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美華子と千枝

「あの子はさ、田舎で好きな人の奥さんとかやってる方が性に合ってたのよ。たぶんだけど。」
美華子は、黒のタイトスカートからスラリと伸びた脚を組み替えながら、こともなげにそう言った。
上半身は、そこらのスーツ屋では見ない、凝ったデザインのブラウスとジャケットに包まれ、胸元には大きさは控えめだが、太陽の下で強い光を放つ宝石がぶら下がっていた。
「ふーん」
ズズっと音を立てながら、残りのアイスコーヒーをストローで吸い上げた千枝は、グラスの中の氷を眺めながら気のない返事をした。ふやける紙ストローでカラコロ氷を弄びながら、視線を美華子の足に移した。驚くほど細長くしなやかに伸びた足先は、ツヤツヤの黒のピンヒールに小さく収まっていた。「みかちゃん、いつからこんな格好するようになったんだっけか。」と記憶を辿ろうとしたが、こんな靴じゃあすぐ側溝にはまるな、という子供じみた想像がことの他面白く感じられ、ふっと笑みをこぼした。

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