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【インタヴュー】英国へ留学した神主の想いと今後の展望

これまでの英国留学時代の経験の振り返りと、これからの神職としての想いについて述べました。よかったら読んでください。

ー日本の大学で学ばれ、さらに神職の資格を取得された後、ロンドン大学のSOAS(東洋アフリカ研究学院)へ留学されたそうですが、その目的はどのようなことだったのでしょうか?

自分が培ってきた神道観を日本という土地ではなく、普遍的な文脈で再構築する必要があると思ったからです。

神道は思想的なバックグランドが弱く、日本という土地で、日本人の感性によって無意識的に共有されながら発展してきた歴史的経緯があるので、どうしても普遍的な視点から語られないと強く感じていました。

そこで、英国に留学し、自分の神道観を一度まっさらにして学び直すために、ロンドンの大学院で神道を研究することに決めました。

ーSOAS留学で得たことはどのようなものですか?

神道の普遍的な文脈における言語化が必要だと感じました。神道について積極的に発信することで、文化的背景の違いによる課題が浮かび上がってきました。

「罪」「祓え」といった言葉を日本の文化的背景や欧州における考え方に基づいて説明することが結果として、客観性を欠いた視点による説明に繋がってしまいます。

一方で、安易に「sin(英語:罪・罪を犯す)」といったキリスト教の神学用語を用いて説明することは、キリスト教の歴史的視点から理解されてしまうことになってしまうため、適切ではありません。

まずは、文化的背景の違いを理解した上で、普遍的な言葉に置き換えて言語化することが大切であると学びました。

ー“Shinto Moments”という本を刊行されましたが、神道について英語で発信する意義は、どのようなことなのでしょうか? また、その反響はいかがでしたか?

日本や日本人という固定観念に縛られず、神道を普遍的な文脈で再構築するきっかけになればと思い、“Shinto Moments”を出版いたしました。

神社には、人為的所産として構築された宗教的象徴である聖像や偶像はありません。つまり、何か目に見える対象物に対して祈りを捧げるという慣習は昔からありませんでした。その点に関しては、いわゆる「宗教」とは大きな違いでしょう。

では、なぜ祈りの対象である偶像が必要ないのかというと、心の目を使うことが大切だからではないでしょうか。ギリシャ生まれの日本研究家であるラフカディオ・ハーン(小泉八雲)は、神道を書物からではなく、日本人の生活空間から感じとることができる感性を表現することで、日本人的な宗教観の魅力に迫りました。ハーンは、神道の神を次のように表現しています。

「この大気そのものの中に何かが在る…うっすらと霞む山並みや怪しく青い湖面に降りそそぐ明るく澄んだ光の中に、何か神々しいもの感じられる…これが神道の感覚というものだろうか」と。

ハーンは、自然現象から感じとられる「何かが在る」感覚こそが「神道の感覚」といいます。西洋人のハーンも頭で理性的に理解するのではなく、感性を持って感じとられる神道を掴み取ったのです。このように、土地や民族に縛られない神道を英語で伝えることこそ、今回“Shinto Moments”を出版した大きな意義です。

“Shinto Moments”の出版に対する興味深い事実として、もともと「神道」に関心がある方だけではなく、「自然との共生」を生活で大切にされている方からも大きな反響があったことです。西欧では、人間的倫理規範を大事にする「伝統宗教」を離れ、人間だけでなく自然、動物、植物の命を愛でることを大事にする層が拡大しています。そういった方々に「神道」とはという説明ではなく、日常生活を切り取った普遍的な感性を伝えたことによって、共感が得られたのではないかと推察しております。

ー「神主さんに学ぶ」というオンライン講座をされていますが、対象や目的について教えてください。

今回のコロナ禍の影響から、家で実施できる習慣や実践について、多くの方からお問い合わせをいただきました。神社に参拝が叶わない状況において、家で過ごす時間に少しでも心豊かな生活を送ってもらいたいという想いのもとオンライン講座を実施しました。ありがたいことに、日本だけでなく世界中の人々に参加いただきました。

難しい行ではなく、日常で当たり前に行なっていることを「ゆっくり、ていねいに」自分自身の心と対話しながら行うことを話しました。日常生活においてできる「神道習慣」を日々磨いていくことも今後は必要だと痛感しました。

ー今後のご活動の展望や、今、社会に伝えたいことを教えてください。

「足し算」ではなく、「引き算」することで、神道にすでにある魅力を洗練させていきたいと思っています。神道には、人間を「マインドフルネス」な状態に導く要素があると思っています。

しかし、あらゆるものを「足し算」することで複雑化してしまっている神道や神社を「引き算」することで、もっと大事な要素を見出したいと思います。具体的には、“Shinto Moments”で示した内容を、シンプルに感じられる要素「音」や「動き」に落とし込んで、人の感性を豊かにする手助けがしたいと考えています。


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