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明日もいい日

11月22日。

”今日は何の日でしょう?”

昼前に起きると、ダイニングテーブルの上にメモ置きがあった。
三連休でも彼女は早くから仕事みたいだ。接客業とカレンダーは反比例。
メモの右下には「ごはん温めてね」とも。

葉子は、ほんとに優しい。

冷蔵庫の中から、フレンチトーストを取り出し、レンジで温める。
葉子の優しさを口に運びながら、問題の答えを考える。

なにか大事な用事を忘れていただろうか。それとも記念日?
やばい、何も思い出せない。
同棲生活は、こういう小さなすれ違いが命取りだ。

もう一度メモを読み直す。

犬、猫、やぎ、鳥、ブタ、ペンギン……
動物が並んだかわいらしいメモ帳に、小さな文字で書かれたなぞなぞ。
葉子は本当にマメだ。
ただの書き置きなんだから、こんなメモ用紙に几帳面に書かなくたっていいのに。

彼女のていねいな出題に、正解を探そうとした。
もしかして、なにか語呂合わせだろうか……?

いい、にーにー?ふーふー?
……いい夫婦の日?

いや、まさか。俺たちはまだ夫婦じゃない。
でも、葉子がなにか、待っているとしたら?

ぐるぐると考えたものの、突然の出題に似合う答えも、最適なプレゼントも用意しているわけはなく、メモ用紙にはこう記入した。

"11/22、いいにゃんにゃんの日?"
メモ帳の上にいた猫に、矢印を伸ばしておく。

夜遅く、帰ってきた葉子に答えを聞いてみたけれど、
笑いながら「違いますにゃあ」とだけ言われて、答えは聞き出せなかった。

11月23日。

”今日は何の日でしょう?”

新しいメモ用紙に、今日もなぞなぞが書かれていた。
「今度こそ当たるかな?」とも。

二日連続の出題は予想外。
昨日より緊張して真剣に考えたものの、やっぱり正解らしきものは……
でも解答は書いておかなければ。

”11月23日、いいふみの日かな。”
”いつもありがとう。遅くまでお疲れさま。”

なんだか恥ずかしくなって、正解は聞けなかった。

11月24日。

今日は俺のほうが早く起きるはずだったけど、葉子に先を越されてしまった。

テーブルの上には、メモ用紙。
昨日のものだった。

俺が書いた”いつもありがとう”の文字の横に、書き加えてある。
”手紙受け取ったよ”という文字と、小さな花丸。

今日も頑張ろうと思った。
こんないい日が、優しい毎日が、ちゃんと続くように。

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