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【観劇レポ】正しくない!と言える強さ ミュージカル「マチルダ」

観劇レポ。日本初演の英国ミュージカル「マチルダ」です。5月と6月、大阪公演を2公演観てまいりました。どちらも席が1階の11列・12列の下手側でさすがS席!の観やすさでした。

日本で言う桃太郎や浦島太郎的な物語で、英国の有名なお話し。周りの観客を見ていても、広報の雰囲気を見ていても、ファミリー向けのミュージカルに仕上がっているのがよくわかりました。

キャストはこちら。

5/30マチネ
6/3マチネ

というわけで観劇レポです。お話しのネタバレ含みます。

ストーリー全般

冒頭は「奇跡」という楽曲でスタート。こどもを奇跡の存在と謳い、親バカとも言える親と子の愛が描かれる中、望まれずに生まれた子としてマチルダが登場。母は子どもより自分のダンス大会のことに夢中で、父は生まれてくる子を男と信じてやまない。華やかでコミカルなシーンですが、冒頭から考えさせる要素を入れてくるのが英国ジョークでしょうか。

物語はマチルダを中心に、マチルダが家で蔑ろにされる様子、現実から逃れるように図書館に通い頭の中に浮かぶお話しを披露する様子、恐怖政治を敷くトランチブル校長と気弱で優しいハニー先生のもとで様々なトラブルに立ち向かう学校での様子を行き来しながら進んでいきます。

図書館でマチルダの語るお話しは、マチルダが経験したことをもとにマチルダ自身が創っているように見え、実際お話しの中のセリフも、現実のシーンであった言い回しが使われます。そしてそれが観客にはコミカルに映るのが面白いポイントだったのですが、これが実はハニー先生の過去を見ていたというのがオチの1つ。
確かに冒頭、ハニー先生とマチルダが初めて会うシーンで、マチルダが何かに気付いたような顔で「あれは誰?」と聞くのを考えると、二人がすれ違った時に不思議な力で過去が見えた、ということなのかもと合点がいきます。2回目観た時に気付きました。いやーだからミュージカルは2回は観ないとダメなんですよね。

そして作り話がハニー先生の過去、つまり事実だと分かると、作り話の黒幕、つまり現実世界でもハニー先生を苦しめていた諸悪の根源が、トランチブル校長だったと判明するのがオチの2つ目。

そして不思議な力でトランチブルにしっぺ返しを食らわせてハッピーエンド…かと思いきや、ずっとマチルダの作り話を楽しく聴いていたミセス・フェルペスと、ハニー先生の口から、酷い家族から逃れられないマチルダの哀しい現実が語られる。

うわー、このまましんみり終わりか…と思いきやもう1回どんでん返し。最後はちゃんとハッピーエンドで幕を下ろすと。

よくできた物語だこと!!
コミカルシーン、しんみりするシーン、ドキドキ白熱の展開など、王道要素を盛り込みながら子どもも楽しめるファミリーミュージカルに仕上がっておりました。

楽曲

総括すると幅広かったなという印象。ロックテイストから情熱的なダンスナンバー、ほぼアカペラに近い聴かせる歌など。

作品として面白かったのは、学校初日に甘やかされて育った子どもたちが厳しい学校の現実に引きずり込まれる「スクールソング」。アルファベットの順番に単語が歌詞にはまっていて、ちょっと感動しました。音楽に合わせてアルファベットが書かれた箱が門の隙間に順番にはめられていくので、視覚的にもめちゃくちゃ聴いてて気持ちがいい。これ訳詞のはずなので、だいぶ苦労があったのではないでしょうか…。日本語発音に合わせてあるので、たぶん本国の曲を聴くと歌詞は全く違うのでしょうね。

個人的に一番心に刺さったのは、ハニー先生の「わたしの家」。貧乏だけど、つつましやかだけど、でも十分よと歌う愛しさと切なさと心強さと。「足るを知る」に通ずる思想があって、今の僕にクリーンヒット。

主要キャスト

誰もかれもエッジの利いた、個性的なキャラクター。マチルダは灰色の衣装である種の惨めさのようなものがありますが、他のキャラクターは個性に負けないド派手なカラーリングです。

主人公のマチルダ。5歳とは思えない知的な子。賢すぎて、マチルダに「共感する」のは難しいストーリーにも思えますが、一方でミセス・フェルペスの前では「両親に愛されている」とうそを言ったり、ハニー先生には心を開いて無言で抱きついたり、こどもらしさもある。「子どもらしくない子ども」って、周りから「すごい」と言われたりもするけど、結構孤独であることも多い。こういう役からはストーリー以上の想像をしてしまうなあ。

4人のクワトロキャストですが、僕が観たのは1回目が熊野みのりさん、2回目が嘉村咲良さん。セリフも多く難しい単語もたくさんある中、一生懸命演じている子役を見ていると、僕の中の父性が溢れてきて・・・という冗談は半分。僕はミュージカルを見るときは「子役を子役として見る」のは失礼だと思うので、いち役者として拝見しています。お二人とも、セリフは時々詰まったりもされていたけど、歌は力強く、小さな体を目いっぱいに動かして舞台を回していたのが印象的です。

トランチブル校長。茶色の衣装とごつい体格で恐怖の権化。トリプルキャストでしたが、僕は木村達成君と大貫先生Verを観ました。ちなみに女性役ですが、3人全員割とガタイのいい男性キャストです。

達成くんは、まず歌と足がきれい。ヒステリックではあるのですが、トランチブルの中にある僅かな(?)女性らしさも感じれ取れました。体育のシーンのミニスカートからのぞく足がきれいすぎて。男性の美脚っていろんなところで需要ありますよね。
一方の大貫先生。これは泣く子が更に泣く怪物。ヒステリックというかなんかもう恐怖の狂気。声が渋いから某大蛇丸を感じる。そして体育のシーンでのミニスカートからのぞく筋骨隆々な健脚。スカート姿での登場では、達成くんの時も多少笑いが客席に生じたけど、大貫先生の時はそれなりのボリュームで笑いが起こってた。脚をあげるたびにチラリズムする絶対領域の健脚が観客の語彙力を奪う。身体能力はもうさすがの一言ですね。大貫先生だもの。

ちなみに、子役が出るミュージカルは、大体カーテンコールは長引かないのですが、拍手が鳴りやまない場合は大人のキャストが締めに来てくれることがあります。今回はトランチブルでした。
達成くんは「はよ帰れ!」と言わんばかりの手振りで締め、大貫先生は拍手を盛り上げたあと「ちゃん、ちゃちゃちゃん」で締めてくれました。この拍手のリズム、今の若い世代分かるのかな…「笑っていいとも!」のあれです。

ミスター・ワームウッド。マチルダの父でおバカな詐欺師。緑のスーツがトレードマーク。基本的に愛すべきバカ、という感じなのですが、どこかで妻のこと大好きなんだなあというのが伝わるミスター。
我がマイフェアプリンス万里生さんと、「ハゲラッチョ」のトレンディエンジェル・斉藤さんのWキャスト。誰だ、このWキャストでキャスティングしたの。振れ幅。あいにく斉藤さんは観れなかったのですが、うちのプリンスがプリンスではない役に振り切ったご様子を堪能させてもらいました。

あのね。マイフェアプリンス万里生と言えばプリンスじゃないですか。フェルセン然り、フランツ然り。そうじゃない役でも滲み出るじゃないですか、お育ちの良さが。もうね、今回は全然感じない。あの美声もきれいな背筋もない、新しい万里生さんがそこにいた。マチルダの策略で帽子を接着剤で頭につけられて、外そうにも外せないという場面の全力変顔、やだ、そんな姿観ていいの…?白目剥いてたよ…うちのプリンスが。そのあと一瞬だけイケボに戻るんですけど、イケボがギャグに見えちゃうくらい、普段の美声が存在しない。いや、逆にあのだみ声できれいに発声できて歌えるのだからやっぱり素地が違うということか。
声については本人曰く「声帯を変えてる」とか。どういう次元の話をしてらっしゃるの…?というのはさておいて、うちのプリンス、こんなお声も出せるのねと、そらそうだ、「俳優」だもんねと、弊推しの新たな姿を目に焼き付けた僕であった・・・・。

でもカテコでずっとマチルダを優しく見つめてたの、見逃してないからな。ほら、やっぱりお育ちがよくて優しいんだうちのプリンスは。
2幕開始の客いじりも楽しそうにしてらっしゃいました。楽しいならそれでOKです。

ミセス・ワームウッド。マチルダの母。社交ダンスと見た目にしか興味がない。青とピンクのド派手なカラー。霧矢大夢さんと大塚千弘さんのWキャスト。
霧矢さんは美しいダンスがさすが。ミセスの見せ場は「ラウド」という楽曲がありますが、元タカラジェンヌここにありという感じ。情熱的なダンスが似合う。一方、まさに「おばちゃん」って感じの厚かましさとゴーイングマイウェイ。
大塚さんは声がワントーン高くて、さらにヒステリック。プリプリしててワガママお嬢って感じ。たまたま僕が観たのが大貫トランチブルと大塚ミセスだったので、ヒステリック祭りでした。耳キーンなる(褒め言葉です)。
お二人とも、あくまで役の印象ですからね!

ミス・ハニー。マチルダの担任でマチルダの良き理解者。ピンクのカーディガンがイメージカラーかな。先述の通り、実はマチルダが語る物語の主人公でした。おば(=トランチブル)に抑圧されて育ってきたので、本人曰く「情けない」性格。個人的にはあんなひどい育て方されて、ここまでいい人に育つのは奇跡な気がする。

Wキャストで、咲妃みゆちゃんと昆夏美ちゃん。みゆちゃんは憑依型と形容される演技と歌が持ち味です。感想としてもっといい表現があると思うんですけど、シンプルに歌がうまいんです。ハニー先生は本作に珍しくそれほどエッジの利いたキャラではないので、真っすぐさやあどけなさがストレートに出てきます。ハニー先生もある意味子どものまま大人になった感があるんですよね。みゆちゃんは、自分を情けないと思いつつも、「こどもおとな」な自分にに気づいてない雰囲気がある。
昆ちゃんは、大人としてちゃんとしなきゃ感もあるけど、それができずにもがいている感じ。なんで昆ちゃんはもがく系の役が多いんだ。終盤のトランチブルへの反抗シーンも似合う。なんで何かに立ち向かう役が多いんだ。今までの色んなお役の先入観があるかもですが、弱さと強さのバランスが絶妙ですよね。

正しさ

マチルダのキメ台詞に「そんなの正しくない!!」というのがあります。作中で出てくる「正しくない」現実は、おおよそ観客の多くの人にとっても「うんうん、正しくないよね」と納得できるもの。だからこそ、正しさを貫いて行動し、戦うマチルダの姿がかっこよく見えるはず。そして、勧善懲悪的なストーリーにスッキリもするでしょう。

「行動しなきゃ何も変わらない」というのはまさにその通りで、こどもにも大人にも心に響くメッセージだと思います。マチルダが英国で童話的に知られているということは、「正しいと思うことを貫き戦いましょう」とか、「間違っていることは間違っていると声をあげよう」とか、教訓めいたメッセージもあるのでしょう。

あるべき姿のために戦う「ラ・マンチャの男」然り、ややエゴイスティックながら自分の自由のために戦う「エリザベート」然り。自分の信念を貫こうとする姿には、人は感動を覚えるものです。

一方、マチルダに「正しくない」と言われた人たちは、「間違っている」のか
作中でトランチブルがやっていた所業も、ミスターの詐欺も、ワームウッド夫妻の教育方針も、手段は間違っているとしても、人間が持つ何かを守るための行動だと思うのです。その何かとは、弱い自分かもしれないし、プライドかもしれないし、明日食事にありつけるだけのお金かもしれないし、自分らしさかもしれない。

もちろん彼らの所業は僕も「正しくない」と思うけど、こんなことを思うと、ただ単に「自分の正しさを貫こう」というのは作品のメッセージとして「正しくない」と思っていて、それぞれの行動言動の裏にあるものも推し量りながら、それでも正しくないと声をあげること、行動することってどういう意味を持つんだろう、と考えることが大事なんじゃないかと思うのです。

マチルダはたまたま賢くて勇気もあり、しかも超能力にまで目覚めたわけですが、ときに「正しさ」は人を傷つけることもある。たぶん、これから大人になっていく過程で、マチルダもその現実を知ることになるはず。そこで、それでもなお戦うのか、というのは想像の域ですが、そもそも「正しさ」は人によって違うこともあるから、折り合いをつけていかなければならないというのがもう一つの現実でもある。

大人の観客はよくご存じの通り、現実なんて、なんでか知らんけど「正しくないこと」ばかりじゃないですか。世界は理不尽で回っていて、勝者や力の強いひと、声の大きい人、あるいは民主主義上の多数派が「正しい」と思うことによって世界のルールは決められ、運用されているわけで。

それでも何とか折り合いをつけて頑張っている。マチルダの行動は眩しくて美しいし、それを失くしてもいけないけれど、現実の「折り合い」も0にはできないよなあ…なんて、勝手にメッセージを深堀して考えてしまうのでした。話題が重い!このミュージカル自体はそんなずっしりしたものじゃないから!

総括

note自体書くのが久しぶりで、なんかうまくまとまらず、めちゃくちゃ話が逸れましたが、2回観て良かったなと思った作品。

メインキャストのアクも強いし、思いがけない色んな俳優さんが演じてくれたら面白そうと感じる作品。だって誰も万里生さんがワームウッドするなんて思わなかったでしょう。ぜひ色んな俳優さんをキャスティングして再演を。

また、歌、ダンス、演技、ストーリー、コメディ、涙、全部必要なものが揃えてありました。アンサンブルも、子役に混じって大人が子どもを演じている面白さもありながら、バッチバチにカッコいいダンスを見せてくれます。自称マチルダの親友・ラベンダーのことを忘れられない人も多いはず。

このnoteをアップするころには、無事に大阪千穐楽(大千穐楽)を迎えているはず。ロングラン、おつかれさまでした!たのしかったです!

おまけ

マチルダはキャストパネルがありまして、大阪公演では劇場ではなく、そこから少し離れた茶屋町に専用区画がありました。めちゃくちゃ空いていて、ひとりで写真撮りまくりました。

推しと2SHOTとかいいんですか?いいんです

あと、平日公演はカテコが撮影OKだったので、頑張って手拍子しながら撮りました。がしかし、僕のスマホはローエンドモデルなので、まあ映りが悪い!逆光でキャストの顔が全く見えない。まあ雰囲気が大事ですね…。
個人的に、撮影OKと言われても、キャストさんに拍手をしたい派なので、あまり必死にスマホをかざしたくないというのもある。出たな謎の反骨精神。

…以上よ!(CV:トランチブル)

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