こうして僕の起業は終わった〜それでも人生は続く〜

たいし_VRゲーム制作

記憶と感情

2018年6月、僕は大学時代のラグビー部の先輩と会社を起こした。
商社で働いていた先輩とゲーム会社で働いていた自分が合わされば最強で、自分達の成功は疑う余地もないように当時は感じていた。

会社の運命を何に賭けるか、ホワイトボードに色々と書き殴りながら議論していた起業前の5月、OculusGoが発売になった。ゲーム会社でOculusRiftDK2を触っている人を少し訝しげに見ていた僕も、体験してすぐVRの魅力に取り憑かれた。二人ともずっとスポーツをやっていたこともあって「VRを使って世の中全ての人を健康にする」僕らはそれに人生を賭けることにした。

プロトタイプを作ってはターゲットユーザや投資家に見せて検証し、ボツにしてはまた作った。まだ前の会社にも籍があった(しかもリリース前プロダクトの担当だった)僕には体力的にしんどかった、でも疲れを感じたことはなかった。成功が約束された未来に向けたハードワークだとしか思っていなかった。

2019年1月、アクセラレータプログラムに合格し、初めての出資を受けた。嬉しかった。出資が決まった連絡を受けたときは映画の中の主人公にでもなった気分だった。理学療法士とエンジニアの仲間も加わり、最高のプロトタイプを作ることに集中した。アクセラレータが用意してくれたオフィスで、夜な夜な椅子を並べて眠った。

2019年7月、デモデイの反応は上々で、次の出資とサービスローンチに向けた製品版の開発に着手しようとした矢先、競合他社から特許侵害の警告書が届いた。入念に調べていた僕らは特許侵害していない自信があった。でも僕らはプロダクトの方向を変えた。ただビビった、それだけだったと思う。

2019年秋、サービスローンチの準備を急ぎつつ、CEOの先輩は資金集めをしていた。お金は全く集まらなかった。最初は出すのが確実だと思っていたVCから最後の最後に直接断りの連絡をもらった時、日本橋のカフェのテラスで星空を見上げた。途方に暮れるという言葉がぴったりの光景だった。

でも僕らにはまだプロダクトがあった。VR腰痛肩こり改善アプリ「La Physio」を翌年1月リリースした。僕も接骨院・整骨院・病院を駆けずり回った。地元の長崎にも帰って売り込んだりもした。結果、購入の約束が取れたのは数台だけだった。

僕らの意見は割れた。会社を存続させながら「VRで人を健康にする」未来を創ろうという僕と、ヘルスケア分野でピボットを考える先輩。僕が何やらかっこよく見える言い方だがそんなことはない。未来を創る作業に正解などない、あるのは決断だけだった。

2020年2月、先輩から首を告げられた。一時的に委託で金を稼ぎながら会社の存続を提案しようと思っていた僕には、最初その言葉を理解するのに時間がかかった。でも会社の状況からしたら頭が狂ったような判断ではなく、先輩なりに会社を存続させようと考え抜いていたのだと、今は分かる。

首を告げられた次の日、会社を継がないのかと提案された。先輩は本当に狂ってしまったのかと思って笑ってしまった。しかし、VRに賭けた僕らの会社を、その未来を信じている僕が継ぐべきなのは確かなように思えた。僕はCTOからCEOになった。

2020年3月、僕は一人になった。友人からの追加出資を受け再スタートした。「VRゲームをするだけで健康になる世界を創る」。僕が創りたい未来を今度こそ創る。心は消耗していたが、それでも再スタートで気持ちは晴れやかだった。部屋に引きこもってVRゲーム開発に集中した。

数ヶ月後、納得のできるものはできなかった。何かが足りない気がした。それでもベータ版をリリースすると反応は上々だった。VRハードの会社から製品版リリースの話も来た。それでも製品版をこのまま出す自信がない僕は開発を続けた。少ない資金は着実に無くなっていった。

2020年秋冬、僕はウーバー配達をしていた。資金が尽きた中で自分の生活費だけを稼ぎながら開発を続けた。何の因果か、配達場所になった知り合いの投資家に食事を届けることになった。僕を見たその人は、無言で鼻で笑って食事の入った袋を受け取った。帰り原付に乗りながら、ヘルメットの中で大声で叫び続けた。ただただ惨めだった。それでも僕の開発の手は全く進まなかった。
(※追記:ウーバー配達をすること自体が惨めだと思ったことはなく、自分のやりたいことができないことに苛立っているだけでした。ご不快に感じられた方がいたら申し訳ありません)

2021年3月、正直もう限界だった。開発は進まないのに時間だけが過ぎた。数週間手を止めて、色々考えた。廃業、就職、あまり言うべきでないけど自分の命についても考えた。でもどれもやりたくなかった。自分がやりたいのは自分の掲げた未来を創ることだけだった。もう一度、もう一度だけ頑張ろうと思った。

2021年春、根本からゲームの面白さ作りを理解していないと思った自分は、どんなゲームが楽しいのか、そして作りたいのか、根本のゲームデザインから始めた。VR・モバイル・コンソール問わずゲームを数百本やりこんだ。ゲームデザインの本を読み漁った。知り合いのゲームデザイナーにアドバイスを求めた。twitterのフォロワーにどんなゲームがやりたいか意見を求めた。

VR シューティングゲーム「The Real SUMO VR」を作ることにした。twitterに制作の様子を載せたら毎日100以上のいいねがもらえた。フォロワーもどんどん増えた。これはいける、初めて確信に近いものが芽生えた。

2021年秋、僕の開発の手はまた止まった。ゲームデザインに確信が持てないとか、技術不足とか、色々あるとは思う。でも真の理由はわかっていた。起業してからの3年間、何もちゃんとリリースできていない自分に自信が持てなかった。そんな自分が生み出すプロダクトにも全く自信が持てなかった。自信のなさが開発の手をどんどん止めていった。

リリースを予定していた期日が過ぎ、先に予約を入れていたゲームイベントへの出展の日が来た。出せるものなどなかったが、間借りで一緒に出展する友人に迷惑をかけたくなくて1年前に作ったモックを持って、会場にいった。会場でのお客さんの反応は上々だった。twitterで知って自分のためにわざわざ来場してくれる人もいた。完成にほど遠すぎるモックでもみんな爆笑して体験してくれた。いろんな応援の声をもらい嬉しかった。でも同時に吐きそうだった。なんとも表現できない気持ちの渦に飲み込まれ、家に帰り着くと3日間立ち上がれなかった。

気づくと朝起きれなくなることが増え、一日何もしない日が続いていた。まだやれると言う気持ちとその正反対の気持ちが交互にやってきては自分の気力を毎日奪っていった。

「2022年3月まで、やってみようと思う」何度目かもうわからない挑戦期限の延期を婚約者に伝えた時、これまで何も言わずに付いてきてくれた彼女から初めて止められた。最初は意固地に抵抗した。でも涙声で語る彼女の声を聞くうちに、当たり前のことに気づいた。彼女と、自分という一番身近な存在にすら明るい未来を創れていないことに。はっきりと、僕の心が折れた。でもそこにはどこか安堵の気持ちもあったのは間違いない。その時にはもう僕には自分と会社の未来を決断する気力と自信すらなかったのだ。

2022年1月、会社の破産を申請した。そして全ての処理はもう終わった。

伝えたいこと

こうして僕の起業の旅は終わった。残ったのは借金だけだ。誤解のないように伝えておくと一緒に会社を立ち上げた先輩は彼の責任を全て果たしている。

「起業するなんてすごいね」「いい経験だったね」「これからの人生で絶対活きるよ」そんなことを周りは言ってくれる。でも僕の感想は少し違う。起業家が失敗した時、それはただ会社に使った若い頃の時間を失っただけだ。自分が人生を賭けて挑んだプロダクトはもう存在しないのだから。結果が全てだ。スタートアップは期待値をあげて自分たちをそれに追い付かせる事業形態だ。自分が成長できず、実態がついてこないと終わるのだ。

ただ、全てが無駄だったというつもりはない。月並みに言えば、今後の人生は自分次第だ。色々起業の失敗理由はあると思うが、自分だけのことを考えるなら技術力の不足が一番大きいと思う(プロダクトを設計する力も技術力に含む)。自分に、絶対的に自信があるスキルが何か一つはないと、全ての軸がぶれるのではないかと思う。ちなみにまた起業しようとは今のところ本心から全く思っていない。一人のエンジニアとして一人前になりたい、一人前のUnityエンジニアになりたい。今はただそれだけだ。借金を毎月返していきながら、自分が確実にできることを一つ一つ積み上げていこうと思っている。

起業家を暗くするような文章を書いてしまったが、起業がダメなんて言うつもりは全くない。周りの起業家はみんなすごいと尊敬するし、彼らのおかげで僕はこれからもご飯が食べていけるのだし、社会が成立している。ただ自分の力不足だっただけ、繰り返しになるが起業は結果が全てだ。あと、ホリエモンがなんかの番組で会社を存続させる鍵は「粘り強さ」だと言っていたが、その通りだと思う。力不足の上に粘りも不足していたのだ。周りの起業家でちゃんと会社を続けている人には等しくそれがあると思う。素晴らしい人たちばかりだ。
 「手が止まった」なんてカッコよく書いたが、結局僕は他の全ての一生懸命働く人たちが汗水垂らしている時に、涼しい部屋で鼻くそほじってぐうたらしてただけなのだ。甘えた人間に成功も存続もありなどしない。

だらだらと長文を書いてしまったが、この文章が一人の起業をした人間の失敗の記録として、誰かの役に立てば幸いに思う。

自分も1日1日をしっかり生きていこうと思う。

追記

最後に作り切りたかった作品、The Real SUMO VRは少しずつでいいから、完成に向けて進めていこうと思っている。でもそれを作れると言い切れるほど今の自分は強くないので、進捗があったら少しずつtwitterで報告しようと思っている。もし待ってくれている人がいたらと思い書き足す。

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