営を引き継ぎ、高度経済成長の波に乗って拡大した。同族経営を続けるなかで、大手印刷会社から雑誌の表紙や帯を受注すべく関連工場を設立、技術を高め、業績を拡大させた。

08年には本店社屋を新設し、カタログ、ポスター、パンフレットを中心とした商業印刷、化粧品・健康食品の化粧箱のパッケージ、店頭ディスプレーや広告、フィルムの印刷も手掛けた。企画、デザインから配送までを一貫体制で取り組める強みを活かし受注を増やした。

09年20億円だった売上が18年には28億4千万円まで伸ばした。しかし、黒字経営は継続していたものの、競争激化による価格競争の影響を受け、利益率は低く、採算割れギリギリの状態が実は続いていた。

そしてコロナ禍。得意先だった飲食関連の受注が激減し、イベントの中止や延期、広告の自粛も続いて値下げ要請も強まり、20年に最終赤字へ転落した。22年、23年も最終赤字となって資金繰りが厳しくなる。22年に4代目新社長が就任して業績好転を図るが、23年秋には資金繰りに窮し、一部株主から複数回に渡って3億円の借入れをして凌いだ。

◆取引先倒産で焦げ付き発生
24年に入り取引先2社が倒産した。埼玉県の印刷業社の倒産で4800万円の貸倒れ、東京都内の企画制作会社の倒産で640万円の貸倒れが各々発生した。綱渡りだった資金繰りがさらに逼迫し、新たな資金提供先を探すが交渉は不調に終わり、4月5日期日の支払手形の決済が難しくなったという。

そして4月5日朝、帝国データバンクに倒産の一報が入った。前日付けで東京地裁へ自己破産申立てたといい、その旨を記載した破産手続開始通知書が事務所入り口に貼られていた。負債は17億713万円、債権者184名だった。

◆印刷業の倒産、2年間で2倍に
帝国データバンクによると、23年度の印刷業者の倒産は全国98件だった。年々増加傾向にあり、東京スガキ印刷の倒産は社歴や負債規模から見て今年を代表する印刷業者の倒産例になりそうだ。高齢化が進む印刷業者は、取引先のDX化進展で、事業拡大や新規開拓をしない限り、業績の維持が難しい。

(原文1949文字→1018文字)


コロナ禍、売上減少した個人事業者や中小企業に対して、「実質無利子」「無担保」で融資を行ったのが、通称「ゼロゼロ融資」です。コロナ禍が始まった20年から開始され、政府系金融機関は22年9月、民間金融機関は21年3月まで新規貸付の受付をしていました。

一定の条件のもとで、個人事業主には最大6千万円中小企業には最大3億円が「実質無利子」で借りられ、返済停滞時でも元本の8割あるいは全額を信用保証協会が肩代わりする仕組みでした。

実質無利子とは、利子の支払い免除期間が設けられているという意味で「実質」と称され、免除期間は3年間で設定されていました(免除期間の利払いは国が負担)。当然4年目から利払いが発生します。

倒産件数は、コロナ禍の21~22年はむしろ少なく、23年以降から増加傾向にあり、今後も増えることが予想されます。倒産が倒産を呼ぶ「連鎖倒産」に巻き込まれる懸念があります。借りれる時に借りておいて、中小企業や個人事業主は手元現金を手厚くしておくこと。資金繰りが厳しい状況に至っては、どこも貸してくれなくなるのが現実です。

帝国データバンク『倒産集計』(2024年 1月報)

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