団地の遊び においの記憶


においの記憶

 嗅覚の記憶は、ほかより千倍あるという。なんかの本で読んだ。
 子供の頃から、においには結構、敏感だった。
 団地の匂いというのは、明確に明瞭に覚えている。ドアを開けた途端、感じるにおいがある。あれはなんのにおいなのか、今もってよくわからないが、においが強い家、弱い家とあっても、どこのウチでも同じニオイなので、団地の材質の問題だろうと思う。
 鉄筋コンクリートだけでなく、なんかいろいろあるだろうから、そんなのの混ざったモノではないか?似た匂いに、味噌汁がある。なので、結構長い間、味噌汁と思っていた。なんといっても日本人の国民食である。
 しかし、違っていたようである。確実な答は出ません。
 給食室のにおいも強烈だった。給食は大嫌いである。一階に降りると、もうニオイがしてくる。あの、炊きすぎた米のようなにおいというか、なんともいえないモノがあった。給食のおばちゃんたちは、廊下ですれ違っても、その染みついた白い割烹着から、その匂いが伝わる。
 そして、芝生のにおいである。団地は、やたら植物が生えている。号棟ごとに、広い芝と木がある。その芝生のニオイというのは、いつも感じていた。
 夏と冬とでは、においはもちろん違った。夏は湿り気があり、冬は乾いた匂いがする。緑賑わす芝と、薄焦茶の枯芝とでは、香りはまるで違う。
 どちらかと言うと、冬のにおいのほうが好きだった。冬の記憶の方が多いのは、そのせいかもしれない。
 女学級委員山岡は、この雑文だかエッセイに、よく登場するーーー読んでくれてる人、本当にありがとう。
 山岡のにおいは、レモン石鹸だった。学校の水飲み場の石鹸が、レモン石鹸だったと思う。そして、山岡は、いつもレモン石鹸の匂いをさせていた。コイツは家でも使ってるのか、と感心したものだ。
 夏、山岡が足を捻挫した。立てないというので、肩を貸したときは、汗とレモン石鹸の混ざった匂いがした。コイツはあまり汗をかかないといつも言っていた。自分は体が小さく、山岡の方が全然大きかったので、肩を貸して歩いた時は、大変キツかった。全体重をかけられていたような気がする。コッチこそ大汗をかいた。
 ちなみに、自分のにおいを聞いたら、芝生とリンゴの匂いがする、と言われた。芝生は、年中、芝に転がったりしていたからだと思うが、リンゴに関しては不明である。言っておくが、果物の林檎であるーーーわかると思うが。
 クラスメイトの男で、いつもションベンくさいヤツがいた。コイツがションベンくさいのは有名で、みんながそう言っていた。しかしそのうち、なんでションベンくさいんだ?ということを疑問に感じ始めた。そんなにいつもチビってるのか?それは少しおかしいだろ、結局どうしてなのかわからなかったのだが、大人になって会ったときは、くさくなかったそうだ。大人になってもションベンくさかったら、かなり問題のような気がする。
 女子で太った子がいた。この子は、いつもハッカの匂いがしていた。なんでだろうと思っていたが、女子たちからハッキリそう言われたわけではないが、話を総合すると、要するに、汗の匂いを隠すため、強いニオイのハッカ系のモノをつけている、と推測できた。
 やはり、太ってるから汗をかくのだろう。特に問題はない気がする。
 学級委員Rは、オッサンのニオイがした。当時は、そういうものなんだろうと思っていたが、考えてみたら、加齢臭なわけで、すでに小学生でその手のにおいがするというのは、問題のような気がする。
 担任のK先生は、煙草くさかった。この人はヘビースモーカーだったので、まったくもって、納得できる。授業中でも、教室のすみで窓を開けて吸っていたのは、当時はなんとも思わなかったが、今考えると問題のような気がする。
 女学級委員山岡は、学校以外では、遊んでる時は自分の横にくっついてることが多かった。その場ではなんとも思わなかったが、ウチに帰ると、山岡のレモン石鹸の匂いが、手や服にくっつき残っていた。すると、学校の水飲み場の石鹸を思い出し、時々イヤになることがあったーーー自分は学校は好きではなかったので。
 この事を山岡に言ったら、学校のレモン石鹸より全然いいモノを使っている、違いがわからないのか?と怒られた。そしてさらに怒って言われた。
「あたしを思い出せば問題ない気がするけど」

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