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しなやかな不死

 二度のまばたきとともに意識を取り戻した猫は、体を震わせつつ立ち上がった。辺りを見回す。どうもほの暗い部屋の中にいるらしかった。
 ふと、腹のあたりに違和感を覚えた猫は、咳き込むようにしてその違和感を吐き出そうとした。
 一つ、二つ、違和感のもとが音を立てて床に落ちた。二発の銃弾だった。
「なんだ」
 音に反応して、部屋を立ち去ろうとした男が振り返った。大柄な、黒づくめの男だった。男は猫を見下ろし、顔を歪めた。
「ま、マジで生き返りやがった!」
 男は銃を猫に向けた。銃口と猫の視線がぶつかる。瞬間、猫の脳裏に声が響いた――いいかい、最初の獲物はこいつだからね。決して逃さないように。
 猫は理解した。
 猫は弾けるように駆け出す。数度の銃声。かまわずジグザグに床を駆け、男の体を踏み台にし、空中に躍り上がる。
 猫は右の前脚を振りかざした。右前脚は途中で無惨にちぎれ、骨が露出していた。その骨の先が鋭く尖っていた――ナイフか何かのように。
 猫は、骨を男の右目に突き込んだ。
 男の絶叫が響き渡る。猫は前脚を引き抜くと、もう一度突き刺した。二度、三度。四度目がとどめになった。
 男が崩れ落ちる。
 猫は床に降り立つと、痙攣する男を見つつ首を傾げた。この男は獲物だ。五人の獲物のうちの一人だ。そう言われていたからわかった。だが、誰がそう言ったのだったろうか?
 部屋の外から無数の足音が聞こえてきた。猫はこの場に留まるのが危ないと悟り、部屋から駆け出した。
 三本足で器用に駆けながら、猫はぼんやりと大事なことを思い出していた。
 さきほど頭の中に聞こえてきた声の正体は、猫の飼い主だった。そして同時に、猫の獲物、五人のうちの一人だった。飼い主が自分でそう言っていたので、間違いないはずだ。
 獲物ならば逃さない。
 探し出して狩らねばならない。
 猫は半開きの窓から、街へと飛び出した。夜の街の喧騒が、猫を塗り替えていく。

【続く】

そんな…旦那悪いっすよアタシなんかに…え、「柄にもなく遠慮するな」ですって? エヘヘ、まあ、そうなんですがネェ…んじゃ、お言葉に甘えて遠慮なくっと…ヘヘ