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中学のブラスバンド部の思い出 #04

                 テール

◆合宿中に、同級生とケンカした

 ブラスバンド部に入って2年が
経過した。
いまや、後輩も出来て、いっぱし
の先輩に成っていた。

 ある時、同じトロンボーンの先
輩から褒められた。トロンボーン
の先輩は二人いて、一人が1st、
もう一人が2nd、そして、僕が3rd
といった担当だ。

1stから3rdまで、同じ曲でも譜面
がそれぞれ違う。
1stが高音部を担当で、2nd、3rd
になるにつれて低音に成っていく。

トロンボーンという楽器は、まろ
やかな優しい音色も出せるし、猛々
しい張りのある音も出せる。

やさしい小さな音で、赤ちゃんに
子守歌を聞かせるように、円やか
な音を奏でることが出来る一方、
大地が割れて地鳴りが鳴るような
猛々しい音も出せる。

1stの先輩が言うのには、僕の吹く
トロンボーンの音色はメリハリが
利いていて、気持ちが良いという。
「2ndの〇〇が吹く音は常にへなへ
なしている。トロンボーンはテー
ルが吹くような、力強い音も出せ
るんだな」
と言ってくれた。
 それを聞いて、僕は大変うれし
かった。自分でも感じてはいたが、
僕は先輩を超えたと思った。

* * *

ブラスバンド部恒例の夏の合宿が
あった。
 親元を離れて、集団で、寝起き
を供にするのは、そうそうある事
ではない。

僕は家では、だいだい、夜11時に
は寝ていた。
水野 晴郎が解説する、「金曜ロー
ドショー」とか、「サヨナラ 
サヨナラ サヨナラ」おじさん
の淀川 長治の「日曜映画劇場」
とかは毎回、欠かさず見ていた。
それらの映画が終わるのが、午後
11時だった。
たまに、延長で11時半になること
もある。
そして、映画を見終わった後は
寝ていた。

* * *

 合宿の為に、音楽室の隣の調理
室に簡易ベッドが用意されていた。
 合宿の夜も、普段と同じ11時に
はベッドに入って、眠ろうとした。

 ところが、普段と違うシチュエー
ションなので、なかなか眠れない
のだろうか。消灯した後も、同級
生のA君と後輩は大声で話してい
る。
 僕は眠ろうとするのだが、うる
さくて眠れない。1時間ほど我慢
していたが、いっこうに話が止ま
ない。
 とうとう、堪忍袋の緒が切れた
僕は、A君に言った。
「うるさい! いい加減に、もう
寝ろよ!」
 僕は気が長いほうで、めったに
腹を立てたり、大声で怒鳴ること
はないのだが、この時はどういう
訳か、無性に腹が立った。
 後輩と楽しそうに話しをしてい
るA君に嫉妬したのかもしれない
し、自分の生活リズムを乱された
のに腹が立ったのかも、しれない。
 多分、その両方だったのだろう。

「おい! 降りてこい!」と僕は
言った。
 A君と至近距離で対峙すると、
僕の心臓は、バクバクと鼓動し、
心臓が口から飛び出しそうだった。
不意にA君が、僕をめがけてチョー
パンをして来た。

* * *

ここで「チョーパン」の解説をし
よう。
チョーパンとは、この頃、流行っ
ていたケンカの技で、やり方とし
ては、おおまかに2種類ある。

ひとつは、相手と、体が擦れ合う
くらいの至近距離から、相手に対
して、自分の首を振って、その反
動で相手に頭突きをくらわせるや
り方。この方法はダメージは小さ
いが、相手を一瞬ひるませるのに
は有効だ。

もう一つは、ある程度、相手と距
離を取って、相手の一瞬の隙をつ
いて、全体重を乗せて、頭からロ
ケットのごとく、相手に突っ込ん
で行き、大ダメージを与えるやり
方だ。

* * *

その後者の方の技を、もろに受け
てしまったのだ。

顔面に相手の頭が直撃したので、
口の中が切れて、血まみれになっ
た。頬は腫れていた。

その一発で、みるみるうちに戦意
を消失した僕は、捨て台詞を吐い
た。
「てめー! やりやがったな!
 A!、許さないからな。明日
みてろよ!」

そういうと、僕はさっさと、
ベッドへ戻って行った。
ケンカは早々に終了である。
この対決を、先輩も後輩も見てい
た。

 普段、おとなしい僕が、怒った
のが、よほど面白かったのだろう。
翌朝になると、先輩が僕をからかっ
た。
「テール、覚えておくんじゃなかっ
たのか?」
「先輩、よしてくださいよ。もう、
いいんですよ」と、僕は言った。


つづく

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