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中学のブラスバンド部の思い出 #03


                       テール

◆中学のときは、よく先生に殴られた

 中学に入ってからは、よく先生
に殴られた。
ことわっておくが、僕が不良だと
か、やんちゃだとかが理由ではな
い。

 小学生のときから、おとなしく、
目立たない子だった。
そんな僕でも、殴られるんだから、
中学の3年間で、男子のなかで、
先生に殴られなかった人はいない
とおもう。

 小学生のときは、先生に殴られ
た記憶はない。

 いま、考えると、中学の男の先
生はみんな、癖が強く、人格者は
いなかったとおもう。
それにひきかえ、女の先生はみん
な、優しかった。

 今は、子供を殴ったら、大変な
事になる。PTAが黙っていない。
 僕が子供の時代は、大人が子供
を殴るのは、「しつけ」の名のも
と、当然の行為だった。平気で子
供を殴る。
 子供が殴られても、親は黙って
いる。文句を言いに学校に来る親
は一人もいない。

* * *

 小学生まで、僕はおばーさんに
頭を刈ってもらっていた。
僕のおばーさんは、昔は床屋だっ
たのだ。

 おばーさんが言った。
「中学になったら、頭を坊主にす
るんだから、床屋でやってもらい
な。額の箇所は角にしてもらうん
だよ」と言われた。
僕は床屋に行って、おばーさんに
言われたとおりに言った。
「額は角にしてください」
ところが、この一言がいけなかっ
た。
床屋は、この子は、『角刈りに
して欲しんだな?』と思ったらし
く、出来上がったのは、角刈りの、
あんちゃんだった。


 一年生の新学期が始まった。
 廊下を歩いていると、すれ違い
ざまに、呼び止められた。
「おい、そこを歩いているの!
こっちへ、こい!」

 振り向きざまに見ると、白髪の
混じった、歳のこうは40くらいで、
ジャージ姿の怖そうな眼鏡のおや
じが、こちらを睨んでいる。

 おやじの前まで行くと、
「なんだぁ?この頭は!」と言い
ながら、突然、僕の髪の毛を摘ま
んでひっぱった。

なんだ?いきなり、何をするんだ?

「いたた!? これは、間違って、
床屋さんに角刈りにされたんです」
というと、「言い訳をするな!」
突然、僕の頬をめがけて、強烈な
ビンタがさく裂した。キーンと耳
鳴りがした。

 そのおやじは言った「明日から
坊主にしてくるんだ!」
「はい」と僕は涙目になりながら
返事をした。
 僕を殴って、怒鳴りつけると、
おやじは去って行った。

 まるで、大海原で突然の嵐に
翻弄される小舟に乗った、ちっぽ
けな人間の気分だった。
とても、悔しく、みじめだった。

 その様子を誰かが見ていたらし
く、教室に戻ってみると、
「やーい。角刈り」と「坊主頭」
の同級生にバカにされた。

 後から、同級生に聞くと、その
おやじは暴力教師で有名らしい。
 それ以後、中学の三年間で、そ
のおやじには勉強も教わらなかっ
たし、一切関わりが無かった。
それだけが、救いだ。

* * *

 ブラスバンド部がある音楽室は
2階にある。1階は理科室で、そ
の前には小さな池がある。
池には水が張ってあって、ある日
その池を掃除した人の足の裏に画
鋲が刺さったらしい。

 犯人はブラスバンドの男子だと、
なぜか、決めつけられて、池の前
に全員が整列させられた。
「この池に、画鋲を落としたのは
お前たちか?」と先生は聞いた。

この先生は学級担任の先生だ。
よく、授業中に話を聞いていない
と言っては、みんなの前で、
「原爆だ」と言いながら、両手の
拳で生徒の頭を挟み、コメカミを
グリグリとやるのだ。
それが、とても痛い。

「誰も、名乗り出る奴はいないの
か?」とみんなを睨め付ける。
シーンとした、張り詰めた空気が
流れた。
「それでは仕方ないな。連帯責任
だ。ここに並べ」
と言って、一人ひとり、コメカミ
に「原爆」を落とされた。

この事件が、一番悔しかった。
身に覚えのない、無実の罪で体罰
を受けたのだ。
あの時の光景は今でも忘れない。

つづく


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