見出し画像

ライカの「撮影体験」とは何なのか。

こんにちは、フォトグラファーの吉田タイスケです。
さて、またライカの話ですいません(←毎回あやまる)。

先月ライカM10-Dを買って以来、ますますM型ライカに、というか「レンジファインダー」にハマっています。それまでと比較すれば、パラダイムシフトと言ってもいいような撮影体験の魅力はどこにあるのか?というのが、このnoteです。

・ミラーレス一眼とレンジファインダーの違い

いろいろありますが、最大の違いは「ファインダーでレンズが見たままの世界を撮るかどうか」です。以前にnoteで「構図を追い込めない」ところがまさにレンジファインダー(ライカ)の特徴であり、それが長所にもなると書きましたが、構図だけではなく、レンジファインダーではファインダーが素通しのガラスなので、「レンズのボケ味」「画角」も正確には確認できません。正確に確認できるのは「ピント」のみ(それがすごいんだけど)。

つまり、レンジファインダー機は「まあ、だいたいこう写るだろ」という世界を撮っているんです(!)。ライカのファインダーに表示されるそれぞれの画角のブライトフレームだって、「だいたい」を示しているに過ぎません。

M10-D, Elmar 35mm f3.5

・「世界を切り取る」ことと、「世界を受け入れる」こと

M10-D, Apo-Summicron 50mm f2

それに対して一眼レフやミラーレス一眼は「レンズを通して自分が見た世界」を「見たままに」切り取ることができる、というカメラです。

「今私が見た(感じた)瞬間の世界」をファインダーの四角で正確に切り取るのと、「まあ、だいたいこれくらいの範囲で写るかな」という撮影では、もうね、ショートケーキとお好み焼き、ビールと牛乳くらいの違いがありますよ!!←例え、、。

今まで仕事も含めずっと一眼で撮ってきた自分にとって、レンジファインダー(しかもM10-Dは背面液晶がないので、画像の確認もできない)の「だいたいでいいよね」は、おおげさに言えば「カメラを通じた世界との対峙の仕方」をひっくり返されるくらいのできごとでした。

M10-D, Elmar 35mm f3.5
M10-D, Elmar 35mm f3.5

・寄れない、ボケない35mmのススメ

そしてその「だいたいの世界(←なんだそれ)」を急激に加速させたのが、ライツ社が初めて手がけた広角レンズ、エルマー35mm f3.5という1938年製のおじいちゃんレンズの存在です。

86年前のレンズ。

最短撮影距離1m、開放f3.5というスペックは、否応なしに「一歩下がって撮影する」というスタイルをこちらに強いてきます。

M10-D, Elmar 35mm f3.5
M10-D, Elmar 35mm f3.5
M10-D, Elmar 35mm f3.5

それが意味するところは「ここだけを見てほしい」という「私」が消えていくという感覚でした。

これが「だいたいの世界」を撮影するレンジファインダー機と、めっちゃ相性がいいスタンスなんです。一歩引いて、目の前の余白も含めてあるがままに受け入れる的な(だって背景ボカせないし)。50mmじゃなくて35mmという画角もまた、絶妙に周りを写し込んでくれてレンジファインダー向きです。

自分という枠は小さいけれど自分以外の世界は無限に広がっていて、「そっちの世界」にどうアクセスするかが写真表現のひとつの鍵だと思うんですが、レンジファインダー機+ボカせないレンズという組み合わせは、写真を「自分から自由にする」有効な手段のひとつだなと、最近ひとりでニヤニヤ感動しています(←おかしいわ、この人)。

・M型ライカは究極のローファイカメラだった

M10-D, Elmar 35mm f3.5

M10-Dで撮影していると、自分がいちばん最初に使ったカメラ(コカコーラのおまけでプラスチックカメラだった)や、20代の頃に一時熱中していたロモやホルガなどのトイカメラを思い出します。それらのカメラはピント合わせも「人の上半身」「人の全身」「街」「山」みたいな大雑把なものしかないし、ファインダーはただの四角い空間だったりして、精密機械であるライカとは似ても似つかないんですが、ある意味「自由」という点で自分にとっては共通の存在なんです。

M10-D, voigtlander 40mm f1.2
M10-D, Apo-Summicron 50mm f2

100万円を超えるカメラが提供してくれる撮影体験が、「だいたいの世界が撮れます」ってどうなんだよって思う人もいるかも知れませんが、それがいいんです(←立派な信者)。こんなにカッコよくて自由なカメラはありません。

ライカは実はロモだった、というお話でした(違う)。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?