「冬の朝焼けが好き。」
「私、冬の朝焼けが好き。」
暖かくなってきた春のある昼下がり、彼女は僕にそういった。
ふたりで部屋にいて、ぽつりとつぶやいた言葉だ。
思わず笑ってしまった。
「なんで笑うのよ」
だって、あまりにも小説じみた表現を、お芝居みたいにきれいな声でいうもんだから、ちょっとおかしくて。
僕としては、そんな何気ない一言の理由まで聞いてみたかったけれど、
なんだかお互い恥ずかしくなってしまった。
それにどうやら、こういうのをずけずけと掘り下げるのは、僕の悪いクセらしい。
そんな会話からどれほど経ったか、ふと思い出して、でもやっぱり掘り返すのもおかしいので、僕は最近ハヤりのAIとやらに聞いてみた。
「ある女性」とかボカしておきながら、「なるべく情緒的な答え」なんてロマンを探そうとする、これも僕の悪い癖らしい。
なんだか長い。
ロマンもへったくれもないじゃないか。
「なるべく情緒的に」という僕の指示がどれくらい効いたのか――
いや、でも。よく読むと、
その瞬間の静かで穏やかな時間を彼に伝えたかったからかも
「あなたといると、寒い冬も美しく感じられる」
なんて書いてあって、情緒のわかるAIじゃないか、とも思う。
でも結局、彼女はなにを言いたかったのか。
本人に聞けば、こんな長文で返ってくるはずもない。
ない。ないんだ。
だって、彼女は人間で、もう僕の彼女ではないのだから。
ある日、彼女は「ごめんなさい」とだけ言葉を残して、いなくなった。
僕のもとから去っていった。
呼びかけることはできても、答えは返ってこない。
答えなんかないんだろうけど、それでもさ。
聞きたかったよ、答え。
僕が「え、どうして?」って、聞いたっていいじゃないか。
キミのこと、もっと知りたかったんだよ。
せめてもの救いを求める気持ちで、僕はAI相手にこう聞いた。
「ごめんなさい」
謝って、いなくなろうとするキミに、僕は何も返せなかった。
返さなかった。
人間とAIは確実に違うけれど、
キミと僕には、きっと似ているところがあったんじゃないかな。
わがままで、ごめん。
でも、一緒に見たかったな。冬の朝焼け。
(おわり)
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