短気すぎだろ!

ピーター・トライアス著、「ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン」(早川書房)を読んだ。表紙と最初の数ページに描かれているロボットの絵がかっこいいですね。海外のロボットのデザインは苦手なときもあるのだが、今回のロボットのデザインは個人的に好きだ。

ここから先はネタバレ。

舞台は第二次世界大戦で日本がアメリカに核爆弾を落とし、日本とドイツが勝利した世界だ。主人公のベンは日本軍に所属し、アメリカに住んでいる40(もしかしたら39だったかも、記憶があやふやで申し訳ない)歳の男性である。ある日昔の上官から怪しいメッセージを受け取るところから物語が動き始める。
全体を通して一番に思ったことが読みやす過ぎること。国内小説よりも翻訳された海外小説というのは読みにくいと一般的によく言われるし、私もそのように感じる。まあ少し読みにくい翻訳ものというのが私は案外好きなのだが。今回のこの小説は登場人物が日本の名前を持っているからなのかとても読みやすく感じる。実際、海外の名前の登場人物より日本の名前のほうが日本人の私にとっては親密感がある。私は、海外の名前というのはただの固有名詞に感じてしまうが、日本の名前というのはその名前からこんな雰囲気の人だろうとかが個人的には想像しやすい。
ただ、登場人物の名前が日本の名前だからというだけの理由でこの本が読みやすくなっているとは思えない。物語の中で日本的な要素がところどころ出てくるのだ。例えば三種の神器のモニュメントが出てくるシーンがあるのだが、海外の人がよくそんなこと知ってるなと思う。作家なんだからそれぐらい調べて書くのが当然だと思われるかもしれないが、もしそうだとするなら流石プロの小説家だなと思ってしまう。私たち日本人にとって日本文化というのは馴染み深いものであるが海外の方にとっては当然ながらそうではない。欧米の人たちからしたらアジアの一国に過ぎずよく知らない、という方が大半であろう。例えて言うなら日本人は北欧の国々というのはなんとなく分かるが一国一国がどのように違うのかよくわからない、というのと似たような感じではないだろうか。ただ、この本の著者が韓国ソウル生まれのアメリカ人で、宮崎駿、三島由紀夫、庵野秀明といった作家が好きなくらい日本文化が好きというバックボーンも考慮すれば、作品の中で、詳細で自然に日本文化が登場するのも頷けることなのかもしれない。
そして言うまでもないだろうが、ここまで読みやすくなっているのは翻訳の力が大きいということでろう。巻末の解説で大森望氏が本書の翻訳に対して「同業者としては嫉妬と羨望を禁じ得ない」とおっしゃられているので、やはり翻訳が素晴らしいことなのは間違いないのかもしれない。登場人物のなかで関西弁を使うキャラクターが出てくるのだが、原文ではどうなっているのか気になった。原文でも独特な英語表現になっているのだろうか。それとも、そのキャラクターを関西弁にしたのは翻訳の中原尚哉氏のアイデアなのだろうか。折木さん、わたし、気になります!

ストーリーは難しいところがあるわけでもなくテンポよく話が進んでいく。途中ロボットが出てきて戦うシーンもそんなに長くないしメインではないが、ある。レビューを見てみるとロボットの表紙の割にロボットのシーンが少ないという意見もあった。個人的には普通に楽しめたエンタメSF小説だったから、レビューサイトの意見は全体的に少し厳しいなあ、とも思った。

あと、準主役として出てくる槻野というキャラクターがいるのだが…
短気すぎだろ!
もうちょい頭使ってくれ!
とヒヤヒヤしながら読み進めました。


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