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ハイタッチCSMの心得 -DXをリードする覚悟と成果へのコミットメント-

1. CSM(カスタマーサクセスマネージャー)とは

 一般にCSM(カスタマーサクセスマネージャー)とは、「カスタマーサクセス」の実現に責任を持つ職種を指す。すなわち、顧客と長期的な信頼関係を構築し、顧客がプロダクトやサービスを活用して成果を実現できるよう、個社への支援を実行したりプロダクトやサービスの改善に向けた働きかけを行ったりする。企業によって組織体制や職種区分は異なり、呼称も「CSM」以外に「カスタマーサクセス担当」「既存顧客営業」などと様々だが、本質的に求められる役割は共通している。

 そして、カスタマーサクセスは「カスタマーサポート」と大きく異なる。カスタマーサクセスの実現に責任を持つ部門は、「顧客に対して能動的な働きかけを行い、継続率や顧客生涯価値(LTV)などの目標を追求し、組織の中で収益を上げる部門(プロフィットセンター)」として位置づけられる。

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※出所:
日経クロストレンド(2020年9月7日)「客がやめない「成功体験」のつくり方 サブスク継続率95%の秘密」
(最終アクセス:2021年10月16日、URL:https://xtrend.nikkei.com/atcl/contents/18/00356/00002/?i_cid=nbpnxr_parent

 突き詰めると、カスタマーサクセスの本質は、LTVである。「顧客の成功(顧客が求める成果の実現)」と、「自社の事業成長(自社の収益最大化 )」を長期視点で両立させることこそが、カスタマーサクセスの真髄であり醍醐味でもある。顧客の成功を実現できなければ長期的な事業成長は成し得ないし、逆に収益を最大化できなければ顧客への提供価値を長期的に最大化できない。


2. 高まるCSMの求人ニーズとDX人材が不足する社会

 カスタマーサクセスを担う人材の求人ニーズは年々高まっている。エン・ジャパンが運営する転職サイト「AMBI」「ミドルの転職」における、2021年1~3月のカスタマーサクセス掲載求人数は、2020年1~3月と比較し約3倍に、さらに2019年1~3月と比較すると8倍以上という規模となっている。

 なぜ、ここまでCSMの求人ニーズが増加しているのか?この社会的な潮流を上手く活かして自社や自身のプレゼンスを高めるためには、その正体を明らかにしておくことが有用であろう。

 まず、SaaS市場の拡大がその一因であることは間違いないだろう。CSMはSaaS事業の成長を牽引する人材であるため、SaaS市場の拡大に伴ってCSMの求人ニーズは増加する。2021年7月に発表された富士キメラ総研の調査によると、SaaS国内市場の規模は2020年度に前年比123.7%の成長で1兆円を超える見込みであり、さらに2024年度には1.6兆円を超えると予測されている。

 しかし、これだけでは前年比3倍、前々年比8倍以上というCSMの求人ニーズ増加の要因を十分に説明できない。他の要因として考えられる仮説を以下4つ紹介したい。

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 上記のうち④については少し補足が必要であろう。近年、人口減少に伴う内需縮小などを背景に、既存顧客からの収益、ひいてはLTVを高めることの重要性が益々高まっている。そして、LTVの最大化を効率的かつ効果的に実現する方法としてIT活用・DX推進は有効であり、これを担う人材としてCSMが求められていると思われる。

 実際に、転職サイト「doda」の求人ページを確認すると、以下の通りSaaS以外にも多様な業界からCSMが求められていることが分かる。

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 今やSaaSという業界の枠組みを超えて「カスタマーサクセス」活動に注目が集まっている。以上の議論を踏まえると、CSMの求人ニーズ増加という事象の背景には、企業や社会の構造変化があるという考えが浮かび上がってくる。この構造変化の要点を整理すると下図の通りである。

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 CSMの求人増加という事象自体は、あくまでも短期的な流行に過ぎないという見方もあるかもしれない。しかし、その背後には社会的な構造変化が作用している側面もあるのではないだろうか。時代が要請する不可逆な変化が起きており、その潮流を乗りこなす人材こそがいま求められているのではないだろうか。

 つまり、本質的には、「厳しい国際競争を勝ち抜く新たな付加価値の創出」と、「既存の仕組みの効率化・最適化」の二軸を目的とした、DXの推進こそが日本社会・企業の優先課題であり、これを担う人材が内外問わず求められているのではないだろうか。


3. 顧客のDX成功をリードする圧倒的な当事者意識

 もちろん、特定SaaSの利活用という文脈に立ち戻って考えれば、CSMがクライアント企業のDX成功に対して貢献できる範囲は限定的である。しかし、当然のことながら基本的にSaaS等のあらゆるツールの導入や活用は手段であって目的ではない。利活用の先にある成果の創出や目的の実現こそが重要であり、支援を担う人材は常にこれを念頭に置いておかなければ、最適な支援を実行できないし顧客への提供価値を最大化することもできない。

 そして、顧客にとって必要な成果の創出を支援するためには、前提として顧客の成果にコミットする「圧倒的な当事者意識」を持って、顧客と対話し顧客と共に顧客の課題と対峙するスタンスが基本になるのではないだろうか。つまり、顧客の成果を実現する責任から逃げない姿勢が求められるのではないか。さもなくば、顧客にとって本当に必要な支援を行うことは出来ないだろう。無論、定型的な情報提供や設定や操作のサポートは可能であるが、非定型的な課題の解決やDXをリードすることは出来ない。真のカスタマーサクセスは成し得ない。

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 一方で、現実問題として個社の支援にかけられるリソースは有限であるため、効率的に全体最適の支援を実行することがカスタマーサクセス組織には求められる。下図のように顧客セグメントごとに適切なサービス水準を設計する考え方が一般的であろう。

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※出所:クリエイティブサーベイ(2021年3月12日)「カスタマーサクセスのハイタッチ・ロータッチ・テックタッチの方法とCX向上のポイント」
(最終アクセス:2021年10月17日、URL:https://jp.creativesurvey.com/blog/posts/customersuccess-touchpoint-20210312/)

 しかしながら、やはりスタンスとしては、関係者全員が顧客の成功への圧倒的な当事者意識を持つことが重要ではないだろうか。圧倒的な当事者意識でハイタッチを行い顧客の成功を実現し、圧倒的な成功モデルを構築する。その成功モデルをコンテンツや仕組みに落とし込んでテックタッチで多くの顧客に横展開する。そして、顧客への提供価値を高めつつリソースを確保し、次なる顧客課題に挑戦する。この循環サイクルを進めていくことでカスタマーサクセスは加速していく。

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4. 顧客と成果を共創するハイタッチスパイラル

 では、「圧倒的な成功モデル」を顧客と共創し、「顧客の成功」と「自社の事業成長」を両立するために、CSMはハイタッチ活動の中で何に取り組むべきか。日頃よりどのような意識でどのような行動を積み重ねていくべきなのか。自戒の念も込めて特に重要なポイントを以下に記載していく。

 まず、前提としてCSMはあくまでも顧客を支援する立場にある。もちろん、当事者意識を強く持つことは出来るが、取り組みの主役はあくまでも顧客である。すなわち、顧客の成果は顧客と共創する必要があり、そのためには顧客からいかに深い情報を共有して頂けるかどうかが肝となる。

 だからこそ、顧客からの信頼を積み重ね、顧客からお預かりする情報や相談の質を高めていくことが重要だ。一つ一つの小さな相談に対しても、万全の準備で最大限の提案を行い、良い成果に繋げる。そうすれば、顧客からの信頼に繋がり、「この人ならもっと任せたい」と良好な関係へと進展し、さらなるご相談やより深い情報をお預かりできる。そうした積み重ねの結果として、顧客から大きなの機会をお任せいただき、そこで最高のパフォーマンスを発揮すれば自社の事業成長にも繋げることができる。

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 上記のスパイラルを高速でたくさん回転させることによって、成果を高い水準で実現し、支援範囲を拡大し、事業成長に繋げる。こうした積み重ねこそが結果的にエクスパンジョン(アップセル)にも繋がっていくのだ。


5. ハイタッチCSMの心得

 では、上記のハイタッチスパイラルを促進させていくためには、どのようなポイントに注意すべきか。スタンスとしては、これまでに強調してきた「圧倒的な当事者意識」以外にも、「客観的な専門家目線」と「多角的な関係者視点」も重要になるであろう。

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 まず、自社が提供するSaaSプロダクトについて多数の企業の支援を行ってきた専門家として、顧客企業の成功に必要な提言や提案を行うことが、結果に繋げるためにも信頼を得るためにも重要であろう。特に、関係深耕の初期段階、すなわち課題解決パートナーとしての信頼をまだ十分に得られていない段階においては、この目線での提案を期待されていることが多いだろう。ただし、知識をひけらかすように出しゃばり過ぎてはいけない。逆に、びくびくと怯えて控えめになり過ぎる必要もない。顧客のタイプに合わせた適度なコミュニケーションが大切である。

 また、目の前で対峙する顧客担当者の立場で考え抜くだけでなく、幅広い多角的な視点を持つこともまた重要であろう。DX推進やSaaSプロダクトの利活用に取り組む際には、その影響を受ける多くの関係者が存在する。顧客社内だけで見ても、そのSaaSへの投資を意思決定した経営層の方、現場で実際に利用するユーザーの方、現場部門でマネジメントを担う管理職の方など、立場ごとのニーズや課題を理解することが極めて重要だ。さらに、顧客にとっての顧客や取引先、株主や地域社会など、様々なステークホルダーに対する影響と配慮が欠かせない。

 以上のように、顧客にとっての課題解決パートナーとしての座を勝ち取り成果の実現に繋げていくためには、前提となる圧倒的な当事者意識をベースとして、客観的な専門家目線や多角的な関係者視点も組み合わせて、必要な支援・提案を行っていくことが重要であろう。当然、そのために必要な技術や知識を磨き続けていくことが求められる。

 そして、やはり日々の顧客コミュニケーションの中で、小さな信頼を積み重ねていくことが大切だ。実践までには時間がかかるものもあるだろうが、明日から意識できるテーマとして、いくつか以下に例示する。

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 CSMにはDXをリードする覚悟と成果へのコミットメントが求められる。

 カスタマーサクセスを積み重ね、世の中に成功実績を増やしていくことで社会の進歩に繋がる。「厳しい国際競争を勝ち抜く新たな付加価値の創出」と、「既存の仕組みの効率化・最適化」の二軸を目的とした、日本のDXの推進の立役者の一人としての活躍が期待される。カスタマーサクセスという責務を全うしていきたい。

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