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白磁のアイアンメイデン外伝 タイーラとデンダ2

 王都クストルより西へ数里、地図では「サッガの森」と呼ばれる大森林地帯。森の中央を走る街道から少し離れたところで、夜闇の中、あかあかと燃える焚き火を挟んで語らう二つの人影があった。人影の一つはまだ年端も行かぬ少年。もう一つは年を重ねた老爺である。

タイーラ」老爺が物静かな口調で語りかける。「そんなことを、言ってはいけないよ」

「でも!」タイーラと呼ばれた少年は、不満を隠さぬ口調で言い返す。「おかしいよデンダじいちゃん。だってきょうは土曜日でしょう。みんなお休みする日じゃないの。それなのに朝から晩まで仕事しているだなんて!」

「タイーラ」老爺の声はあくまで優しい。「それはそうだ。みんなが休んでいるときに働くなどと、自然の摂理に反することだ。だけどね、そういうときだからこそ忙しくしなければいけないお仕事というのもあるんだよ」

「ふーん」わかったようなわからないような顔でタイーラは老爺の言葉を受け止めると、「おっかしー!」少年特有の残酷さで一刀両断する。

「あ、でもでも!」一転、嬉しくてしょうがないと言った表情でタイーラがデンダに語りかける。「明日は日曜日、しかも祝日だよ! しかも月曜日は振替休日で、三連休になるんだって! タノシミだよね! 救世主様も『連休楽しむべし、慈悲はない』って言ってるし!」

 老爺の表情が固く暗いものに変わったのを、少年は見逃さなかった。

「え…?」

「タイーラ」老爺は変わらず優しい口調で少年に語りかける。
「タイーラ」だが、何かがおかしい。何かが。

「……!」タイーラは違和感の原因に気づいた。焚き火越しに見えている老爺の姿、その輪郭がわずかにぼやけて見えているのだ。なんだろう。目がおかしくなったのかな。タイーラは目をこすり、今一度老爺の姿を見る。

 少年は己の勘違いに気づいた。輪郭がぼやけているのではない。老爺の周囲に広がる夜闇が、老爺の体を飲み込まんとしているのだ!

「デンダじいちゃん! なんか変だよ! 大丈夫!?」
 タイーラは必死で呼びかける。
「タイーラ。覚えておきなさい」
老爺は動じる様子なく、少年へ語りかけ続ける。

「たしかに日曜日は祝日で、それに伴う三連休を堪能できる人も居るじゃろう。それは間違いない。だがね、覚えておきなさい。だからこそ……だからこそ、やはり朝から晩まで働くことを余儀なくされる……そういう人間も、いるのだということを……覚えておくんだよ、タイーラ」

 老爺を呑み込む夜闇はその勢いを早め、最早老爺の体の半分ほどを飲み込みとどまるところを知らなかった。タイーラは必死で呼びかけ続ける。まるでそうすれば老爺を闇から取り返せるのだとでも言うように。

 だがそれは、むなしき抵抗であった。

 大好きなおじいちゃんが闇に呑まれようとしている。少年はそこで気づいた。あれは絶望の闇だ。三連休なんて夢のまた夢でしかない人間たちの、怨嗟が生んだ恐るべきなにかだ。このままだとおじいちゃんが闇に呑まれてしまう! 何か、なにか無いのだろうか。絶望の夜闇を払う光は。希望に満ちあふれた何かは!

 そのとき、タイーラの頭の中に、稲妻にも似た閃きがはしった。そうだ、なんで忘れていたんだろう。今日は7月13日! そして昨日から始まったのが……!

プリキュア!」タイーラは力の限り叫んだ。「全プリキュア大投票!

 老爺を呑む闇が、その動きを止める。

「おじいちゃん、言っていたじゃない。『もしも公式のプリキュアの人気投票が実施されたら、基本的に全シリーズ好きな儂は身を引き裂かれるような思いをするだろう、だけどねタイーラ、実現すればそれはそれは素敵なイベントになるとは思わないか』って! そんなイベントを、NHKが、天下の公共放送がやってくれるんだ! そしてその結果を2019年9月14日(土曜日)、第一部第二部あわせて一挙3時間半かけて発表する! それに先駆けた特集番組「歴史秘話 プリキュアヒストリア」も8月10日(土曜日)に放送されるんだって! まさに奇跡のカーニバルだよ! だからそんな闇なんかに負けないで、はやく……投票を……!」

 少年は見た。

 老爺はほぼ全身を夜闇に呑み込まれ、後はその顔を残すのみ。
 その顔が、焚き火の赤い光に照らされて。

 笑っていた。

「デンダ……じいちゃん……!」

 タイーラの見ている前で、老人の体が瞬時にパンプアップ! 吹き飛ぶ上半身の衣服! その下から現れる彫刻の精緻さと鋼鉄の頑強さを兼ね備えた肉体を誇示するかのようにポージングを決めてみせる! それに伴い全身から溢れ出す謎の怪発光! 己の体にまとわりつく闇を一瞬で吹き飛ばす!

「タイーラよ」老人は漆黒の闇夜にもかかわらず白く輝く歯を見せながら笑った。あたかもそこにだけは南国の風が吹き付けるような、輝かしい笑顔だ。「よく、教えてくれた。おかげで儂は闇に呑まれずに済んだよ。ありがとう」

 そう言うと、デンダはサッガの森のなかに歩を進めようとする。
「おじいちゃん! 一体どこへ行くの?」
「うむ」老爺は瞳に熱き思いを浮かべながら応える。
「タイーラや、このようなイベントの実施はたしかに喜ばしきことだ。だがねタイーラ、よく覚えておくんだよ。こういうときには必ず現れるんだ。『ハートキャッチが最高、後はゴミ』だの『SS(スプラッシュスター)やハピネスチャージは駄作』だの『スマプリ(スマイルプリキュア)が一位じゃないとか、不正が行われたに違いない。クソ運営』だのとわめきだし折角のイベントに水を差す愚か者がね。儂は、そういう輩に裁きの『プリキュア・マーブルスクリュー・マックス』を叩き込みに行こうと思うんだ」

 そういうとデンダは、タイーラが応える前に獣じみた速さで闇の奥に消えていった。

「おじいちゃん……おじいちゃん……」
 闇の中、一人残されたデンダはうわ言のように老爺を呼ぶ。

「おじいちゃん……がんばって……!『初代以外は見ていない』なんて自慢げに言う人たちにも叩き込んでほしいな……。でも、『プリキュア・マーブルスクリュー・マックス』はキュアブラックとキュアホワイトの二人が手をつなぐことで初めて放てる浄化技だよ……一人ではできないのに……」

 デンダの声は闇に吸い込まれる。応えるものは、無かった。

白磁のアイアンメイデン外伝 タイーラとデンダ2 完

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そんな…旦那悪いっすよアタシなんかに…え、「柄にもなく遠慮するな」ですって? エヘヘ、まあ、そうなんですがネェ…んじゃ、お言葉に甘えて遠慮なくっと…ヘヘ

感謝の極みです・・・!
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男女問わず殴ったり蹴ったり斬ったり手からビーム的な何かを出したりとか大好きおじさんです。とりあえず逆噴射小説大賞に応募するために20年ぶりぐらいに小説書きました。書き続けられるといいなあ。ツイッター https://twitter.com/tairada
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