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聴く力〜他者と良好な関係性を築く傾聴の技術〜

 我々、理学療法士の様な医療関係者は、それぞれに高度の専門性を有している専門職者です。それゆえに、それぞれの領域の知識や技術に目が行ってしまうことが多い様に思いますが、医療関係者の全ての職種において、共通して重要なスキルがあります。

それは、「コミュニケーション」である。と思います。

 当たり前やん、という声が聞こえる。
そう、当たり前のことです。

 しかし、この当たり前の「コミュニケーション」に対して、意識を向け、注意深くその在り方について考えたことはあるでしょうか?

■コミュニケーションの大切さ


 最近では、僕自身その重要性を認識し、スキルとして高めるべく、知識・技術の習得と臨床実践を行なっているところですが、以前はそれほど注意深く考えることはなく、僕の関心はもっぱら理学療法士の専門知識や技術でした。

 しかし、臨床経験を重ねていくうち、良好なコミュニケーションが実践できた(あくまで僕の主観です)患者さんとそうでない患者さんでは、運動学習や治療の結果に差が生じてくる印象が強く、そこから、「良いコミュニケーションとは何か?」「運動学習を促進するコミュニケーションの方法は何か?」なんてことを考える様になりました。

 それからは、まず知識の習得のために本を読み、そして臨床実践し、トライ・アンド・エラーの中でコミュニケーション能力を鍛えていきました。

 僕自身、人とコミュニケーションをとるということはそれほど得意な方ではなかったので、しっかり本を読み、スキルとして習得を目指した。世の中には、天然でうまいこと良好なコミュニケーションを成立させてしまう様な、コミュニケーションモンスターも存在していて、羨ましい限りです。

 ただ、それは自分にはできないと早めに見切って、スキルとして論理的に理解しようと努めたことは今となっては、良い選択だったと思っています。

 コミュニケーションのスキルは数多くありますが、本記事でそれらについて詳細に記述するということは控えたいと思います。非常に奥が深い世界であり、僕が知っている知識は小指の先の爪の垢ほどの大きさしかないと思っています。よって、本記事ではテーマを限定し、自分の体験を通してその重要性を共有します。

※以下に本記事の参考書籍のリンクを貼っておくので、コミュニケーションに関して興味が湧いた方は、参考にしていただければ。

【参考書籍】


■傾聴

 コミュニケーションにおけるテクニックの中に、「傾聴」と呼ばれるものがあります。

知っとるわ!という声が聞こえる。
しかし、怯まない。続けます。

今回はこの「傾聴」を主要なテーマとして取り上げていきます。

傾聴とは

(耳を傾けて)熱心にきくこと。
Oxford Languages

とされています。Googleで調べただけなんだけれど。

 患者さんの話を聞くということは大切。というのはよく聞く話で、患者さんの話を傾聴しましょうなんてことはよく言われると思います。

 しかし、これはただ「聞くだけ」ではない。ということは理解しておかなければならない。傾聴には踏むべきステップとポイントがあり、

それは、

① 質問する
② 全肯定する
③ 反応を返す
④ 先回りして代弁する  です。

上記のポイントはいくつかの書籍を読んだ上で、僕自信が大切だと思った要素でなので、他にも何かあるかもしれませんが、本記事では上記のポイントについて以下に詳述していきます。

■質問する

 いきなり、傾聴ではなく質問の話です。

 僕たち医療関係者はただ話を聞こうと思って、患者さんに近づいたところで、この人何しにきたんや?と思われるだけですよね。当たり前です。だから、まずは自己開示。自分が何者であるかをしっかり示した上で、「あなたのことを聞かせてください。」と質問をしていくわけです。

 ここで注意しないといけないのは「提案」はせずに「質問」をするということです。「こうしたらいいんじゃないですか?」というこちらの意見はいったん我慢しましょう。提案は相手の意見を全て聞いた後です。

 質問の内容はその時々で変化するとは思いますが、いきなりプライベートに踏み込んだことは避けた方がいいかと思います。入院している患者さんであれば、疾患に関すること(現病歴など)などから入っていくといいと思います。医療従事者と患者さんは基本的に他人でしょうから、疾患等がまずは共通するテーマになるだろうと思います。

■全肯定する


 「全肯定」とはそのまま、全てを肯定することを意味します。これは、全てを正しいと認めて、「私も同意見です」と共感するということではありません。

 我々、医療従事者と患者さんはいうまでもなく、赤の他人ですから、全てを理解し共感することはおそらく困難でしょう。限りなく不可能に近いと言えると思います。

「話している相手を決して否定しない、そしてあなた自身も否定させない」 ということです。  つまり、相手との間に「否定のない空間」を作るのです。 人は、自分を肯定してくれる人を肯定するようにできています。
松永茂久『人は話し方が9割』すばる舎(2019)

 松永茂久先生の「人は話し方が9割」という、有名な書籍の中で、話している相手を決して否定しないこと、それは自分自信も否定されないということにつながるということが書かれていました。ですから、良好なコミュニケーションを実現するためには、何らかの工夫をして「否定のない会話」を実現することが必要なんです。

 そのためには、全てに対して共感するという意味ではなく、「あなたはそう思っているんですね。分かりました。」ということを実践することが必要です。まずは、全てに共感しなくてもいいんです。相手がそう思っている(あるいは目の前でそう言っている)という事実そのものを、確実にそこにあるものとして肯定するということです。そうすれば、全ての内容に関して否定しようがないので、肯定することが可能です。

 人はいきなり否定されると、壁を作ってしまいます。ですから、こちらがあなたが言っている事実を「ただ肯定する」という反応を示せば、全てを認め共感をしていなくても、否定されたという体験には繋がりづらいのではないかと思います。

 この様な、否定を含まない対応をすることで、その後の会話や関係性がスムーズになっていくのではないかと思います。

■反応を返す


 ただ無表情で、話を聞くだけでは「こいつ話聞いてんのかな?」と疑われて、不快な思いをさせてしまいます。

 ですから、ちゃんと反応を返すということが大切です。頷く、相槌を打つ、表情を変える、おうむ返し(復唱する)などが比較的よく聞くものかなと思います。

 鈴木義之先生は『新 コーチングが人を活かす』では、「復唱すること」について以下の様に記述されています。

相手に安心感を与える非常に強力な方法が〝同じ言葉を繰り返す〟ことです。語尾だけを繰り返してもよいし、あるいは「そうだよね」などの文で置き換えてもかまいません。 〝同じ言葉を繰り返す〟ことは、相手の意見に賛成するということではありません。相手が今そういう状態にあることを認めるということです。
鈴木義幸『新 コーチングが人を活かす』ディスカヴァー・トゥエンティワン (2020)

 これは、全肯定にも繋がる様な記述もありますね。相手に対して肯定的に反応をすることが大切で、相手の状態をそのまま認めるということが大切なんだと思います。この書籍の中では復唱以外の要素に関しても解説してくれていますので是非読んでいただきたい一冊です。

 相手の話を傾聴する際には、何かしらの反応を返すことで、「私の話を聞いてくれている」と認識していただきやすくなります。それは、相手を認めているということになりますので、その後も話してくれやすくなるのではないかと思います。

■先回りして代弁する


 これは、強力な方法です。しかし、リスクを伴うので十分に注意して用いなければなりません。

 ただ、うまくいけば強力に信頼を得ることができます。

 相手の話をただ聞くだけでなく、「全肯定」のマインドで、しっかり反応を返しながら聞くというのがここまでの話でしたが、最後の工程として、

「相手が言わんとしていることを予測し、先回りしてこちらから代弁する」と言うことが効果的であると感じます。

 相手の話をよく聞いて、その文脈から予測される結論をこちらから「〇〇ということですか?」と質問してみるということです。これが、相手が言おうとしていたことをうまく代弁できた場合、「そうそう!そういうことですよ!」と言った具合に、相手は「この人は私の話をよく聞いて理解してくれている」と感じていただきやすくなる様に感じます。

 しかし、注意が必要です。みなさんもお分かりの様に、その発言は予測に基づいているということ。確実なことではないということです。ですから、誤って相手の言わんとしていることから大きくズレたことを言ってしまうと、かえって信頼を損なってしまう恐れもあるということです。

 そう、これは諸刃(両刃)の剣なのです。

 ですから、ある程度確信を持って発言する必要があると思いますし、しばらくは反応しながら話を聞くということに徹して、ある程度の信頼関係が構築されたところで、「先回りして代弁」を行ってみるというのもいいかも知れません。しかし、リスクをしっかり回避できれば非常に強力な方法ですので、実践してみる価値はあると思います。

■まとめ

 本記事の内容を要約すると、

「他者と良好なコミュニケーションを実践していくためには傾聴の技術が重要。それは、相手の言葉を質問によって引き出し、全肯定のマインドを持って決して否定することなく、反応を返しながら聴くことである。そして、可能であれば相手が言わんとしている事を予測し代弁するとより効果的に傾聴が作用する」

ということになります。

 自分自身、コミュニケーションには苦手意識がありました。しかし、人を相手にする仕事である以上、苦手のままほっといておくのは問題があると感じて、学習をしてみました。本記事では「傾聴」に関する内容のみを扱いましたが、それ以外にも様々なコミュニケーションの技術や考え方が存在していて、非常に面白い学問であると感じています。今回は、患者さんとの会話を想定して記述をしていきましたが、職場の同僚や上司、後輩、他職種、患者さんの家族などとコミュニケーションをする場合においても、役に立つ考え方かと思います。巷に存在しているコミュニケーションモンスター達は、こういった事を素で行っている可能性があると思うと羨ましく思いますが、素ではできないので、僕は本を読んで実践して学習します。その様にすることで、自分自身、コミュニケーションに対する苦手意識は少しずつ減ってきました。

 本記事が、僕と同じ様な悩みをお持ちの方々の目に留まり、苦手を克服していくきっかけにしていただくことができれば、非常に嬉しく思います。

【参考書籍】

※本記事は、あくまで私が書籍を読んだ上で咀嚼し、私というフィルターを通して表現しているものになります。よって、基本的には私の個人的見解を多く含んだ内容になります。その点ご了承いただいた上で、ご興味を持っていただけたのであれば、是非、参考書籍を手に取っていただければと思います。
最後まで読んでいただきありがとうございました。        はましょー

※私はAmazonアソシエイトメンバーです。

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