団地の遊び ローラースケート

ローラースケート

 今、子供たちが履いてるような、シャレたものではなかった。 
 車輪が四つついている。靴のまま、その上に足を乗せる。バンドが付いていて、それを足に結び、固定する。
 ブレーキは、爪先の下あたりにゴム状の丸いモノが付いていて、足首を曲げて止める。これはスピードを出してるとき、止めようとすると、足首を傷める恐れがあるので、注意しなければならない。
 ガシャン!ガシャン!と歩くたびに結構大きな音がする。滑っても、ガシャー!という音がし、うるさい。要するに、騒々しいシロモノといえた。
 しかし、結構これで遊んだ。ベランダでガシャガシャ動いてると、下の階のおばさんに怒られ、階段を上ってるだけで、響き、うるさがられる、そんなモノであった。
 団地内は車の量が少ない。なんといっても、団地の号棟の前の道は、車一台幅しかない。バス通り沿いの号棟は、もちろん別である。
 なので、ローラースケートをやるには、うってつけの道だった。自転車に乗る練習もここでやった。
 もっとも、小さい子供が、小さい自転車に乗ってヨタヨタ走っていたり、道に絵を描いていたりするので、車よりも、そっちの方が面倒であった。こっちが、加害者になる恐れがある。
 フツーの平坦な道には、すぐ飽きた。ローラースケートがどんどん上達するにつれ、もっとメンドーな道を走りたくなる。要するに、坂道である。
 坂道はあった。しかし、団地から少し出た所で、駅に向かう道だった。二つあった。団地内に比べ、人は多くなるし、まったくノビノビできない。
 なので、少し離れたところの、坂道を選んだ。ここで、新記録を出した。つまり、坂道から滑り降り、どこまで惰性で行けるかの、新記録である。
 これは、スリリングだった。何がスリリングかというと、いつ人や車に出くわして、止まらなければならなくなるかと、ヒヤヒヤして、滑ってるからである。
 この日は、ツイていたのだろう。
 坂道の一番上にいる。この時点では、期待などまったくしていない。どうせ、途中で止まるはめになるだろう、そう思っている。
 友達が一人横にいた。誰だかまったく覚えていないが、ともかく、いた。
 坂道に入る。バランスをとり、倒れないように走るのは当たり前である。じょじょに加速していく。足に力が入り、バランスをより一層保ち、気合いを込めて滑り降りる。
 横にいた友達は、先に坂道を降りて、こっちを見ていた。
 やかて、べつの道に近づく。坂の終わりが見える。十字路にさしかかる。左右に目をやる。車も人もいなかった。かなり加速がついている。バランスを必死にとる。怖いぐらいスピードは出ていた。風を切っているのがわかる。道を越えた。ここで、団地内に入る。坂も終わる。
 ローラースケートは走っている。徐々にスピードが落ちていくが、まだ止まらない。
 公園と芝生の間の道を惰性で走る。止まらないのは、いいのだが、逆に団地に近づいてきた。正確には団地と団地の間の道である。ここを越えると、バスの通る道になり、それは、なかなかヤバいことになる。
 やがて、さらにゆっくりになり、団地と団地の間の道の手前で止まった。
 「すごいじゃん」友達が言った。「証人なってね」自分が答える。
 後ろを向く。結構な長さに感じられた。百メートルは軽く越え、二百メートルは走っていた、と思う。自分は一切、足を動かしていない。
 考えてみたら、これは運の問題というだけで、実は、たいしたことではない、という気もしてくる。
 それでも、新記録であるーーーもちろん知る限り。
 これよりも、もっとすごい坂があった。そこは、後年、メーター付き自転車で走り、時速六十キロ以上出したところである。
 ただ、この時は、そんなことは露知らず、新記録の栄誉に浸るバカな子供であった。



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