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世の中から全てのお金が消えた場合、その後どのようにしてお金が世の中に出回るのか

 現代の日本において、魔法か何かである日突然世の中からお金がすべて消えたとします。その後どのようにしてお金が世の中に出回るかについて考えてみました。
 出回るルートはいくつか考えられますが、現在行われている2つのルートのいずれかが最初になると思います。


「市中銀行に借金」ルート

 まず1つ目は「個人や企業などが市中銀行に借金することで生まれたお金が流通する」というルートです。この場合、具体的には以下の順番でお金が生まれて流通することになります。

(1) 市中銀行が日銀から日銀当座預金を借りる(準備預金制度により市中銀行は日銀当座預金がないと銀行預金を発行して貸し付けることができないため)。この時日銀当座預金が発行される。
(2) 市中銀行が顧客からの銀行預金の引き出しに備えるために日銀当座預金をある程度引き出して現金を確保する。
(3) 誰かが市中銀行に借金をする。この時に銀行預金が発行される。
(4) 銀行預金を持っている人が銀行預金を引き出す。このとき市中に現金が出回ることになる。
※(2)と(3)の順番は逆でも構わない。

 ここで重要なポイントは以下です。
・日銀当座預金が生まれる前に銀行預金が生まれることは無い
・銀行預金が生まれる前に現金が市中に出回ることは無い

 つまり「日銀当座預金発行→銀行預金発行→現金が市中を流通」という順番で出回ることになります。

「政府支出」ルート

 もう1つは「政府が支出することで生まれたお金が流通する」というルートです。この場合は以下の順番になります。

(1) 政府が国庫短期証券を発行
(2) 日銀が政府預金を発行して国庫短期証券を買う(市中銀行が日銀から日銀当座預金を借りてそのお金で買う場合もある。この場合も政府預金が発行される)。その結果政府は政府預金を得る。
(3) 政府が公共事業などに支出する(例えばA銀行にあるB社の口座に1億円振り込む場合は以下になる)
 (3-1) 日銀が政府預金を1億円減らし、A銀行の日銀当座預金を1億円増やす(日銀当座預金の発行)
 (3-2) A銀行がB社の銀行預金を1億円増やす(銀行預金の発行)
(4) B社が現金を引き出す(市中に現金が出回る)

 この場合もやはり「日銀当座預金発行→銀行預金発行→現金が市中を流通」という順番で出回ることになります。

政府支出の際に日銀当座預金を増やす理由

 「政府支出」ルートの説明において、政府がB社にお金を払うときになぜA銀行の日銀当座預金を増やすのかについて疑問を持つ方がいるかもしれませんので説明します。

 まず、B社の銀行預金の口座はA銀行にあり、この預金はA銀行にとっては負債でありB社にとっては資産です。
 これと同様に、政府預金の口座とA銀行の日銀当座預金の口座は日銀にあり、どちらの預金も日銀にとっては負債であり政府やA銀行にとっては資産です。
 もし政府がB社にお金を払う時の処理が「政府預金を1億円減らしてB社の銀行預金を1億円増やす」だけだと、政府がB社にお金を払っただけなのに日銀は負債が1億円減り、A銀行は負債が1億円増えることになります。要するに政府がB社にお金を払うと日銀はそれだけ儲かってA銀行はそれだけ損することになってしまいます。これはおかしいので、そうならないようにするためにA銀行の日銀当座預金を同額分増やすことで調節します。
 これは「政府はA銀行に1億円払ってその分だけB社の銀行預金を増やしてもらってる」と考えると理解しやすいのではないかと思います。

 ちなみに以下ページの図が理解の助けになるかと思います。

 日本銀行 国庫金に関する業務
 https://www.boj.or.jp/note_tfjgs/kokko/index.htm

 これはA銀行にあるB社の口座からC銀行にあるD社の口座に1億円を振り込む場合も同様で、単にB社とD社の銀行預金の残高を変えるだけでなく、A銀行の日銀当座預金を1億円減らし、C銀行の日銀当座預金を1億円増やして調節します。
 この場合は「B社はA銀行に1億円払ってD社の銀行預金を1億円増やすよう依頼し、それを受けてA銀行はC銀行に1億円払ってD社の銀行預金を増やしてもらってる」と考えることができます。
 しかしこれはちょっとややこしいので「銀行間をまたぐ銀行預金の移動の時は日銀当座預金も一緒に移動する」と単純に覚えておくのがいいかもしれません。

 ではA銀行にあるB社の口座から同じA銀行にあるE社の口座に振り込む場合はどうなるとかというと、単にB社とE社の銀行預金の残高を変えるだけで終わり、A銀行の日銀当座預金は変わりません。

現在は「現金が最初」ではない

 誰でも生まれて初めて認識するお金は現金で、それを銀行に預けて銀行預金を持つという経験をし、そして日銀当座預金の存在については知らない人がほとんどだと思います。
 だから「まず最初に現金があって、それを預金するから銀行預金が生まれる」と何となく思っている人は多いのではないかと思います。しかし本当はそれ以前に「日銀当座預金が生まれ、銀行預金が生まれ、それが引き出されることで現金が市中に出回る」ということが起きている、と理解するのがよいと思います。
 そのようにして自分のところに回ってきた現金を預金しているわけで、現金が一番最初ではないんですね。

 ずーっと歴史を遡っていけば「現金(和同開珎)が最初」となるのかもしれませんがそれはまた別の話で、今現在の日本の仕組みではこうなってるという話でした。

 ちなみに最近新紙幣が発行されましたが、これもまず市中銀行が日銀当座預金を引き出すことで新紙幣が日銀から市中銀行に移動し、人々が市中銀行から銀行預金を引き出すことで新紙幣が市中銀行から人々に移動し、それが買い物などに使われることで流通する、という順番になっています。

おまけ 「私たちのお金」で国債を買っているわけではない

 私たちが現金を市中銀行に預金し、その現金を市中銀行が日銀に預金すると日銀当座預金が生まれます。また国債は日銀当座預金で買われています。なのでこれを根拠にして「日銀当座預金の原資は私たちのお金。私たちのお金で国債が買われている」といった主張をする人を見かけることがあるのですが、それは都合のいいところを切り取った詭弁だと思います。
 なぜならその現金は元々日銀当座預金を引き出す時に出てきたものであり、それに一度も世の中に現金が出回ったことがなくても、一度も銀行預金が生まれたことがなくても、日銀当座預金で国債を買うことができるからです。

 現金というのは経済活動をスムーズにするために必要に応じて日銀から供給され、それが世の中を巡り、余った分はまた日銀に戻されているだけのもの、と考えるのがいいと思います。

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