団地の遊び 漫画取戻と事件

漫画取戻と事件

 細かいことは忘れたが、漫画を自由に持ってきていいという話になった。学級文庫みたいに、教室の後ろに、クラスのみんなが持ってきた漫画本が、ズラリと並んだ。
 教室で読むのは、構わない。しかし、持ち帰りは厳禁、確かそんなルールだったと思う。
 自分は「バビル2世」を持っていった。自分の本も並んだ。
 これは楽しかった。今まで見たことない漫画が並んだ。小四か小五の時である。
 短い人生で、初めて見る漫画がズラリとあった。
 多分、少女マンガというモノを、はじめて読んだのは、この時だと思った。「エースをねらえ」「ベルサイユのばら」このへんは、休み時間に読んだものである。
 ところが、これもまた肝心の理由を忘れてしまったのだが、担任先生が怒り、漫画読み断固中止令が出た。さわってもダメだと言われ、持って帰ることもできなくなった。
 これはイヤだった。ちょうど「バビル2世」を読み返したくなっていたので、困ったことになった。
 そこでどうしたかたいうと、通常よりかなり早起きして、学校に行った。要するに、まだ誰もいないときに、自分の「バビル2世」を取って鞄にしまう、という作戦であった。
 ハッキリ覚えていないが、多分、七時前には、学校に着いた。あんまり早いと、学校が開いていないのではないか?と危惧したが、ちゃんと校門は開いていた。
 にしても、こんなに早くから校門って開いてるのか、と少し感心した。誰が開けてるのだろう?用務員のおじさんだろうか?などと考えた。
 教室に行く。まさか誰かいないだろうな?と思ったが、誰一人いなかった。すぐさま「バビル2世」を取って鞄の奥深くにしまう。
 さて。どうしようか?学校が始まるまで一時間以上ある、いっそ一度家に帰って「バビル2世」を置いてこようか?そう思っていたら、教室のドアが開いた。ビックリした。こんな早い時間に誰だ?
 誰よりも学級委員を何回もやってる女、山岡であった。
「なにしてるの?」「そっちこそなにしてる?」
 なんと山岡は、これから机を拭くという。まず最初に先生の机を拭く。これで終わりにする時もあるが、時間があるときは、みんなの机も拭くそうだ。
 これには驚いた。まず、こんなことをする人間が存在することに、ビックリした。いったいなんのために?不思議である。
 成績が学年トップで、学級委員で、おまけに誰よりも早く来て雑巾がけをする。人生楽しいのか?
 そんなわけで、自分も手伝わされた。友達とかならともかく、なんでクラスが同じというだけの、どうでもいいヤツ、どちらかというと、さっさと死ねよと思ってるヤローの机まで拭くのか?ーーーもちろん手を抜いた。
 ひと仕事終えると、山岡はこれから勉強するという。しかし勉強する前に言った。「バビル2世、鞄入れたの」
「うん?なんのことだか・・・」
 山岡は不敵な笑みを浮かべ、「まあいいわ。今度貸してね」
 勉強したら?という山岡の言葉を無視し、ダラダラ過ごしていたら、やっと学校が、本格的に始まった。
「今日は、二人でやったのか」
 山岡が余計なことを言い、先生が余計なことを言う。自分が早く来たことがバレて、「バビル2世」のことが発覚するのでは?と気が気でなかった。
 無事、授業が済んだ。無事、家に帰った時は、実にホッとした。
 ところで今日は、金曜日であった。少年チャンピオンの発売日である。なにかいやな予感がした。しかし、チャンピオンを読まないわけにはいかない。
 なので、いつも買う団地中央の本屋ではなく、駅前の本屋まで行った。無事、買うことができ、家でチャンピオンを読んでいたら、ふと思い出した。
 団地中央の本屋でチャンピオンを買ったあと、たいがい女学級委員山岡と会って、ブラック・ジャックを読ませるのが習慣であった。
 すっかり忘れていた。そしてハッと気づいた。今、山岡を怒らせるのは危険だと。「バビル2世」のことを知っている。
 チャンピオンを持ち、走って団地中央まで行った。すると、ストア前広場には、警察官がたくさん来ていた。救急車が停まり救急隊員が、血だらけで呻いている子供の前にいた。知らない子だった。警官がオッサンを取り囲んでいる。
 この時、最初に思ったことは、イヤな予感当たってる?というものだった。
 山岡が近づいてきて言った。「川向こうの子みたいよ」団地には子供を守る結界がある、そう仲間内では言われていたが、川向こうの奴は適用されなかった。同じ団地でも、川向こうは差別的な表現がいつもされていた。普段、山岡は結界説は否定している。ほかにも何人も同じ学校の奴らがいた。
 ちなみに、この事件の詳細については、すまない、まったく覚えていない。
 そして、少し離れた団地の森のはしっこの、いつものベンチに行き、片目の犬シロも一緒に、二人と一匹で、平和にチャンピオンを、読んだわけだった。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?