団地の遊び 行ったことのない場所

行ったことのない場所

 団地は、結構広い。いや、正確に言えば、もっと大きな団地があり、そこに較べたら、まだまだ小さいのだが、やはり子供の目から見たら広かった。
 よって、行ったことのない所というのは、もちろん存在する。
 ところが、一人、MM2(仮名)が、不敵な笑顔を浮かべ、「俺は全部行くぜ」そう言った。
 つまりMM2は、団地の全てをいずれ行く、今は途中だ、と言ったのだ。あらゆる号棟の階段を上り、五階まで行ってまた下りる、それをすべて行う。
 これはショッキングだった。まず、まるで無意味ではないか、そう正直思った。このMM2という奴、成績がいい。かなり良かった。そして少しヘンと言われていた。そいつが、全部の号棟を制覇する、そう宣言し、現在、進行中だという。
 ところで、行ったことのない所とは、そういう意味ではなかった。団地内で、入ったことのない場所、入れない敷地など、そういうことを言ったのだった。
 まず、川向こうの広い駐車場は、行ったことがない。川向こうとは、団地内の川の、文字通り、川の向こう側を指す。
 行く用事がないから行かないのであって、行ったからといって、何があるわけでもないのだが、川のコッチ側から、いつも見てるのに、一度も足を踏み入れたことがない、というのが、なんとなく気になった。
 そしてここは、何十年たった今、大人になった現在も、行ったことがない。おそらく、川のこっち側から見てるだけで、永遠に行かない可能性が高い。
 まず、ここは行きづらい。何号棟か忘れたが、そこの横からしか行けない。車の所有者しか、絶対通らない感がすさまじくある場所だった。もしかして、反対側の別の橋を渡った方から行けるのかもしれないが、そこは、もはや団地ではなく、住宅街の一角といっていい所になる。
 先にも書いたが、行ったからといって、用事はないので、単になんか気になる、というだけのことである。
 そんなことを何十年たっても、いまだに考えている。
 もう一つは、給水塔であった。これは、今はもう、ない。いつなくなったのか知らないが、自分が大人になっても、まだその時は存在した。
 そして、給水塔が機能してるのは、子供の時から、一度も見たことも聞いたこともなかった。
 高さがあった。何メートルか知らないが、五階建ての団地より、結構高い。
 すごく細長い立方体という感じの形。上は円盤もしくは円板状をしている。今川焼みたいと言うべきか。回りは鉄骨で囲まれ中には確か細く小さい階段があった。つまり、鍵のかかった鉄骨のドアを開けることができれば、登ることも可能といえた。しかし、回りを鉄柵で囲まれ敷地内に入ることができない。いや、入ろうと思えば強引に入れたが、入れてもドアを開けられない。鉄骨を登ることは可能だが、ものすごく目立ち、間違いなく注意される。
 上の円盤状が、どうなってるのか、中に何があるのか、メチャクチャ興味があったわけではないが、やはり気になった。
 白灰色の高い給水塔。この給水塔を怖がってる奴がいた。ウチのクラスの学級委員である。なぜか知らないが、コイツは昔から給水塔を怖がり、大人になっても怖がっていた。見るのを、ものすごく嫌がっていた。
 しかし、高いので、イヤでも目につく。「だから嫌でも見ない」そう言って、大人になり車を運転しながらでも、怖がっている。
 本人もよくわからないという。
 不思議である。まあ、世の中、いろんなものに恐怖を感じる人がいるわけである。
 他にも、行ったことのない場所はある。
 MM2(仮名)みたく、「全ての号棟を制覇する。住人でそれをやったのは俺だけだろう」もしかして、コイツのやってることは、スゴいのかもしれない。ふと、そんなことを思い始めた次第であった。



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