団地の遊び 怪我の夜

怪我の夜

 小学何年の時か、理由を完全に忘れたが、三村夏子(仮名)とケンカした。
「何よ。しおりちゃんに頭上がんないクセに。全部聞いてるんだからね」
 しおりちゃんとは女学級委員山岡のことである。これはムカついた。当たってるだけに、腹が立った。いわゆる図星というやつである。
「バーカ」三村は捨てゼリフを吐くと去って行った。
 どうしてくれよう。本気で思った。
 三村は少林寺拳法をやっている。戦ったらコッチが負ける。友達のキーちゃんに、理由は言わずに、三村腹立つよな、と言ったら、俺もムカつく、爆竹でも投げ込んでやろうか?という話になった。
 三村の家は団地の一階である。爆竹を放り投げることのできる環境にあった。
 さすがキーちゃん、こういう正々堂々としてない、姑息な手段はすぐ思いつく。ドアの鍵穴にガムつめよう、という考えもあった。
 夜、三村の家のベランダ側に行く。芝生側である。周囲は薄暗がりといえる。
 爆竹は団地中央のストアに売っていた。花火の季節である。
 爆竹に火をつけようとマッチを出した時だった。
「なにやってんの?」声で山岡とわかった。自分は発作的に、「ごめんなさい」と謝っていた。「あれ?今走ってったの誰?」まさに脱兎の如く逃げるとはこの事である。キーちゃんの姿は、なかった。
 怖いので自分も逃げようとした。しかし、すでに遅かった。山岡に腕をつかまれ、スゴい力で引っ張られた(腕相撲大会二位)。
「この爆竹をどうするつもりだったのよ?・・・まあいいわ。夏子ちゃんから話聞いてるから」山岡は、爆竹とマッチを奪うとポケットに入れた。「こんなアホなことしても仕方ないでしょ。なんかあるならあたしに言いなさいって、いつも言ってるでしょ」「ハイ」ここは逆らうと危険と判断した。
 ベランダの窓が開き、三村夏子が現れた。「なっちゃん。これ持ってきた」山岡が本を渡す。「うん。ありがと、わざわざ。一緒に来たの?」「そこで会った」
 この間、自分は逃げようとしてるのだが、つかまれたウデは山岡の手から頑として離れなかった。
 芝生を歩き出す。団地中央は、すぐそこである。ストア、商店街などなどある。すると山岡が、すりばち公園行きたいと言い出し、勝手に向かった。夜なので、誰もいなかった。
 ふと見ると、山岡の姿がなかった。そういえばさっきなんか音がした。すりばちの一番急角度八十度ぐらいある所から、下を覗くと山岡が砂場の上に倒れていた。「落ちたのか?」「落ちた」よりにもよって、一番急角度の所である。
 街灯があちこちあるので、薄暗くても、見えた。
 飛び降りようと思ったが、自分が今、足を挫いたらマズいので、やめて、緩やかな傾斜のほうから下に行く。すると、「おーい」という声がした。見ると、砂場のすみで倒れてるヤツが、もう一人いた。先程一人逃亡したキーちゃんであった。
「なんかに噛まれた」キーちゃんが言った。
 それからが大変だった。二人とも足が痛くて歩けないという。これが、三村夏子なら上から見下ろし、「助けてほしいか?ばーか」と言ってやれるのに、ということを考えてる場合ではなかった。救急車呼ぶというと、金あるのか?とキーちゃんに言われた。お互いバカだから、救急車の公衆電話は無料ということを知らなかった。山岡は知っていたはずだが。
 とりあえず、山岡を立たせた。キーちゃんに先にコッチというと、特にゴネることなく、おとなしくしている。山岡は女だし、過去いろいろ面倒をみてもらっている。とはいえ、自分は小さく山岡のはうが全然背が高い。肩を貸し、フウフウ言ってすりばちから出た。なんとかベンチに座らせる。
 次にキーちゃんを助ける。なんとかすりばちから出て、ベンチに座らせる。なんとキーちゃんの足首が、すごく腫れてるのでビックリした。
 結局、ここから家が近い、学級委員Rと三村夏子を呼びに行った。
 学級委員Rの父親が車で、駅前の外科医院に連れていく。昭和の時代は、夜でも結構診てくれたのだ。
 山岡の足は捻挫だった。キーちゃんのは、なんとヘビに噛まれたという。よく見ると、確かに歯型があった。多分、毒はない、これはおそらくシマヘビだ、ということで、処置された。毒がなくても、牙から雑菌が入り、腫れることがあるという。
 山岡と三村夏子が笑いながら言った。「バチが当たったのよ」未遂でバチが当たるのか?なんで俺だけ?とキーちゃんが文句を言う。意外に早く治ったが。
 それから一週間、自分は足を引きずる山岡の鞄持ちをやらされた。なんで、こんな事になったのか、五十年たった今でも、納得してない人生だった。


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