地金の輝きを追求してみたい──夜空に煌めくジュエリーの作り手 cotori.さんインタビュー
台東区花川戸、浅草駅から徒歩5分の場所にあるcotori.さんのアトリエに訪問しました。また、代表の山口さんにお話をお聞きしました。
お話をお聞きした方
cotori. 山口 龍平さん
ジュエリーブランドcotori.の代表・デザイナー・製作。
シュトラール加工というオリジナル加工を施したジュエリーと、天然石を使用したジュエリーを取り扱っている。
高校時代よりジュエリーの道を志し、高校卒業後は日本宝飾クラフト学院に入学。ジュエリー会社を経て2012年独立。2020年にオリジナルブランドを開始。
他にはない繊細な輝きを持つ地銀のアクセサリーや、使う人のことを考えて設計するアクセサリー作りが強み。
アトリエ プチレポート
普段は予約制のアトリエ、隠れ家的な空間です。
「どのようになっているんだろう…」と1階の靴屋さんから入り、階段を登ります。
先にある扉を開けると、1階の靴屋さんの商品がずらりと並ぶ中に、cotori.さんのジュエリーが。2つのジャンルの商品が並ぶ、面白い空間です。
天然石を使用したジュエリーと、
天体をモチーフとしたジュエリーが並びます。
天体をモチーフとしたジュエリーは、シュトラール加工というオリジナルの加工を施しています。
控えめにキラキラしていて、まさに”繊細な輝き”。
角度が変わると輝き方がまた変わり、音にしたらサラサラ…と聞こえそうです。
ぜひ、みなさんに実物を目にしてもらいたいです。
「見てみたいけど、いきなりアトリエはハードルが高いな…」という方は、ぜひポップアップ(販売会)へ!スケジュールはInstagramで確認できます。
(アトリエも、静かで落ち着く空間ですよ◎)
インタビュー
シュトラール加工
ーーシュトラール加工とは、どのようなものですか?
地金を1つ1つ手作業で打ち込むことで、繊細な輝きを生み出す加工です。コピーのできない輝きが強みです。
ーー Byakuya、konjiki、mayonaka、3つのシリーズを展開されていますが、それぞれのコンセプトや違いを教えていただけますか?
Byakuya(びゃくや)は、白銀のシリーズです。身に付けやすさとコーディネートのしやすさを考えました。
Konjiki(こんじき)は、18金のシリーズです。ゴールドの輝きを最大に活かす加工を考えています。
mayonaka(まよなか)は、銀を燻した黒のシリーズです。古来からある技法と現代の加工の融合がテーマです。
ーー「星雲」「オーロラ」をモチーフにしたアクセサリーを主に作られていますね。
シュトラール加工から生み出される繊細な輝きを、より魅力的に表現できるのが天体のモチーフだと思い、製作しています。また、自身が天体が好きだったこともあります。
ーーシュトラール加工は、どのようにして生まれたのですか?
シュトラール加工が生まれる前は、オリジナルコレクションでは天然石のジュエリーを製作していました。その過程で、「天然石は綺麗だけど、オリジナリティをより出したい」「地金の輝きを追求してみたい」と考えました。
磨き方自体は、”鑽という工具で輝きを出す”という江戸時代からある技法なのですが、鑽に工夫をして、輝きに特徴を持たました。
天然石のジュエリー
ーー天然石はどのようなものを取り扱っていますか?
発色が良く、ファッションの視点から見て綺麗で、また天然石好きさんに好まれるような石を選んでいます。
例えば、ロンドンブルートパーズ。群青が美しい石です。
また、こちらの指輪(下の写真)は、オレンジムーンストーン・ピンクオパール・スイスブルートパーズなどを使っています。
製作・仕事で大切にしていること
ーージュエリーのデザインはどのように着想を得ていますか?
自身が美しさと魅力を感じるかと、身に付けたいと思えるかを考えて作っています。
ーー ジュエリー製作で、こだわっていることはありますか?
手にとってくださる方、購入してくださる方へ量産品ではできない価値を提供したいと思っています。使う人に、少しでも気分が明るくなってほしいという気持ちで作っています。
ーー 仕事をするうえで大切にしていることはありますか?
主に2つあります。
1つめは、身に付ける人の事を考えることです。
どんなスタイルが好みでも楽しんでもらえる、出来るだけ幅を持たせた製品を提供できるように考えています。
お客様のご要望に合わせてデザインをすることもあります。こちらのリング(下の写真)は「指を隠したい」というお客様のご要望にお応えしてオーダーで製作し、他の方も購入できるようシリーズ化しました。
また、ネイルをしている人でも身につけやすいかどうかを確認するために、自分でつけ爪をしたり、ネイルをしている人に試してもらったりしています。
2つめは、自分一人で仕事をしていると思わないことです。
サポートしてくれる方、お店に立っていいよと言ってくれる方がいるおかげで今の自分がいると思っています。
販売会について
ーー様々な販売会に出店されていますが、どのようなご感想をお持ちでしょうか?
購入してくださる方の趣味や困りごとを聞けて勉強になります。
例えば、パールのネックレス(下の写真)が頭から被ってつけられるという理由で、ネイルをしている方や肩を挙げるのがつらい方に好評だったり、バイオリニストの方が長さ・バランスがぴったりという理由で3つの長さを重ね付けして購入されたり。自分だけでは気づかなかった需要を発見できます。
また、色々な土地で色々な方に会えて楽しいです。
ーー販売会ごとに違いはありますか?
販売店様ごとにターゲットの違いがあるので、販売店様に合わせてラインナップを変えています。例えば、ある販売店様では50代のお客様が多いとお聞きし、そのような年代の方が好みそうな透き通った天然石をそろえたりしています。
販売会は、お客様に求められるモノ・場所であったり、自分が必要とされている層を探す、テストマーケティングの要素も兼ねています。
ーーテストマーケティングですか。
はい。10~20代の女性がターゲットのファッションビルに出店したときはちょい売れ程度でしたが、どんなお客様がいて、どんな商品を見ているか勉強になり、いい経験になりました。
また、リアル店舗とECサイトでは、お客様が「ECサイトにあるならそっちで買えばいいじゃん」と店舗で買わないのを避けるため、売るものを分けています。
そのため、リアル店舗では、その場でしか買えないものが並びます。「ここでしか買えない」ということで買ってくれる人はいらっしゃるのですが、逆に、ここでも買ってくれないことは需要に合っていないと考えています。
「なぜ売れる?なぜ売れていない?」というのは、常に分析するようにしています。そして、売らせていただくところには、数字で貢献したいと考えています。
ーーどのような商品がお客様に手に取っていただけてるのでしょうか。
シュトラール加工は、オリジナルブランドを立ち上げるにあたってオリジナリティを出し、目に留まりやすく・訴えかけやすいものとして作ったのですが、実際に手に取っていただけるものはシンプルなものや色石が多いです。
そのような傾向を踏まえて、今後、シュトラール加工のシリーズでは、シンプルで身につけやすいものを展開したいと思ってます。自分のオリジナリティのある商品を作りつつも、需要に合わせる努力も必要だと考えています。
ジュエリーの道を志し、台東区へ
ーージュエリーの道に進んだきっかけは何でしたか?
高校生の時から鉱物のジュエリーが好きで、自分でも作ってみたいと思ったことがきっかけです。
ーー高校生のときからジュエリーの道に進むと決めていましたか?
はい。高校卒業後には日本宝飾クラフト学院(台東区)に進み、ジュエリーの勉強をしました。このころからずっと台東区にいます。
専門学校卒業後は、ジュエリーを制作している会社に就職しました。
会社では、工場で仕上げをする上での部分的な加工から始まり、ダイヤモンドの取り付け、オーダーのリングの製作などを行っていました。結婚をするタイミングで、今後のライフスタイルなどを考える中で、より今後の自分の生活に合いそうな会社にご縁があり転職しました。
その後、今から10年ほど前の34歳の時に独立し、しばらくは前の会社の仕事を引き継ぐ形で行っていましたが、今から2年前にオリジナルブランドを開始しました。
ーーオリジナルブランドは、どのような経緯で立ち上げたのですか?
コロナ禍が来て仕事がぱたっと止まったときに、取り組みたいことのリストを作って、一つ一つ、つぶしていきました。その中の一つが、自身のジュエリーブランドの立ち上げでした。
元々、「20代は修行」「30代は実績作り」「40代でオリジナルコレクションを発表」と思っていましたが、予定より少し早めのスタートとなりました。
ブランド立ち上げの際には、TAITOSAMBAに参加し、講師の尾崎佳貴先生(中小企業診断士)に相談をさせていただきました。
また、什器・ウェブサイト制作・商品サンプル・リーフレット作成に小規模事業者持続化補助金を活用しました。そして補助金に採択された後に、コレクションを発表しました。
ーー 起業をしたてのころの自分に伝えたいことはありますか?
「もっと気楽に考えていい」と伝えます。
当時は、「頑張らないとだめだ」「男なんだから」といった言葉をかけられる事があり、それを正面から受け止めて、頑張りすぎて、しんどくなっていました。
当時の自分に会ったら、「頑張るのが当たり前」を受け止めすぎなくていいよ、と声をかけたいです。
ーー 台東区産業振興事業団は、どのようにして知りましたか?
経営相談ができる場所を探して知りました。事業団さんには寄り添った支援をしていただいて感謝しています。
ーーありがとうございます!台東区のイベントにも色々参加してくださっていますね。
これまでにTAITOSANBA、ビジネス交流フェスタ、台東区産業フェアといったイベントに参加しましたが、他業界の方とも知り合うことができて楽しかったです。
ずっと一人でやっていると、客観的な視点を持つことが難しくなってくるので、他の方とつながりを持てることはとてもありがたいです。身内だと、差しさわりの無いコメントだったり、逆に思い入れが強いあまり猛烈なダメだしを受けたりするので、冷静に見てくれる第三者がいてくれるのは助かります。
実は、台東区産業フェアがきっかけで多慶屋さんのポップアップに出店することになりました。多慶屋さんは、「台東区の企業はみんなチーム」と、地元企業を応援してくださっています。また、いろはめぐりさんから取材を受けるきっかけにもなりました。
ーー最後に、今後の抱負をお聞かせください!
まずは、海外販売を積極的に行いたいと思っています。
現在、東京都中小企業振興公社の支援を受け、台湾やアジア方面への越境ECサイトの出品準備をしています。日本で出品するのと勝手が違い、試行錯誤しながらですが、手厚くレクチャーしていただきながら進めています。
また、新作で天然石とシュトラール加工を融合した商品を出したいと思っています。このような、やりたいと思っている取り組みを具現化していきたいです。
将来的にはよりレベルを上げて、台東区で事業を大きくしていきたいと思っています!
編集後記
山口さん、ありがとうございました!
今回「NGはありません」のお言葉に甘えて、製作のお話に加え、ビジネスに関するお話もお聞きしました。
インタビューの中で、多くの方に対する感謝の気持ちを丁寧にお話されていたのが印象に残っています。
また、アトリエでアクセサリーを試着させていただきましたが、どれも綺麗で気持ちが明るくなりました。
特にシュトラール加工のアクセサリーは、実物はより一層素敵です。ぜひたくさんの方に見てもらいたいです。(プロのカメラマンも輝きを再現するのが難しいそうです…!)
cotori.さんがこれから発表される商品や、事業展開が楽しみです。
この記事は(公財)台東区産業振興事業団 中川が担当いたしました。
企業情報
企業名 cotori.
所在地 東京都台東区花川戸1-13-14(アトリエ・予約制)
WEB https://cotori-jewelry.com/
Instagram https://www.instagram.com/cotori.atelier/