見出し画像

棺桶と砲火 #02 #絶叫杯

 【前回】 【総合目次】 

 機体を高速機動させながら、連中の対応の遅さを俺は嘲笑う。襲いかかる敵を眼前にして、部隊の半数はいまだ武器も構えていない。素人が。
「術式展開。『血杖(ブラッドワンド)・銃撃仕様(バレット)』」
 棺桶(コフィン)が持つ杖状兵装が、禍々しい紅光に包まれながら変形していく。照準術式を展開。棺桶の中、モニターに映る敵影に、赤い魔法陣が重なっていく。俺はそのうちの一機、いち早く動いた奴に血杖を向けた。奴も気づいて、俺に銃を向けようとする。だが遅え!
「詠え(キャスト)!」
 杖の先端より、赤光の魔弾(マジック・ミサイル)が射出される。毎秒十五発で撃ち出される魔力塊は、敵の装甲を薄紙のように引き裂いて余りある威力だ。胴体と頭部に着弾。衝撃が標的を踊らせる。火。爆散。ここまでが数秒の出来事。俺はその時には、すでに第二、第三の標的を仕留めにかかっていた。詠唱(キャスト)、着弾、火、爆散。遅い遅い、本当に遅すぎる。

 いや、いくらなんでも弱すぎやしねえか。ヴァーニーの話じゃあ、そこそこの精鋭ってはずなんだが。
 四体目を蜂の巣にしつつ、ヴァーニーの機体に顔を向ける。俺のと同じ漆黒の棺桶(コフィン)が、紅い刃をはやした血杖で敵を切り裂いていた。撃剣仕様(ブレード)による近接格闘戦、奴の得意戦法だ。全く、何度見ても見事なもんだね。血のプディングを切り分けるぐらいのノリで、人間どもの機体を切り刻んでいきやがる。
 瞬間、気配。
 ペダルを強く踏み込んだ。棺桶(コフィン)が加速。回避行動。遅れてきた銃弾が、俺のいない空間を貫いていく。そのときにはすでに、俺は射手の横に回り込んでいる。照準。敵は俺の動きについてこれない。雑魚め。踊れよ!

 二人合わせて半分ほどを鉄屑に変えてやったところで、連中は逃走を図り始めた。殲滅が目的じゃないから、追うことはしない。だが正直、この程度の連中なら俺とヴァーニーの二人でどうとでもできただろう。
<アルノルト。僕が周囲を警戒しておくから、そのコンテナを調査してくれないか>
 ヴァーニーの通信に了解のサインを返し、俺は残されたコンテナに近寄った。装甲トラックの荷台に載せられたそれは、一見なんの変哲もない、ただのコンテナとしか言いようのない代物だ。
<どう?>
「あー、そうだな。ただのコンテナっぽいが、開閉部は魔術錠で封じられていやがる……なんだこりゃ、すげえ密度の封印じゃねえか。中を見たけりゃあ、この馬鹿丁寧な術式を解呪するか、それともタマを数発打ち込んでやるかのどちらかしかねえな」
<中身が不明だし、過激な手段はやめといたほうがいいだろうね>
「同感だぜ。だけどよ、こんな高密度の封印、この場でちょちょいと解呪って訳にはいかねえよ。魔導研の連中に任せなきゃってレベルだ」
<みたいだね>
「腰の重い連中のことだ、頭下げて頼んだってこんなところまで来ちゃくれねえだろ。ってことはなにか、基地まで持って帰るってってことかコレ」
<そうだね、できればそうしたい。輸送隊でもなさそうな連中が後生大事に運んでいた代物だ。ただの補給品、ってことはないと思う。下手すると、秘密裏に輸送されていた敵の新型兵器、なんてこともありうるからね>
 俺は棺桶(コフィン)の中で頭を抱えた。
「マジか」
<マジだよ>
「俺たち二人だけで運ぶのかよ」
<あ、そっち? だって仕方ないじゃん。得体のしれないコンテナ回収みたいな些事にまで人を回せる余裕があるんだったら、そもそも僕と君の二人だけで敵を強襲なんてことしてないって>

 いま、思えば。
 俺はこのとき疑問を感じるべきだったんだろう。

 この作戦は、ヴァーニーから俺に持ちかけてきたものだった。仕掛けた罠にかかりそうな小鳥の群れがいる、いっしょに食いちぎりに行かないか……そう言ってきたヴァーニーの言葉を、俺はなんの疑問も持たずに受け止めた。当たり前だ。百五十年かそこらつるんできた奴の言葉を、今更なんで疑うってんだ。ありえねえだろ。
 
 そうだ、ありえねえ。そう思っていた。で、今やこのざまだ。

続く

そんな…旦那悪いっすよアタシなんかに…え、「柄にもなく遠慮するな」ですって? エヘヘ、まあ、そうなんですがネェ…んじゃ、お言葉に甘えて遠慮なくっと…ヘヘ