見出し画像

未来はこの手の中に #04


 数日後、綾香が両親のことにつ
いて、話があると言ってきた。
 何か、嫌な予感がした。

 僕の予感は的中した。
 彼女の話によると、お父さんが、
僕についての雑誌の記事を読んだ
らしい。
 そして、私立探偵に、僕の身辺
調査を依頼したそうだ。

 依頼した私立探偵社からの報告
書には、僕の生い立ちを調べた調
査員は出生から、その親族等を調
べようとしたが、どうにも判らな
いと云う結果が報告されていた。

 僕の生まれ故郷へ行って、周辺
の学校の卒業名簿を調べたが見当
たらなかった。

 帰国子女かもしれないと思い、
坂上家のことについて周辺を調
べたが、誰も、坂上家のことは
知らなかった。

 調査はいき詰まり、『身元不明』
と、調査報告書には記されていた
そうだ。

 調査報告書を見た綾香のお父さ
んは、「いくら大きな会社の社長
かしらんが、娘の結婚相手に、ど
この馬の骨とも知らん人間には、
大切な娘はやれん」と言い出した
そうだ。
 綾香のお母さんは、僕を人物本
位で見てくれて、反対はしていな
いそうだ。

 その話を聞いて、綾香と二人で、
何度も彼女の実家に足を運んだが、
門前払いで、彼女のお父さんには
会えなかった。

 何度か足を運んだある日、彼女
のお母さんからも、「もう、娘に
は会わないで下さい」と、最後
通告をされてしまった。

 綾香は、帰りの車の中で、「な
んで? なんでなのよー!」と泣
いていた。

 あとで、彼女から聞いた話に依
ると、僕との付き合いを止めない
娘に対して、彼女の両親は、娘に
縁談を勧めて来た。

 彼女は縁談を断るが、両親は次
から次へと縁談を持って来た。
 その度に彼女は断っていたとい
う。

 とうとう、彼女の両親も諦めた
らしく、ついには、彼女を勘当し
てしまった。

* * *

 ある日、僕のマンションを訪れ
た綾香は、無言で玄関先に佇んで
いた。

 彼女の様子は、ただごとでは無
かった。
「どうしたの?」

 僕の顔を見るなり、みるみる間
に、ポロポロと大粒の涙が彼女の
頬を伝わった。

 感情の爆発は、彼女を押さえき
れなかったのだろう。堰を切った
かのごとく、叫ぶように言った。

「わたし、親に勘当された! も
う、実家には帰らない! わたし
には、もう……。あなたしか、い
ないの!」
 そう云うと、僕の胸の中に飛び
込んできた。

「結婚しよう」
 僕は、激しくおえつする彼女の
背中を優しく撫でた。


つづく

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?