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【徒然】ポルノグラフィティ神曲「瞳の奥をのぞかせて」を語らせて

ポルノグラフィティの数ある名曲の中でも、ここまで僕を虜にして離さない曲というのは存在しない。2010年リリースの30枚目のシングル「瞳の奥をのぞかせて」のことです。

もしかするとポルノファンでない方はあまりご存じでないかもしれません。「アポロ」「サウダージ」「アゲハ蝶」「メリッサ」「ハネウマライダー」などのいわば「名刺代わりの曲」「メジャーリーガー級の楽曲」に比べると、さすがにそこまで有名ではないです。

この曲の魅力が何たるかと言えば、歌唱、曲、詞、ミュージックビデオの世界観、演出、ジャケット写真、つまりすべて。

この曲がどういう曲なのかについては、まず各種サブスクで聴いていただきたいと思います。話はそれからです。

ちなみに瞳の奥に関する基本情報のまとめはこちらの記事にまとめております。まあでも文字よりまずは聴いてくださいよ。

前置き

「瞳の奥を~」は、楽曲の完成度・世界観の構築という意味で、リリース時点で約11年に及ぶポルノの歴史において、ある種の完成形へ到達した作品と言っても過言ではありません。無論ポルノグラフィティは進化し続けているのであり、「常に今が全盛期」状態なのではありますが、当時のポルノが持ちえたすべてのものを形にしたと言えましょう。

そして何よりこの曲の魅力は、曲の持つ世界観が「分かるのに分からない」というところ。おおよその状況や描写は理解できるが、決定打が語られない。まさに「瞳の奥をのぞかせて」を「のぞかせない」のです。

ポルノグラフィティの最高傑作「瞳の奥をのぞかせて」。この記事はその魅力について超個人的な感想と解釈を詰め込みました(つまりただの妄想)。濃度が濃いので中毒にご注意ください。

個人的解釈で溢れているので、宗教が異なる方はお互いのために触れあわずに生きていきましょう。戦争はしたくありませんのでね。

歌詞から

文才・晴一による歌詞。歌詞を全文引用してしまうのは色々気にしますので、ぜひお手元に歌詞カード(か検索画面)を見ながら聴いてみてください。

さて、この歌詞の世界観について、その魅力は「分かるのに分からない」という点にあると思っています。

「私」視点の語りで、「あなた」と「私」についての直接的な関係は言及されず、モノや状態、抽象的な表現で世界観が作られていくところは天下の晴一節ここにあり。「私」の想いこそ表現されど、「あなた」については「私」視点でしか語られないのでミステリアス感がより強い。

「なんとなく」の二人の関係性、想い、状況などは「分かる」が、決定的なことが語られないので、まさに世界観を「のぞかせない」。ああ、なんていじらしい。歌詞の世界観自体が聴き手に「のぞかせない」作りになっているなんて。

現在・過去が行き来するのもストーリーの深みでドラマチック。この曲だけで全10話の連ドラできます。「青い/淡い赤色/黒い」などの色彩表現、「消えない痕」「素顔を見つめる」「煌めいてる星々」など、「瞳」のタイトルの通り、目から入る視覚的な情報についての言葉選びがされているのも匠のわざ。すてきやん。

色恋沙汰のストーリーを描くにあたって、人物の性別というのも重要な要素です。昨今の潮流に鑑みれば、いわゆる生物学上の男女に限らない多様な解釈、多様なイメージがあっていいと思いますが、ここでは一応通説通り、「私=女性」「あなた=男性」という体で話を進めます。

冒頭Aメロ(空のワイングラス~)
歌われるのはただの事実。言っていることは「目覚めたら誰もいなくて、空のワイングラスと書置きがあった」ということだけ。しかしこの情報だけで「あなた」がどんな人物か、私とあなたの関係性がどんなものかを想像させる。

「目覚めを待っているのは」「(ワイングラスと)青いインクで書かれた美しい文字」としか言われていないですが、目覚めたらワイングラスと書置き「しかなくて」、期待していた人は待ってくれていなかった、という寂寥感を単なる事実の列挙から想像させる。そして逆説的に、寝る前は一人ではなかったということ。次のパートでも「ふたりで夜に漕ぎ出」すとあるので、ふたり、私とあなたで一晩過ごしたのでしょう、とわかります。空のワイングラスも1つではなく、2つ並んでいるはず。

ワイン、青いインク・・・描かれるモノからは、高級感と大人の嗜みが醸し出されています。凡庸な黒いボールペンやシャーペンじゃなくて、海外で主流といわれる青いペン。あるいは万年筆のインクでしょうか。二人がいたところは、安いビジネスホテルや互いの家ではない。字は人の性格を表すと言いますが、「美しい文字」というのも「あなた」の端正で品のある雰囲気を醸し出しています。字の美しさには種類がありますが、一画一画丁寧に書いた文字というよりは、達筆な文字なのでしょう。

A’メロ(ふたりで夜に~)
ここでは昨晩何があったのかに少し言及されます。「夜に漕ぎ出す」は、二人で一緒に舟を漕ぐように、同じリズムで体を揺らして身を預ける、つまり情事の比喩でしょう。情事を舟にたとえるところは文学的ですね。舟にたとえるからこそ、ふたりが海(あるいは湖)の深いところ=欲望の深いところに進んでいく様子が浮かびます。この一連のたとえを踏まえると、「ひとり置き去り」というのが陸や岸に置き去りではなく、海(湖)の真ん中にポツンとひとり取り残されるようなイメージになって、周りに何もない寂寥感、ひとりで岸に戻るしかない孤独感すらも想起させます。

そして「愛してはならぬと~解いても」のところは、言葉としては文字通り「愛してはいけないのに愛してしまう」ということなんですが、「解いても」の後に続く言葉で世界が深まると思います。解いても…何なのか。
順当にいけば次の「いけない時間は~」に連なって、拒んでも解いても消えない痕が残る=愛してしまって忘れられなくなる、くらいかと思うのですが、冒頭の「空のワイングラス~」にも戻り連なっていると思うのです。拒んで解いても愛してしまう、でも目覚めを待っているのはワイングラスと美しい文字だけ。この孤独感、満たされなさが曲の前半と中盤に跨ってかかることで、私の愛の一方通行感が出てる。

Bメロ(いけない時間は~)
「いけない時間」なので、ふたりの関係は少なくとも背徳感のある、あるいは世間におおっぴらにはできない関係。単刀直入に言えば不倫が代表的。不倫だと断定はできませんが、少なくとも堂々と公表できる関係ではない。
そのいけない時間は「淡い赤色」で「消えない痕」を残す。色は淡いけど、消えずに自分の中にはっきりと残り続ける痕。残っている痕と同じように自分の想いは明確で、サビの「こんなにもあなたのことを想っているのに」に繋がっていく。でもその想いを自覚させる「淡い」赤色は、この関係性が簡単に消えてしまう儚いものであることを教えている。はっきりとした傷痕でもなく、真っ赤な痕でもない。「跡」ではなく「痕」なのも、傷や病のような痛みも伴うような印象であったり、傷は治っても残り続けるような印象を持たせているのではないかと。

A’メロでもBメロでも「いつも」「今までも」というような言葉は出てきませんが、二人の関係が決して一度きりではなく、何度か繰り返されていることがほのめかされていると思います。
このストーリーが一夜限りの関係であれば、もっと「昨晩はこうだった」という限定的な言葉選びがされると思うんですが、ここまでの一連の流れが決して昨晩初めて起こったことではなく、いつも私とあなたはこうだという一種の慣れを感じさせると思うんです。空のワイングラスの横で一人迎える朝も、消えない痕も、いつものこと。後ほどサビでも「時々」「いつからか恥じらうことを」のように時間の経過と反復を表す言葉も出てくるので、一夜限りでないことは確定なのですが。

サビ(こんなにもあなたのことを~)
ここは割と直接的に私の想いが綴られる。事実やモノの列挙、比喩が続いた後にサビではストレートな表現というのが、答え合わせをするような感覚で晴一に弄ばれてるなと思う。もっと弄んで。
一方でタイトルにもなっている通り「瞳」が比喩として出てきます。あなたの瞳=あなたの心。唇を、体を重ねるとき、私があなたの瞳を見ても、何を想っているのか、自分を愛してくれているのかなんて一切わからないのに、あなたは私の瞳を見て私の気持ちを全部見透かしている。目は口程に物を言う、という慣用句もありますが、私の目はまさにその慣用句通りで、あなたの目は逆に何も語らないし、語らせてくれない。「あなたの瞳」、「私の心」はどちらもそれぞれの心の内を表現していますが、「あなたの心・私の心」のようにあえて同じ言葉で書かずに違う言葉で同じものを表現することで、ふたりの交わらない想い、想いは違っていることを強調しているような気さえします。

2番Aメロ(ピアノのように~)
出てきました、高級感を表す言葉。ワイングラスやインクに続いて出てくるのはピアノ、車。それぞれ単独では大したことはないですが、「ピアノのように磨き上げた」「黒い車」。どす黒い黒ではなく、クラシカルで品格のある黒というのがよくわかるし、「磨き上げ」てますから。きっとあなたは車の手入れも欠かさないくらいの余裕がある人。この文字列で軽自動車を想起する人はいない。

そして「この「さよなら」は~別れなのか」。先述の通り二人の関係は一夜限りではないのですが、一方でいつ終わりが来てもおかしくない関係であることを表しています。「このさよなら」が最後かもしれないし、「つぎのさよなら」が最後かもしれない。はたまた「さよなら」も言わずに永久の別れになるかもしれない。二人のいけない時間は、その継続を無条件で約束されたものではない綱渡りの時間。

2番Bメロ(失い続ける~)
「失い続けるばかりの時間」。二人で逢瀬を重ねる時間は「(何かを)失っている」という私。逢っても満たされない、何も得ることはない。むしろ大事な何か…例えば純情、例えば真心、そういったものを失っているということを私は分かっているということか。報われないとわかっていて逢い続けてしまうことへ虚しさ。そしてそれを断ち切れない自分への遣る瀬無さ。「無垢な笑顔ではしゃいでた」「遠い日」も、失ったものなのかも。
無垢な笑顔ではしゃいでた日があるということから、ふたりの関係性、ふたりの過去も少しだけ垣間見えます。「いけない時間」が「いけない」ではない時間があった、つまり友達であったり、いわゆる真っ当なお付き合いをしていたのかもしれない。あるいは二人の関係を不倫であるとすると、どちらかが不倫の事実を隠していたのかもしれない。こんなに想像させて…意地悪な歌詞。

2番サビ(いつからか恥じらうことさえ~)
最初の頃は恥じらいやトキメキもあったのかもしれない。あるいはいけない関係であることへの背徳感が創り出す特別感も薬になっていたかもしれない。でも逢瀬を重ねて、そこに恥じらいもときめきもなく、ただ色欲を発散するために舟を漕ぐ。かつての恥じらいは「あなた」が「剥ぎ取ってしまった」。心を見透かし、恥じらいを剥ぎ取ったあなたが、私視点では優位に立っていて、私はあなたに依存しているような、決して対等ではない関係性をにじませます。
情事の最中、鏡か窓ガラスかに映った自分を見て、「欲望の炎を灯していた」と見る私。「灯す」という表現も、あえて「炎が燃え上がっていた」ではなく「灯す」という日本語を使うことで、静かだけれどもはっきりと揺らめいている炎をイメージさせてくれて、大人な感じがしますね。

Cメロ(開けはなったままの~)
開け放ったままの天窓と、そこから見える星々。星が手に入らないように、あなたも手に入らない。星はあなたの心や愛の比喩でしょうか。「手に入る」「手に入れる」ではなく「手に落ち」ない。掴みに行こうともしていなくて、落ちてくると思って待っていた。サビの「剥ぎ取って」もしかり、私はとことん受け身なんですよね。しかも、落ち来ないなら「そっと窓を閉め」るなどというわけです。
この最後の「閉めましょうか」の「か」。メロディのところでも書きましたが、疑問の「か」?反語の「か」?諦めの「か」?呼びかけの「か」?色々解釈ができる余韻がある。私がとことん受け身でありながらあなたへの想いを断ち切れない、ということに鑑みると、日本語のありとあらゆる「か」の用法をまとめた「か」なのかなと。「閉めちゃうよ、いいの?たぶんいいよって言うんでしょうね。私が閉じれないことを分かってるんでしょう」。つまり早い話がメンヘラの「か」。

ラストBメロ(秘め事はいつも~)
「秘め事はいつも秘め事のまま」。前者の秘め事と後者の秘め事、意味が違いますよね。前者は「行為」つまり「いけない時間」。後者は文字通り「誰も知らない深い闇」、誰にも知られない二人だけの秘密。いけない時間を、いけない時間たらしめる。A secret makes a secret secret(文法あってるかは知らん)。さらに秘め事は深い闇に消えていくわけですが、私には「消えない痕」が残る。「消える/消えない」という言葉がここで一番のBメロとリンクしてくるんですね。してやられた。

ラストサビ
あなたへの想いは「1秒針が進むごと強くなる」。時が経てば経つほど、消えていくどころか強まる想い。強くなる想いは決して愛だけではなくて、どうしようもないほどの憎しみも一緒に強まっていく。愛と憎しみは紙一重。
そして最後。気付きましたか皆さん。最後にしてずっと受け身だった私が、あなたの瞳の奥を「のぞけたなら」と言うのです。「のぞかせてくれたら」ではないのです。1番ではのぞかせないの主語・行動主導権はあくまで「あなた」なのです。それがラストでは「のぞけたなら」。のぞく、という行為を、私が主体的にしようとしている。この微妙な言葉の違いによって生まれる私の主体性は、強くなり続ける想い(愛&憎)を強調する役割を担っています。抑えきれない想いを昇華させるため、とにかくあなたの想いを確かめたい。あなたの想いを読み取りたい、知りたい、把握したい。「それだけでいい」。「それ」とは「あなたの心をのぞくこと」。それ以外いらない。それほどに私の想いは限界まで膨らんだ風船のようにはちきれる寸前なのです。

その切な「それだけでいい」で曲は終わり。繰り返されることで強まる想いと切なさが強調されます。

メロディ、歌唱表現から

歌詞と世界観を深めるメロディと歌唱表現力について。

昭仁が「異国情緒」といった通り、ポルノお得意のエキゾチック曲。3連のリズムとバイオリンがそう思わせるのか、揺らめく炎のように曲が波打っていて、でもその波は荒れ狂う海の波じゃなくて、心の湖に打たれるさざ波のような感じ。その抑揚がたおやかな女性感を出すのでしょうか。大人の艶。

イントロ
3連リズムのピアノが、少しずつ日が登り始め朝が訪れようとしているように静かにストーリーの始まりを告げる。少し街中から外れたところにあるホテルの5階くらいから、少しだけオレンジっぽい、そして少しだけ白っぽい空が見えるような風景が浮かびませんか?ね、浮かびますよね!そして特徴的なバイオリンのメロディが参加。ここのバイオリンは炎。昨晩燃え上がらせた炎のことをぼんやりと、それでいてしっかりと思い出すように、情熱的なメロディが一気に世界観に引き込みます。

Aメロ
第1音「空のワイングラス」の「か」。カラカラに渇いた「か」ではなくて、昭仁の艶っぽい「か」は、「くぁ」に近い「か」。ワイングラスは空なんですけど、そのグラスに昨夜は間違いなくワインが注がれていて、満たされていました。そのワインの豊潤な香りが口と鼻に広がっていく様子を思い浮かべるような、含みを持った「か」。ポルノグラフィティ第1音選手権で間違いなく3本の指に入る、メダル確定の第1音。

この「か」に限らず、独特のリズムがそうさせるのか、昭仁の発声がとにかく艶やかで、たおやかで、しっとりしていて、渇いていて、うーんとにかくエロい。「青いインク」の「あっぅぉいインクゥ」で青の色が脳内に染み込んできますよね。はい染み込みましたね!この深みのある青、爽やかなブルーではなく、どっちかというと黒や紺に近いイメージ。インクもボールペンではなく、万年筆を想起させます。そしてその青いインクで書かれた美しい文字の背景から、うっすら炎が見えてくる間奏。バイオリンのメロディが次の場面に繋げます。

A’メロ
Aメロが目の前の事実を歌っているのに対し、A’メロは過去(昨晩)に戻ります。その過去へすっと連れて行ってくれるのが「ふたりで夜に漕ぎ出しても」の「ふ」。バイオリンからの「ふぅたりでよぉるに~」で、はい、今あなたは昨晩にいますね?イリュージョン。この音の余韻が歌詞の意味を深めてくれる。後述の通り、瞳の奥の世界では、歌詞で明確な描写があまりないのですが、この歌い方(表現)によって世界観を深めている感じがします。昭仁半端ない。

Bメロ
ここも昨晩…というか、今までの夜の総括ポジション。それぞれの夜単体ではなくて、過去一連の夜を全部ひっくるめてサビ(現在)につなげていく大事なパート。今までのすべての「いけない時間」に思いを馳せる主人公が、過去を振り返っていた場面から現実に少しずつ戻ってくる。「淡い赤色」「消えない痕を」の後のダンダンダンというリズムが、あなたとの一晩の1シーンを思い出させるような音になっていると思います。

サビ
夜が明けた現実に戻ってきました。「こんなにも」「時々」「あなたは」「そのくせ」と各パートの冒頭がギュッと詰まっている感じが、主人公の胸をギュッと締めている感じとリンク。昭仁の滑舌の良さが、私の想いにはっきりと輪郭を持たせるようで、どんどん高くなる音、強まっていく語気が募った想いを表現しています。

間奏
炎のバイオリン。このメロディがあるからこそこの曲は成り立つと実感する。赤く燃えているけど、燃え上がってはいない。

2番Aメロ
「ピアノのように」の「ピ」。まさにピアノを弾いたような「ピ」。しかも絶対クラシックピアノ。歌われるのはあくまで「車」であって、ピアノではないんですけど、「磨き上げたあの黒い車」がどれだけ美しいのかというのを語るのにこの「ピ」の音以外必要ないです。同時にまたこの「ピ」が、物語を過去に連れていく役目も担っています。1番からの流れそのままに物語を進めるのではなく、この「ピ」が場面を切り替えてくれる。2番は1番よりも若干不穏で静かな雰囲気を持ちます。現実と過去とさらに過去が混じっているようなところがあって、言うなれば英語文法の大過去的な?現在系、過去形、過去完了形が混じっている感じ?ん?

2番Bメロ
思い出と時間は失い続けているんですが、反して想いだけは失うどころか増していく。そんな感情がメロディになっているようで、「無垢な笑顔で」「はしゃいでたのは」の後のダンダンダンというリズムが、失い続けていく時間と、増していくイケナイ思いを表現しているように思います。1番のダンダンダンというリズムとまた違うんですなあ。

2番サビ
「剝ぎ取ってしまった」の剥ぎ取られる感じ、「ユラユラ」が昭仁の持ち味・まっすぐ通る声のままでも揺らめいて聞こえる感じ、表現力が表現力していているとしか。過去進行形の場面。サビは1番でも語ったように、音がどんどん高くなり語気も強まっていく。その中で2番は歌詞も相まって、自分の感情の高まりをどこか俯瞰的に見ている私の情景が浮かびます。その一つの要素として「灯していたの」の歌い方があると思っていて、過去の自分を今の自分がどこか冷静に分析するように見つめている感じ、あるいは自分の過去を見て「灯していた」事実を悟る感じがしますよね。するんです。

Cメロ
曲の雰囲気が一瞬変わる部分。CD音源ではややマスキング?加工がされているんですが、それが世界に靄がかかっているような映像を浮かび上がらせます。「窓を閉めましょうか」が、「窓を閉めましょう・・・か」という風に「か」までに余韻があって、色々想像させます。疑問の「か」?反語の「か」?諦めの「か」?呼びかけの「か」?「か」一文字で何通りも解釈できる。その解釈の余地を持たせている「か」。メロディラインと表現の妙。

ギターソロ
晴一のギターは歌うギターとして有名ですが、「歌詞がない歌」なのでホンマに妄想が捗る。第1印象で想起するのは、あなたと私の一夜の「秘め事」の情景。ラストBメロへの繋がりを考えると、コンプライアンス的に文字にはできませんがそんなイメージ。一方で別解釈として、私が一人、叶わぬ思いに泣き苦しむ場面にも聞こえる。「私」をどういう女性としてイメージするかで聞こえ方が変わってくると思います。

ラストBメロ
「秘め事」の「ひ」が強すぎないのが隠しきれていない秘め事感があってエロい。「誰も知らない」の後のダンダンダン、「暗い闇へと」の後のダンダンダンが、まさに闇へ消えていくように、少しずつ暗闇が深くなっていくように聞こえます。計3回出てくるダンダンダン、深い。

ラストサビ
ラストだけあって最高の盛り上がりポイント。「サウダージ」「アゲハ蝶」などでおなじみのとおり、ラスサビで転調する曲も多いですが、瞳の奥は転調しなくて正解。転調しないことでより1番、2番のサビとの歌詞の対比が自然に細胞に染み込んでくる(もちろん転調は転調でいい面がある)。3回目のサビにして、序盤から少しずつサビの中でも盛り上がっていき、どんどん気持ちが高まっていくのが伝わるメロディ構成、改めて昭仁の才をしみじみと感じる。
「それだけで」よくないのに「それだけでいい」っていう諦めだけではなくて、あなたのすべては無理でも一部だけでも、という切なさが込められた「それだけでいい」はこの曲の締めくくりとしてパーフェクトワールド。

アウトロ
ラストサビの「それだけでいい」、最後に1度繰り返される「それだけでいい」がそれぞれ全然違う意味に聞こえるのが昭仁’s表現力。フェイク(Wow)が歌詞では伝えきれない感情を出していて最後まで浸れる。ライヴVerではフェイクがラストまで更に続くので世界がいつまでも広がる。バイオリンのメロディがイントロからずっと使われているメロディと違い、今までのメロディがいわゆる縦に長く揺らめく赤い炎とすると、アウトロのメロディは火柱から小さい炎が零れ落ちていく感じ。最後の消えていく音は、僕はろうそくからフッと炎が消えるように一瞬燃え上がって消えるような印象で捉えています。ここは正直人によってめちゃくちゃ印象が違うかなと。(そもそもここに書いてあること全部僕の妄想ですけどね?)

長々書いておいてあれですけど、要は昭仁の作曲能力と表現力がヤバいんです。

考察

というわけで歌・曲と歌詞の両方から語ってきたんですが、結局この世界をどう解釈するか?妄想してみましょう。

「私」の人物像について。20代後半~30代前半あたりの女性。共学公立の中高を出て、4年制大学を卒業後、会社で正社員として勤める。恋愛経験は人並みにしてきたつもりだが、別れの際は8割「物足りない」と言われてフラれるか浮気されるか。性格はどちらかというと優等生キャラで石橋はたたいて渡る。家事も仕事もそつなくこなすのが裏目に出て、ダメ男を製造しがちと友達に評されたりする。

「あなた」の人物像。「私」よりは年上。40代手前か、40代前半。妻と小学生のひとり息子がいて、周りから「理想の家族・理想の夫・理想の父」と言われる。仕事は外資系企業のプレイングマネジャー。経営幹部からも部下からも信頼が厚く、嫌みがない性格ゆえ悪評・嫉妬の対象になることもない。スタイルや顔が特別いいわけではないが、中の上。肌と髪がきれい。程よく体を鍛えていて紺色の3ピーススーツが良く似合う。白ワインが好き。休日は家族サービス。

出会い。私が2年くらい付き合った彼氏に浮気されたことで別れを告げ、しばらく恋愛はいいかな、なんて思っていた時。友人と飲みに行ったとき、失恋したのは自分なのに友人の方が酔いつぶれてしまった。友人を何とか連れ出して、店を出てタクシーを拾おうとしていた時に声をかけてきたのがあなたとその部下らしき人。部下らしき人がタクシーを拾ってくれ、無事に友人を連れて帰った。それから半年後、同じ店でたまたま私とあなたは再会するのです。それが禁断の花園へ足を踏み入れることになるとも知らずに。

出会ってからなんとなくの流れで、体を預けてしまった。そしてそれは一夜の過ちに終わらなかった。あなたは「〇日に会いましょう」としか言ってこない。あなたは私との逢瀬に絶対に手を抜かない。高級そうなスーツを着て、美しい黒色の車で、それなりのグレードのホテルに送ってくれる。必ずワインを飲む。私が「好き」と言っても、あなたは「好き」とか「愛してる」という類の言葉を一切口にしない。そのすべてを見透かすような切れ長の瞳で見つめて、ほんの少し口元を緩めるだけ。

あなたに家族があることを知ったのは初めての逢瀬。初めて会った時は見えなかったが、左手の薬指に美しい銀色の輪が光っていた。あなたはわざと見せたようにも思える。私にとってその銀色の光が「劇薬」になるのを知っていたかのように。あなたは私に敬語で話す。でも、体を重ねるときだけは、時々敬語が外れる。それが計算なのか、私には判別がつかない。真実はどうであれ、そのいじらしさが私をさらに縛り上げる。

私にとってこんなに静かに、でも確かに燃え上がるような恋愛感情を持つことは初めて。あなたと体を重ねるごとにこの関係が麻薬のように自分を蝕むのが分かる。不倫という、今までの自分なら絶対に忌避していたものに、今まで数々の浮気をされてきたのに、背徳と一種の「快」を得ている自分に引きながら、逃れられない。あなたから直接的に想いを告げられることはないのに、そのじれったさが却って私の想いに薪をくべる。かれこれ1年くらいこの関係が続いている。

・・・全部妄想ですよ!?

ライヴVerの解釈について

ライヴでの演奏でアレンジがかかったことが2回あります。アレンジが変わると世界も変わる。1度目は「ダイキャス」Ver。2度目は「神神」Ver。原曲のイメージとの違い、特に主人公「私」のイメージの違いを考えてみます。

ダイキャスVer
原曲よりもスローテンポで一音一音がより重厚に、ドラマチックにアレンジされたダイキャス版。原曲が連続ドラマだとするとダイキャス版はR15映画。

原曲よりも「私」像が少し若い20代中盤くらい。きれい系よりかわいい系で男受けがいいタイプだという自覚あり。中学生の頃から彼氏は途切れずいたが、自分も相手もあまり長続きはしないタイプ。夜の仕事の経験もあり。大手企業の事務派遣社員として働いている。お局さんに嫌われるけど気にしないタイプ。「あなた」は私が惚れこんでしまった初めての人。あなたと出会ってメンヘラをこじらせつつある。ワインはあまり得意ではない。ダイキャス版の「あなた」はたぶん喫煙者で、私も真似しようとするけどやっぱり苦手(過去も喫煙しようとして諦めたことあり)。

なぜか雨が降っている情景が浮かぶ。私が夜、雨に打たれている場面が。あなたとの出会いによって、今までの恋愛がいかに子どもな恋愛だったか、ワガママ放題だったかということに気付かされる。あなたとの間に圧倒的な壁を感じている。あなたと釣り合う女になれるように頑張るが全部空回りする。あなたとの関係を表すなら「高嶺の花」。

これを聴けるのはライヴDVD/Blu-rayしかないのが惜しいところです。まあ買ってくださればいいし、この曲を聴くためだけに買うのも全然アリ。

神神Ver
こちらは弾き語り(2番からバイオリンも参加)。アコースティックギターの持つ雰囲気と、原曲でも重要な役割を担うバイオリンが合わさった新世界。例によって原曲を連ドラとすると、神神版は原作小説&アマプラ/ネトフリ特別ドラマ。

こちらの「私」は40代くらいのオトナの女性。あなたとの関係性もどこか割り切っていて、男性への依存心もない。…のにあなたとの恋に落ちてしまった的な。女性だって自立しないといけないと思っていて、一人の人間として自立しているイメージ。もしかしたら子どもはいないけどバツイチくらいかもしれない。スタイルも良くてたぶん周りからはカッコいい系の女性として憧れを抱かれているところがある。仕事で男から嫉妬を受けてしまうタイプ。男性からは「キミは強い女だから」などと言われてしまうタイプ。たぶん喫煙者。ワインは赤派。

昭仁の歌唱力やテンポ、アレンジの雰囲気か、特に前半はどこかアンニュイでドライな感じがあって、情熱と冷静の間をちょうどよく表現していると思う。ちょっと昭和後半の雰囲気もする。僕平成生まれなんですけどね。弾き語りスタイルが現在進行形というより、回顧録のような印象を持たせるんですよね。あなたのとの関係を表すなら「契約関係」。

神神Verはライヴ映像ではもちろん、各種サブスクでも音源が解禁されているので、原曲を聴き込んだうえで一度ぜひ。

最後に

この曲と巡り合った当初、僕は中学生でした。いいんですか、中学生にこんな曲を聴かせて。どうですか、その結果がこの暴想に走ったサラリーマンですよ。責任取ってほしい。もう戻れない。なんて罪な曲・・・なんて罪なバンド・・・。というわけで想いがあふれて締まらないので、ぜひ、瞳の奥聴いてください(強制終了)。

解釈がどうというのはどうでもよくて、とにかく「瞳の奥をのぞかせて」という楽曲の完成度、重厚なストーリー、それでいて聴き手の想像を掻き立てる、そんな魅力を多くの人に知っていただけたら嬉しく思います。暴走する妄想にお付き合いいただきありがとうございました。

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