鑑賞ゲリラ Vol.46『見えないルール』レポート(1) 2024/6/12開催
開催情報
【開催日】2024年6月12日(水)
【会場】See Saw gallery + hibit
【展覧会】「積み重ね」
会期:2024年5月11日(土)~ 6月22日(土)
【出品作家】
横野明日香(YOKONO Asuka)
内容
作品
《自然》2023 油彩、キャンバス
真っ白な壁に展示されたその作品は、抑制された色彩やその表現が、見る者の心に静かに留まり、やがて深く揺さぶる。
近づいたり離れたりしながら、何が見えるのか、その先には何が在るのか、自由に語り合ってみた。
鑑賞内容
ファシリテーター(以下 F):まず、少し遠めから観てみましょう。何が見えますか?
▶緑が濃い時期の山の風景だと思う。遠くに山があって、手前がおそらくカルデラ湖なのではないかと思う。
(これは風景なのではないか、という意見からスタート)
▶緑色の水の部分に、ものすごく存在感がある。サラッとした感じではなく、トロッとした感じに見える。その部分にすごくインパクトがある。
▶緑地帯が、同じ緑でもまろやかな部分と尖った様な部分がある。澱んではいない静寂さを醸し出している。
(緑色の存在感に注目が集まる、色の醸し出す多様な表情や表現の考察)
F:皆さん、少し近づいて観てみましょうか。
▶水の所だけすごくキラキラしてるなと思った。
・・・ここです、あ、近づくとこの辺もキラキラしてるんですねぇ。
(しゃがんでご覧になり、別のキラキラ箇所も発見)
(他の鑑賞者も、それぞれの立ち位置や、窓からの陽光で絵肌がキラキラと光って見えることを発言)
F:これまで風景という意見がありますが、他の意見はありますか?
▶山と尾根とカルデラ、風景画だと思って最初見ていたけど、周りの白のコントラストや、後ろのトンガリも気になって・・・シュルレアリスムというか、白の所は髪の毛、トンガリは鼻で、そこに布が被ってて、横たわっている人かもしれない・・・と思ったわけではないけど、そうも見えてくる。
(風景ではなく作家の心象風景も混じっているのではないか・・という新たな考察)
▶白いシートの真ん中に水がたまって稜線が出来る、要はカルデラ湖みたいに・・・そっちじゃないかなと思った。ぐにゃっとシートが曲がったところに水が溜まった・・・山を見て描いたのではなく、何かを見て山として描いたんじゃないか。
(先ほどのシュルレアリスムを受けて、更に、見立て、という別の概念のご意見)
▶最初に見た時に布だと思った。何かすごく尖っているモノの上にサイドまで布を被せた人工的なものに見える。
風景画に見せながらも、色々な見え方が入れ子構造になっている、そういうトリックがあるかもしれないなと思った。
(それは実は作家の得意とするところの意図的なものではないかという意見)
F:人工的な要素はどのあたりですか?
▶もし山並み(具象)なのであれば、もっと光について考えるはず。この作品はどこもかしこも陽が当たっているようで、当たってもいない。雲が流れているわけでもない、全て捨てちゃって山の様な何か・・・。
F:すごく抑制されて研ぎ澄まされてますね。更に何かありますか?
▶白さがあまりに自然の中にあるにしては白すぎて、むしろあふれてきている滝に見える。
▶峯のラインとか線に迷いがない。雲もない、陽光もない。色々無くすことに迷いがない。
F:情報いれますね。これは阿蘇に訪れた際に、ヘリから見た中岳第一火口です。広大な景色を俯瞰で眺めたと思われますが、この構図改めてどうでしょう。
▶自分が見た光景と、人がこう見てるっていうイメージを全部重ねた時に、最大公約数?をここに集約できるように余計なものを取っ払って、これは間違いないという要素を絵にしたのでは。
最大公約数(イメージ)の集約、という興味深い意見が出たところでタイムアップ。
その後は、過去作品と比較して、細かい描き込みや、ストロークが更に複雑で厚塗りになっていること、火山活動が現在も続いていることから、本作品はうごめいている、現在進行形で生きている絵であることなども話題となった。
10年という歳月で柔らかく変化した部分と、一貫して信じた事の積み重ねが、更に横野さんの確かな個性となっている気がした。近づくとその手仕事が、離れるとその風景が立ち上がってくる。抑制され、削ぎ落されたその風景は、観る者に想像の余地を存分に与えてくれた鑑賞会となった。
【ファシリテーター・レポート】取嶌朋子
【鑑賞時間】約 22 分