真白と機械仕掛けの輪舞曲
目の前に死体がある。
日常茶飯事な光景らしい。
正確に言うと“まだ”死体ではない。
パルスシグナルで構成されたドラッグの様な音楽のリズムに合わせるよう、目の前に横たわる体軀が未だ脈動しているからだ。
メタンフェタミンと似てるようで似ていない快楽物質<エミネント>をキメることがマナーになっているこの場所では誰もそれに気に留める様子は無い。
「どう、簡単でしょ」
色彩も濃淡も無い口調で、僕の脳内を覗き見しているかの様にそいつは飄々と話しかけてくる。
「貴方は自由にしていいのよ、それが貴方のチカラなのだから」
目の前にある肉片と化してしまった“モノ”見ながら、僕の思考パルスは今鳴り響くUKハードコアと同じBPM182を刻む。
エミネントと硝煙の薫りが混ざり合い、この世と思えない多幸感を僕の中に生み出していた。
そう、僕は確かに殺したのだ。生まれた時から右手に在る、この銃で。
地上に戻ると雨が止んだ後のじめっとした空気感が立ち込めていた。
トリップから覚めつつある僕の思考は、曲がり角のないラウンドアバウトの様に堂々巡りをしている。
「これで良かったのかな、真白」
「これが良かったのよ、琥珀」
僕の迷いを全て断ち切るかの如く、少女は言う。
「貴方は自分の生きる目的を見つけたのよ?」
少女とは思えない程、首筋から足先までの艶かしい曲線を持つ体軀を活かす術を完全に理解している様な身体のラインを際立たせる純白のロングニットを着こなす一方、少女という事実を思い出させるように、首をクイっと30度傾げさせながら真白はいう。
「それでもまた迷う時は、またこの場所で同じようにヤればいいわ」
息が詰まるような人混みと喧騒のなかでも真白の声だけは僕の中にドラッグの様に溶け込んでくる。
「そうか……そうかもな……」
僕は歩き出した。この身体をこんな機械仕掛けのアーティファクトにした奴らを殺すためだけに。
これが“俺”の人生が始まった瞬間だったのだ。
【続く】