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未来はこの手の中に #03


 原口タケシや須賀吉秀の根回し
により、時間旅行管理局からの、
おとがめは無かった。

 僕と井上綾香の関係が続いて、
一年が経つ。
 いまや、井上綾香は僕の有能な
秘書であり、恋人だ。

 よく、官能小説の題材にあるよ
うな、社長と秘書のような関係で
はない。
 公私の区別をつけ、将来の結婚
を見据えて、真剣にお付き合いを
している。

 会社もいまや、資本金7億円の
中堅企業に発展し、業績も順調に
伸びている。上場まで、あと少し
だった。

 この頃の僕はマスコミにも顔を
出し、いまや世間一般に名の知れ
た青年実業家となっていた。

 電脳世界から、実世界へと、脳
移植をした僕の体は、自分で言う
のもなんだが、イケメン俳優にも
勝るとも劣らない、身なりをして
いた。

 週刊誌やゴシップ記事を扱う雑
誌などのパパラッチが常に僕を狙っ
ている。

 某雑誌が、僕の出生を調べたが、
分からなかった。記者は、いくら
調べてもわからない事にアタマに
来たのだろう。こんなタイトルの、
でたらめ記事が載っていた。

『謎の青年実業家。アップデート
クローズ社 坂上ケンタ氏の出生
の秘密に迫る』
 内容はまったくの、でっち上げ
記事だった。

 そんな訳だから、彼女との結婚
が決まるまでは、彼女に迷惑をか
ける訳にはいかない。
 井上綾香との関係は秘密にして
ある。

 ある日、ベッドの上で井上綾香
は僕に言った。
「ねぇ。今度、田舎の両親に会っ
て欲しいの」

 いつかは、彼女の両親に会わな
いといけないと思っていた。
「わかった。今度の休みの日に、
福島の君のご両親に会いに行こう」

「うれしい!」と言って、彼女は
僕に抱きついてきた。


 僕の愛車レクサスに彼女を載せ、
福島へ向かった。
 彼女の両親は福島の会津若松に
住んでいる。

「ここよ」
 車を、彼女の両親の住む家の前
に停めた。家は農家で、庭の周り
は、農機具とか置いてある納屋が
ある、普通の農家だ。

 車から降りて、彼女と一緒に、
両親がいる母屋へと向かった。

 玄関で、彼女のお母さんが出迎
えてくれた。

「はじめまして、坂上ケンタです」

「あらあ。綾香が電話で言ってい
た通りのイケメンねぇ」
 彼女のお母さんの目がハートだ。

「やだぁ。お母さんったらぁ」
 お母さんは綾香とよく似ている。
 綾香が歳をとったら、こんなふ
うに成るのかと思った。

「あら?私としたことが。おほほ」
 そういうと、お母さんは、僕達を
居間に通した。

 居間のソファーには、彼女のお
父さんが座っていた。

 お父さんは立ち上がって、僕の
前まで来ると、「おう。君が坂上
君か。よく来たね。ま、座って」
と、言った。

 言われるままに、ソファに座る
と、綾香の小さい頃の話や世間話
や、僕の会社の話などをして、和
やかにときを過ごした。

 その後、お母さんの手作料理で、
食事をした後、帰路についた。

 帰りの運転をしながら、僕はホッ
としていた。これで、彼女の両親
にも会ったし、後は彼女にプロポー
ズをし、結婚か、と思っていた。

 綾香も、上機嫌だった。
「疲れたでしょう。今日はありが
とう」

「ぜんぜん大丈夫。お母さんも、
僕を気にいってくれたみたいだし」

「そおなのよ。電話で話している
時から、早く会わせろって。お母
さんったら、うるさくて……」

 そんな話を車中で話しているう
ち、車は無事、彼女のアパートに
到着した。
 彼女を送り届けた後、自分のマ
ンションに帰った。

 数日後、綾香が両親のことにつ
いて、話があると言ってきた。
 何か、嫌な予感がした。


つづく

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