鑑賞ゲリラ Vol.29 『眺むれば、ただ・・・』レポート(1) 2023/6/24開催
開催情報
【開催日】2023 年 6 月 24日(土)
【会場】See Saw gallery + hibit
【展覧会】衣真一郎 個展「横たわる風景」
会期:2023年5月13日(土)~ 6月24日(土)
【出品作家】衣真一郎(KOROMO Shinichiro)
内容
作品
《TOWN》2019 油彩、キャンバス 60.6×72.7cm
鑑賞の記録
ファシリテーター(以下F) が、角度を変えるなどしてじっくり見ることを促す。
▶キャンバス右側は山。道がクネクネと続く。ロープウエイっぽいものが見える。階段がある。
▶手前(鑑賞者側)の高いところ、同じ高さから見た山を描いた風景画。目の前にどん!とある。
F:どこからそう思いましたか?(判断材料は?)
・・・視点に関して尋ねる。
▶描かれた家や道路を上から見た感じ。
▶家は立体的なのに(具象)、空がデザイン的(抽象)まとまらない感じ、バランスが面白い。夢みたい。
▶階段、ロープウエイ、クネクネ道など平面に見える。空は、空というより住宅街の景色。町っぽい。人の目は平面立体と見分けがつくけど、遠くのものはわからない。どこから見たというよりは、あちこちから見たのではないか。
▶四角のドット絵みたい。オブジェクトが重なっているみたいそれらが組み合わさった絵だと思った。部品みたい。テトリスのよう。
F:キャンバスの下の方が立体的で、上の方が平面的ということですか?
・・・キャンバスの画面構成を確認、一同頷く。
F:他に気づいたところは?
▶緑(色)が癒される。子供の頃、山麓に住んでいたので癒された。くねくね道の先に神社があるようだ。心象風景のよう、季節は夏に向かっている。空らしきところの雲は透明で透けて見える。立体的ではない。街かな...いろんなところに行かされている(連れて行かれる?)感じがする。グレー、薄いブルー、白がいいな。今は暑いし。(この絵は)頭の中なのか、現実なのか、どちらにしても癒される。
F (雲を指差して、透けているところを確認する)
・・・色彩から受ける印象をリフレイン。鑑賞者から別の読み解きが上がる。
▶クネクネ道を、自分は人生のどの辺りを歩いているのかなと思った。ロープウエイのところは焼き場(火葬場)でもいい。清々しい気持ちになった。土に還るのもいいな。所々にあるビビッドな赤で元気が出る。道のり(坂道)歩きたい。気持ちいい。と、前向きなコメントが続く。
F:赤は人生の陽気ポイント?人生ぽい。
・・・鑑賞者によってモチーフが現れたことを示す(意味の正誤は問わない)
▶(私たちは)のぼる話しかしていない。上り坂。
これが(色が濃くて形も違って)おどろおどろしい色なら山が圧迫感があるように見えるだろう。描かれているのは清々しくいいイメージ。下りより上り。カーブが凄そうだけどのぼりたいと思う。辛くなさそう。
▶緑が綺麗。緑は曖昧な色だから好き。緑が心の状態。緑は中途半端な色と言われている。
▶心が落ち着く。ポジティブなイメージ。道の描き方に特徴があるかな。幅もグニャグニャで生き物のよう。上手くない手描き。
F:道路整備されていない。綺麗でない道。
・・・色に加えて線の歪さからの印象であることを確認。
▶上空にある櫛みたいなのが印象に残る。橋があるのかな。
▶平面デザイン的と思ったけど、移動して座って眺めたらとても立体的に見えた。舞台の書割みたい。白い空間があって遠くに持っていかれる気分。別の絵に見える。
衣さんの絵画の心地よさに浸かる中でタイムアップ。
タイトルが《Town》と知り驚く皆さん。画中のクネクネ道は榛名富士の実在する道で、走り屋にはお馴染みの道路(漫画『頭文字D』にも登場)だそうだ。アーティストトークで、衣さんの原風景であることを知り、いくつかの質問を投げかけることでさらに新鮮な思いにふける皆さんでした。
【ファシリテーター】松村綾子
【レポート】大野有紀子
【鑑賞時間】25分
衣さんの作品は色の軽快さと歪な形が絶妙なバランスで配置されており、風景画でありながら抽象画の要素もあり、視点だけでなく意味をも定めさせない面白さがある。キャンバスに置かれた絵具が密であったり疎であったりするのが解像度を上げ下げしているようで、なるほど私たちは風景を見るときにこのようなことを瞬時にしているのだなと思わさせられた。
画面構成から水平に広がる風景(画面下方)と縦に立ち上がる風景(画面上方)が作り出す空間に意識を向けても面白い展開となっただろう。鑑賞ポイントの多い作品だった。(大野有紀子)