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掌編『真っ白な世界の音』

世界は、音にまみれている。

大通りを走る救急車。
地下鉄の中の会話。
アナログ時計の秒針。
鳴り止まない雨の音。

スマートフォン、SNS。
動画の中で知らない人が笑っている。
しばらく会っていない友達は幸せらしい。
誰もがどこかで耳にしたような言葉をしゃべっている。

何も聞きたくなかった。
何も見たくなかった。
何も考えたくなかった。

耳を塞いだって、目隠しをしたって。
世界の雑音は消えない。

身体のあちこちから、穴の空いた心の隙間から、
否応なしに入ってくる。

心臓の音がうるさい。
自分の声がうるさい。

心にだって蓋をしたかったのに、尋ねてくる。
答えなんて、持ち合わせてないくせに。


「きみは、なにがしたいんだい?」


うるさい。
うるさい、うるさい!

生きる元気なんてない。死ぬ勇気だってない。
私はこの世界にまだ生かされていた。
生かされていたかった。

ぼんやりと、今日も世界を見上げている。
遠くにあざやかな世界があることを知りながら。
まだ、そちら側にはいけないらしい。

真っ白で、雑音だらけの世界。
凍える心に、震えた手で。
私は、今もまだ、自分の音を探している。


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