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【観劇レポ】大事なのは今。 ミュージカル「17AGAIN」

ミュージカル「❘17AGIN《セブンティーン アゲイン》」(2021年)の観劇レポ。兵庫の初日ソワレです。

久々の生ミュージカル…生だ…生だぞ‥!!仕事の都合上会場入りがギリギリで、久しぶりに駅から走りました。着席したのは、開園3分前。危ない。走ったから息切れするわ足が重いわ…こっちが17歳に戻りたいっちゅうねん。

概要

家族崩壊の危機に瀕した35歳の男が17歳に戻って人生をやり直すという物語。アメリカン・スクール・コメディ的な雰囲気で、感動はもちろん、元気ももらえるミュージカル。
(同名の映画が原作ですが、時代は現代にアップデートされており、インスタ、ハッシュタグなんて言葉も飛び交います)
世界初ミュージカル上演、竹内涼真初ミュージカル主演。竹内涼真さんだけでなくミュージカル出演が初めてというキャストさんも多く、何かと初物感のあるミュージカル。

竹内涼真を作った神は不平等だ

まず率直に。竹内涼真歌うまない?イケメンで歌上手くて踊れて演技できてミュージカルできてバスケもできてって神は不平等。はぁ?何なん?(誉めてます)

なにかのTV番組で、元々歌がお上手なのは知ってたんですが、歌がうまいことと、ミュージカルとして歌がうまいことは話が違うもの。カラオケがうまくても舞台映えするかは別なんですよ。
でも竹内さんは劇場に響く声量と、歌詞と感情を乗せるバランスもあって、ミュージカル初舞台とは思えないです。1幕ラストの「人生がくれた奇跡」は熱かった。単純な歌のうまさ・演技力だけでなく、ミュージカルとしての場数が少ないからこその味もあったような気がします。
ざらざら感?いい意味での粗削り感?人肌感というか、んー伝わるかなこれ言語化できない。変にこなれてないからこそ真っすぐに響く声、とでも言うか。

この作品は単純に「歌」「ダンス」はさることながら、「一人で実質二役」「バスケ(ボールテクニック)」と、主役が頑張らないといけないポイントがモリモリ。

同一人物と言えど17歳と35歳を1人でこなすのは、体力的にももちろん出ずっぱりになるし、演じ分けも難しいと思います。映画やドラマで活躍されている俳優さんなので演技力は下地がちゃんとしてるし、体もしっかり鍛えてはるんやろうなあと。

正直このミュージカルは、ソニンさんが見たくて観に行ったところがあるのですが、しっかり主役としての爪痕を残してもらいました。ノックアウト。

マイク(現実の35歳)は、年こそ35歳なれど中身の根本は17歳から変わっていない。一方でそのマイクが17歳に戻るとどうかと言うと、根本は変わらずにいつつ、父、社会人といった経験を経た35歳のマイクが節々に登場する。どこか子どものままの大人と、大人の目線が垣間見える子ども。同一人物だけど同一人物ではないような不思議な役を絶妙に演じられているなと思いました。

初舞台で堂々と演じられてて、天職なんやろうなあと思います。バスケのシーンも、かっこよくゴール決めてましたし。ホンマに神は不平等(誉め言葉です)

ベテランと初々しさと

ソニンさん、もといソニン様は、相変わらずため息が出るを通り越して、呼吸を忘れるほど素晴らしい。つい最近まで王妃と不条理を恨んで革命を率いていたはずですが、今回演じるマイクの妻・スカーレットはめちゃくちゃ普通の主婦。ダークな役は本当いうことなく似合うんですけど、こういうストレートでピュアな役もいいですね。

劇中では一部の場面以外はずっと35歳のスカーレットですが、17歳から35歳までの間、何があったのかはストーリーでは語られないのですが、語られない、台本にない背景や人物像まで作りこまれているからこそ、役や演技がストンと腹落ちするんですよね。希代の女優さんですわ・・。


そして息子・娘役の福澤さんと桜井さん。お二人も竹内さんと同じくミュージカル初だそうですが、え?全然普通にミュージカルされてますやん。福澤さんはリアル17歳だそうで(リアルな若さ…)。
二人ともどこか擦れていて、そして自分にどこか自信がない、という多感な役。心の地盤になりうるはずの家族が「あんな状態」なので、脆い感じがリアルでした。


マイクの親友・ネッド、エハラマサヒロさん。いやーうるさい(ほめてます)。しゃべってなくてもうるさい(ほめてます)。アドリブかセリフかわからんような掛け合いはさすが芸人さん。ウケ狙いのセリフの場面、毎回違うこと喋ってる説ありますよね?アメリカン・コメディにピッタリです。他のキャストさんと舞台袖でも仲いいんやろうなあという、なんかいい距離感を感じました。


そしてネッドの相手役であるマスターソン校長役の水夏希さん。ミュージカル初挑戦組の初々しさもいいんですが、水さんの存在が締めるところはしっかり締めてくれている感じがします。
ミュージカルを見に行くと、一人二人宝塚出身の女優さんがいらっしゃることが多いですが、やっぱり場数踏まれてるだけあって所作も歌声もさすがですね。前半の鉄仮面みたいなバリキャリ校長も、終盤の甘々なオタク女子もいい塩梅。

人生にもう一回はない

「人生をやり直せたら」って誰でも一度は思うことがあると思うんですが、そのきっかけになる出来事だったり言葉だったりは、結局事実としては変えられなくて、どう向き合うかを変えるしかないんですよね。

過去と他人は変えられないとはよく言いますが、人生における選択はじっくり考えて結論を出せることなんて少なくて、選ばなかった選択肢の先の未来を夢見てしまうもの。

マイクが最終的に導き出した答えも、「自分の選択は間違ってなかった、ただそれへの向き合い方が間違っていただけ」ということ。スカーレットがマイクを愛する気持ちは変わらないのに愛想をつかして離婚を切り出したのも、マイクが過去の自分に向き合うどころか、フィルターを自分にかけることで捻じ曲げて解釈して、逃げているからなのかなと。

また、ネッドとマスターソンのやり取りはサイドストーリー的な役どころですが、マイクが今の自分・現状が嫌で、過去の自分と対峙したのに対し、ネッドは過去の自分が嫌で、今の自分と向き合うことになるという点で、作品のテーマを補強しているのかなと思います。

ネッドは自分の好きなものを極めて成功(お金)を手に入れた。マスターソンは自分の好きなものを封じ込めて成功(キャリア・校長)を手に入れた。でもネッドの成功であるお金では、恋人を買うことはできない。マスターソンの成功であるキャリアでは、情熱的な恋愛を得ることはできない。

二人とも手に入れたもので意固地になっていたところもあるけど、鏡のようにお互いを見ることで自分が本当にほしいものの手に入れ方に気付くんですよね。
自分の好きなものを鎧にしていたネッドと、好きなものを隠して閉じ込めたマスターソンが互いに惹かれていくのは面白い。なんか漫画の「ヲタクに恋は難しい」みたいですね(読んだことないけど)。あ、ネッドは最初から一目惚れでしたが。

まとめ

全体を通してアメリカン・コメディのいい味が出ていて、見たら元気になれる舞台でした。コメディものは「これ、笑うところやで」という押し付け感・演技感が出ると白けるところもあるんですが、笑うところはしっかり笑えつつ、メリハリがちゃんとあったと思います。

笑いどころは俳優さんたちも楽しんでいるんやろうなあとわかるのもいいですね。ストーリーはある意味シンプルで「よくある話」かもしれませんが、よくあるストーリーだからこそ普遍的なメッセージや熱量も感じます。また、ネッドのオタクコレクションから、元ネタを探すのも楽しいかもしれません。

終演後の「楽しかった~」というある種の疲労感が心地よかったです(走って会場入りしたから疲れたのではない)。

世界初のミュージカル化というプレッシャーもありながら、一方で初物だからこそ自由にチャレンジできる楽しさも伝わってきました。世界に展開されるときに、「世界初演の日本版はすごかった」といわれる作品になってほしいです。

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