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ショートショート「朝のフシギ」

ある朝、O氏が目覚めると、枕元に小人が立っていた。
小人はひっそりと囁いてくる。

「今日、あなたが持っているY社の株が暴落します」
「なんだって」
「あなたは機を見て、Y社の株を買い増してください。あとで値上がりした際に、売り抜ければいいのです」
「やけに現実的な、現金なアドバイスをくれるじゃないか」

しかし、小人の予言は真実のようだった。
Y社が発表した新製品が不評を買い、株価は暴落した。
O氏は小人の言う通り、株を買い増した。


翌朝、またしても小人がいた。今度はこう囁く。

「今日、あなたは職場の最寄りの交差点で車に轢かれそうになります。お気をつけて」
気をつけて、と言われてもどうすればいいかわからなかったが、きっとこれも当たるのだろう。O氏は細心の注意を払い、仕事に出かけた。

できるかぎり周囲に気を配り、いつもより時間をかけて職場の近くまでたどり着く。
すると、なにやら人だかりができている。サイレンの音が響き、慌しい様子だ。

「どうしたのです」
「ああ、今しがた、ここで車の衝突事故があって」

車に轢かれそうになるという予言も本当だったのだ。
O氏は肝を冷やした。
それと同時に、小人のもたらす予言が、自分を成功に導くお告げのように思えた。
これをうまく使わない手はない。


翌朝、またしても小人は現れた。
「今日はお休みですね。なにもせず、ご自宅でお過ごしください」

それだけだった。
こんなもの、予言でもなんでもないじゃないか。

「なにかできることはないのか」とO氏は食い下がり、小人からお告げを引き出そうとする。
「はて、なにをそんなにそわそわしているのです」

たしかに今日は休日だ。
しかし、なにもするなと言われると、どうにも歯痒い。

「ご自宅でゆっくりされるのが一番かと思います」
「いつもの休日のように過ごせばいいのか?」
「いえ、いつも以上にしっかりと、ご自宅で休養を」
「しかし……」

戸惑うO氏をよそに、小人は「ではまた明日、お会いできますように」と言い残し消えていった。

自宅は静寂に包まれ、ベッドに横たわるO氏は退屈だった。
天気の良い休日だ。どうにももったいない。

O氏はついに痺れを切らして、ベッドから起き上がる。
服装を替え、散歩に出かけることにした。
自宅の周りを散歩するくらいはいいだろう。庭みたいなものだ。
軽く運動をしていれば、退屈な気分も紛れるかもしれない。

O氏は自宅を出た。日の光は明るく、風は心地よい。
大きく背伸びをして軽く走り出した、次の瞬間だった。

身体中に激痛が走る。
なんだこの痛みは。
思わずよろめき、その場に倒れ込んだが最後、O氏はアスファルトの地面に突っ伏した。
起き上がろうとするが、もがくどころか、身体にまったく力が入らない。
さらには、意識すら朦朧としてきた。

どうなっている。
どうなっているんだ、これは。


O氏が次に目を覚ましたのは、ある未明、病院のベッドの上だった。
事情を理解する前に、小人のひっそりとした気配に気づく。
O氏は、思わず声を漏らした。

「これはどういうことだ」
「お伝えしたはずです。ご自宅でゆっくりと休養を、と」
「しかし、成功するためには、君のお告げを有意義に使わねば」
「なにをおっしゃっているのです。私はあなたの周囲で起こる不幸を伝えに来ただけですよ」

(おわり)


※このショートショートは #ショートショートnote を活用し執筆しました。(執筆時間:30分超)


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