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企業が借金を返済せずに倒産したら、その企業の借金で生まれたお金は残るのか消えるのか?

 企業が借金を返済せずに倒産したら、その企業の借金で生まれたお金(マネーストック)はそのまま残るのか消えるのか?普通はこんなこと考えないし、何となく消えるんじゃないかと思う人もいるかと思います。

 そこで、ある企業が市中銀行から借金をして銀行預金が生まれて、その後その企業が借金を返済したり、返済せずに倒産した場合、マネーストックと、その市中銀行の資産である日銀当座預金と貸出金、負債である銀行預金、そして純資産がどうなるか、そしてそこから見えてくることについてまとめてみました。

 生まれた銀行預金がどこに行くかで2種類(2aと2b)、借金返済に使われる銀行預金はどこからくるかで2種類(3aと3b)、これらの組み合わせの4つの場合(c,d,e,f)を見ていきます。


各段階ごとの変化

 まず、各段階ごとの変化は以下のようになります。

(1) X社がA銀行に1億円の借用書(A銀行の資産。金利は5%とする)を渡し、A銀行はX社の銀行預金口座の残高(A銀行の負債)を1億円増やす。
  マネーストック    1億円増加
  A銀行の日銀当座預金  変化なし
  A銀行の貸出金     1億円増加
  A銀行の銀行預金    1億円増加
  A銀行の純資産     変化なし

(2a) X社がA銀行にあるY社の口座に1億円振り込む。
  マネーストック    変化なし
  A銀行の日銀当座預金  変化なし
  A銀行の貸出金     変化なし
  A銀行の銀行預金    変化なし
  A銀行の純資産     変化なし

(2b) X社がB銀行にあるZ社の口座に1億円振り込む。
  マネーストック    変化なし
  A銀行の日銀当座預金  1億円減少
  A銀行の貸出金     変化なし
  A銀行の銀行預金    1億円減少
  A銀行の純資産     変化なし
  B銀行の日銀当座預金  1億円増加
  B銀行の銀行預金    1億円増加
  B銀行の純資産     変化なし

※銀行預金がA銀行からB銀行に移動しただけなのになぜ日銀当座預金まで移動するのかといいますと、銀行預金だけが移動するとA銀行は純資産が増えてB銀行は純資産が減ってしまうので、市中銀行間で銀行預金が移動するときは日銀当座預金も移動させて純資産が変わらないようにバランスを取る仕組みになっているからです。

(3a) 1年後にX社の口座にA銀行の別口座から1億500万円振り込まれ、それで借金を返済する。このときX社の銀行預金1億500万円と1億円の借用書が相殺されて消える。
  マネーストック    1億500万円減少
  A銀行の日銀当座預金  変化なし
  A銀行の貸出金     1億円減少
  A銀行の銀行預金    1億500万円減少
  A銀行の純資産     500万円増加

(3b) 1年後にX社の口座にB銀行のどこかの口座から1億500万円振り込まれ、それで借金を返済する。このときX社の銀行預金1億500万円と1億円の借用書が相殺されて消える。
  マネーストック    1億500万円減少
  A銀行の日銀当座預金  1億500万円増加
  A銀行の貸出金     1億円減少
  A銀行の銀行預金    変化なし
  A銀行の純資産     500万円増加
  B銀行の日銀当座預金  1億500万円減少
  B銀行の銀行預金    1億500万円減少
  B銀行の純資産     変化なし

(4) X社が借金を返さずに倒産した場合、A銀行の持つ1億円の借用書の価値が0円になる。
  マネーストック    変化なし
  A銀行の日銀当座預金  変化なし
  A銀行の貸出金     1億円減少
  A銀行の銀行預金    変化なし
  A銀行の純資産     1億円減少

各パターンごとに一連の流れを合算

 次に、一連の流れを合算すると以下になります。「A銀行の貸出金」は全てのパターンで「変化なし」なので省略します。

(c) A銀行内で全て完結する場合
・借金返済するパターン:1→2a→3a
  マネーストック    500万円減少
  A銀行の日銀当座預金  変化なし
  A銀行の銀行預金    500万円減少
  A銀行の純資産     500万円増加

・倒産するパターン  :1→2a→4
  マネーストック    1億円増加
  A銀行の日銀当座預金  変化なし
  A銀行の銀行預金    1億円増加
  A銀行の純資産     1億円減少

(d) X社がA銀行にあるY社の口座に振り込み、借金返済する場合はそのお金がB銀行のどこかの口座から振り込まれた場合
・借金返済するパターン:1→2a→3b
  マネーストック    500万円減少
  A銀行の日銀当座預金  1億500万円増加
  A銀行の銀行預金    1億円増加
  A銀行の純資産     500万円増加

・倒産するパターン  :1→2a→4 (c)の倒産するパターンと同じ

(e) X社がB銀行にあるZ社の口座に振り込み、借金返済する場合はそのお金がA銀行の別の口座から振り込まれた場合
・借金返済するパターン:1→2b→3a
  マネーストック    500万円減少
  A銀行の日銀当座預金  1億円減少
  A銀行の銀行預金    1億500万円減少
  A銀行の純資産     500万円増加

・倒産するパターン  :1→2b→4
  マネーストック    1億円増加
  A銀行の日銀当座預金  1億円減少
  A銀行の銀行預金    変化なし
  A銀行の純資産     1億円減少

(f) X社がB銀行にあるZ社の口座に振り込み、借金返済する場合はそのお金がB銀行のどこかの口座から振り込まれた場合
・借金返済するパターン:1→2b→3b
  マネーストック    500万円減少
  A銀行の日銀当座預金  500万円増加
  A銀行の銀行預金    変化なし
  A銀行の純資産     500万円増加

・倒産するパターン  :1→2b→4 (e)の倒産するパターンと同じ

まとめ

 まず最初に借金した時にマネーストックが1億円増えます。そしてどの場合でも、1年後に1億500万円借金が返されればトータルでマネーストックは500万円減り、A銀行の純資産は500万円増えます。
 そして、どの場合でも借金が返されなかったらマネーストックは1億円増えたままになり、A銀行は1億円の借用書が紙くずになるので純資産は1億円減ります。
 またA銀行の日銀当座預金や銀行預金は場合によって様々です。
 あと、ごちゃごちゃしすぎるので省略しましたが、X社が借金したあと現金として引き出したり、借金返済のために現金を預金したりした場合でも、マネーストックと純資産の変化は銀行預金を振り込んだり振り込まれたりした場合と同じ結果になります。

 というわけで、企業が借金を返済せずに倒産するとマネーストックは増えたままになります。

一連の動きから見えること

 この一連の動きを追うことで以下のことが分かります。

(1) 銀行に借金を返済したとき、自分の資産(銀行預金)が移動して銀行の資産になっているわけではない

 例えばAさんがBさんから100万円借りていて、それを返す時にAさんの口座からBさんの口座に振り込んだとします。このときAさんの資産である100万円が移動してBさんの資産になります。
 このため多くの人は、銀行への借金返済の場合も自分の銀行預金が移動して銀行の資産になったと考えるのではないかと思います。そして「ではその資産とは具体的に何なのか?」と考え始めると、袋小路に入り込んでしまいます。なぜならそんな資産は存在しないからです。単に自分の銀行預金が消えただけで、その分がどこかに移動しているわけではないからです。
 銀行がお金を貸す時に銀行の資産を借り手に渡すのではなく銀行預金を増やすことで貸しているので、返済の時はその逆で減らしているだけ、と考えると納得しやすいと思います。
 もし返済によって銀行の何らかの資産が増えてしまうと辻褄が合わなくなってしまいます。

(2) 銀行は銀行預金を消すことで金利分の利益を得ている
 「銀行はお金を貸して金利を得ている」と聞くと、金利を得ることで銀行が持っているお金が増えることを想像してしまいますが、これも(1)と同じで金利分の銀行預金を消しているだけです。

(3) 借金してそれを返済すれば全てが元に戻るというわけではなく、金利があるので借金する前よりもマネーストックは減る

(4) 借金が返済されなければマネーストックは増えたままになる

おまけ もし他行への銀行預金の振り込みで日銀当座預金の移動がなかったら

 XさんがA銀行の自分の口座からB銀行にあるZさんの口座にお金を振り込んだ時、銀行預金が移動するだけで日銀当座預金の移動がなかったらどうなるでしょうか。

 以下は電話でのやり取りを想像してください。

Xさん「Zさんの口座に1億円振り込みましたので確認してください」
Zさん「はい。確認しました」

A銀行「Xさんのおかげで負債が1億円減りました。ありがとうございました」
Xさん「何のことかよくわかりませんが、とにかくよかったですね」

B銀行「おいこらXコノヤロー。お前のせいで負債が1億円増えたじゃねーか!」
Xさん「???」

 このようになってしまい、これではB銀行が可哀想です。こうならないようにするために銀行預金の移動に合わせて同じ金額分の日銀当座預金も移動させることで、振り込みの前後でA銀行とB銀行の純資産が変化しないようにします。

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