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ロボット劇作家の作品

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尾崎太祐が書いた脚本・小説をまとめたマガジンです。すぐ読める掌編が多めです。
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2022年4月の記事一覧

ショートショート「酔っ払いと立方体」

パンデミックに一区切りが付き、夜の街に活気が戻りつつあった。 知人との飲み会を終わらせて、F氏は帰路についていた。 駅まであと100メートルほどのところで、若い女性がなにやら行き倒れていた。どうやら酔っ払っているらしい。 「大丈夫ですか」 声をかけてみるが、反応はない。寝てしまっている。 F氏は困ってしまった。声をかけた手前放っておくのも気が引けるし、揺すり起こせば痴漢扱いされかねない。 彼女の家族や友人に連絡してやれるといいのだが。 F氏は女性の持ち物に目をやった。

ショートショート「おにいのーと」

年の離れた妹。 お絵かきに夢中だったのが、つい昨日のことのようだ。 保育園でクレヨンに出会ってからというもの、画用紙いっぱいの絵を毎日何枚も持ち帰ってきた。 「おにい、きらきらの絵、かいたよ!」 「おにい、ままとぱぱ、かいたよ!」 「おにい、ももたろう、かいたよ!」 目を輝かせながら、僕に見せてくる。 我が家は貧乏で、クレヨンや画用紙なんて買ってやれないから、楽しくて仕方なかったのだろう。 僕は妹にノートをプレゼントした。 授業で使う予定の大学ノートだったが、らくがき

ショートショート「朝のフシギ」

ある朝、O氏が目覚めると、枕元に小人が立っていた。 小人はひっそりと囁いてくる。 「今日、あなたが持っているY社の株が暴落します」 「なんだって」 「あなたは機を見て、Y社の株を買い増してください。あとで値上がりした際に、売り抜ければいいのです」 「やけに現実的な、現金なアドバイスをくれるじゃないか」 しかし、小人の予言は真実のようだった。 Y社が発表した新製品が不評を買い、株価は暴落した。 O氏は小人の言う通り、株を買い増した。 翌朝、またしても小人がいた。今度はこう

ショートショート「私はポケット」

ウチはポケット。 え?ヒトなのか?動物かって? ちゃうがな。"ポケット"やがな。 ほら、キミの服やカバンにもついとるやろ?その"ポケット"や。 なんで人名やねん! ったく、さっそく突っ込ますなよー! だいたいキミらはなァ、ウチらポケットに対する扱いがザツや。 何でもとりあえず「ここに入れときゃいい」思ってるやろ。 アメちゃんとか、ティッシュとか、ゴミとか。 特に最近多いのが、外したマスクな。あんなもん入れんなやー。 飯屋でとりあえず外すのは仕方ない。 でもなあ?ぐちゃ