酒井泰幸

和歌山県那智勝浦町の色川地区でフォレストガーデンを作っています。

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【日本語訳】気候:新たなる物語(チャールズ・アイゼンスタイン)目次

(訳者からのお知らせ) 《目次》 プロローグ     プロローグ:迷宮 第1章:存在の危機     失われた真実     「彼ら」の正体     戦い 第2章:気候原理主義を超えて     他のことは関係ない?     炭素還元主義のあべこべな結末     社会の気候     原因への突進     あらゆる原因の母     コミットメントが息づく場所 第3章:気候論争のグラデーションとその向こう側     私が付くのはどちら側?     懐疑論の世界を訪れる   

    • 脱却への圧力

      訳者コメント:  コントロールでがんじがらめになった人生に喘ぎながら、そこから降りて抜け出す勇気を持てないでいると、魂が無意識のうちに状況を壊しにかかります。  私にも経験があります。会社で押し付けられる無理難題と、パワハラとも言えるような上下関係。それが家庭に染み入って結婚生活も軋み始める。それが頂点に達したとき、3.11原発震災というショックが襲う。常連という以上に入れ込んでいた、親友のレストランが廃業して夜の居場所もなくなる。妻からは離婚を言い渡され、反原発運動から会社

      • イエスとノー

        訳者コメント:  ぼくには子供がいないので、子育てという仕事に関わったことはなく、自分の生い立ちから推測するしかないのですが。親からはいつも、どうあるべきかという強いメッセージを受けていたと思います。親がぼくに与えるものは全て、「ためになる」という条件でふるい分けられたもので、「くだらん」ものごとは排除されていました。ぼくが大学生となり親元を離れるまで、そのフィルターは完全に内部化されぼく自身のものとなっていたので、親に反抗するという選択肢があることさえ気付いていませんでした

        • 生と死

          訳者コメント:  個人的な体験ですが、私がJICAの青年海外協力隊に参加したのは30歳の時で、それまでの私は親が承認する生き方に縛られていました。親のいう通り、とにかく勉強して良い大学に行って良い会社に就職する。しかしそこに待っていたのは自分を殺さないと生きていけない世界でした。「会社が必要とするものを自分は持っていないし、自分の持っているものを会社は必要としていない。」そのとき私は生まれて初めて「無難な人生」を外れる決心をしたのです。試験に合格した後、両親には決めたこととし

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        【日本語訳】気候:新たなる物語(チャールズ・アイゼンスタイン)目次

          勝者と敗者

          訳者コメント: 自他の二元論が支配する現代社会では、どの宗教にもある「自分を愛するように他人を愛せよ」という教えは曲解され、神の罰を受けない限り何をしても良いことになってしまいました。他人に優しくする理由は、閻魔大王に怒られないためなのです。私たちがすべきなのは、自分自身に制約を課して、善き人間であるように「頑張る」こと、ということになります。世界から切り離し不完全な存在となってしまった自分を補うには、自らが勝者となって、敗者の世界から奪い取ったものを自分の周りに蓄積する努力

          勝者と敗者

          ぼくが田舎移住を選んだワケ (そしてチャールズ・アイゼンスタインを翻訳する理由)

          いつもの翻訳から離れて、自分語りをしてみます。 寄生虫とアレルギー 寄生虫がアレルギーを緩和するという話があります。「寄生虫博士」として知られた藤田紘一郎氏が提唱した説です。人体が回虫やサナダ虫のような多細胞の寄生虫に感染すると、侵入者である寄生虫から身を守るために、免疫グロブリンE(IgE)と呼ばれる抗体が作られます。IgEはアトピー性皮膚炎や花粉症、喘息などのアレルギー疾患を引き起こす物質でもあります。しかし、ある種の寄生虫の分泌物が刺激となって作られるIgEは構造が

          ぼくが田舎移住を選んだワケ (そしてチャールズ・アイゼンスタインを翻訳する理由)

          人間の完全な堕落

          訳者コメント: 東京オリンピックを招致するため、当時の安倍晋三首相が2013年の国際オリンピック委員会総会で高らかに宣言したのは、(2年前の震災で破壊された福島原発の状況は)「アンダー・コントロール」だというものでした。この言葉が象徴的に示したのは、コントロールできないものをコントロールするという人間の欲望でした。  この節では、キリスト教プロテスタント主義の概念である「人間の全的堕落」を手がかりに、宗教と科学とテクノロジーが、内的・外的世界の両方で、自然状態を悪と見なしてコ

          人間の完全な堕落

          ガザの傷を癒すには(チャールズ・アイゼンスタイン)

          訳者より: 報道を目にする限り、ガザでの虐殺が止む気配は無く、イスラエルと強く結び付いた米国はイスラエル支援を続け、米国と強く結び付いた日本は傍観者を決め込んでいるように見えます。著者は、この対立する世界で「どちらが正しいか」決着を付けようとする限り和平への糸口はないと書きます。残虐行為を働いた者を処罰するなら、復讐を誓う若者たちが次から次へと現れるでしょう。過去の行為を忘れはしないが、赦す。自分の正義も相手の正義も否定することはないけれど、とにかく赦して戦うことを止めるとい

          ガザの傷を癒すには(チャールズ・アイゼンスタイン)

          資本の危機

          訳者コメント:  革命は英語でレボリューション、つまり転回し「ひっくり返る」ことで、荷物を積み過ぎた船がバランスを崩して逆さまに転覆するようなものです。そういう意味では自然に起きることですが、搾取され尽くしていない市場や資本や植民地が、地図の上だけでなく社会の中に残ってる限り、真の革命が起きることはなく、資本主義が延命されてきたのです。現在の社会に漂う閉塞感は、資本主義がとうとう危機に追い込まれている証なのかもしれません。第4章の締めくくりとして、やや悲壮感の漂う文章となって

          資本の危機

          利子と利己心(後)

          訳者コメント:  遠い未来のことは、いま目の前にあることよりも「小さく」見えます。今日お茶碗1杯のご飯があるのと、1年後にお茶碗1杯のご飯を約束してくれるのと、どちらが有難いかといえば、今日のご飯でしょう。これが減価とか割引といわれるもので、私たちの直感に一致しているように見えます。それは遠近法のようなものです。利子とは、この遠近法の絵画の中で、目の前で伸ばした手に持った50円玉が50m先まで移動したとき、同じ大きさに見えていなければならない(つまりヤップ島の石のお金のように

          利子と利己心(後)

          利子と利己心(前)

          訳者コメント:  所有と貨幣と利子のもたらす社会と生態系の破壊についてカール・マルクスが残した指摘を基に、テクノロジーと成長を是とし、中央集権国家によるコントロールで運営されるソビエト連邦が作られましたが、これは国家サイズの企業体のようなものでした。想像ですけれど、日本の大企業で働いたことのある人なら、ソビエト社会に放り込まれても全く違和感は無いと思います。日本の企業では、役員は選挙で選ばれるわけではありませんから、民主主義などありません。予算計画に基づいた計画経済を粛々と執

          利子と利己心(前)

          他者の経済学

          訳者コメント:  蒸気機関車は直線的な機械テクノロジーの典型ですが、ボイラーに入れられた水が沸騰し、蒸気がピストンを押して車輪を回し、使い終わった蒸気が煙突から煙と共に捨てられるのは、この直線性の象徴のように見えます。しかしこのような熱機関を研究する熱力学が明らかにしたのは、蒸気が環境中に捨てられて終わりなのではなく、周囲の空気に熱を奪われて冷え、水滴に戻ったところで一巡するサイクルとして捉える必要があるということでした。そうすることで初めて熱機関の性能が計算できるようになっ

          他者の経済学

          時間、お金、商品

          訳者コメント: 自分で何かをするのはタイパが悪い。そんなことしてるぐらいなら、お金を出して既製品を買った方がいい、人にやってもらった方がいい。じゃあその間に自分は何をするのか? 自分の時間を売ってお金にすれば、得られたお金でできることが増える。お金で買えるのは「商品」と「サービス」。それがじつは、売り渡してしまった時間の、失われた人生の、代用品に過ぎないということに、もっと自覚的であっても良いのかもしれません。 (お読み下さい:訳者からのお知らせ) 4.8 時間、お金、商品

          時間、お金、商品

          魂の資本(後)

          訳者コメント:  私は幸いなことにモノづくりの大好きな子供として育ちました。熱心に通った「発明クラブ」では大先輩の技術者たちが新しいアイデアを発想する方法について真面目に教えてくれました。でも高校大学と進むにつれ、自分で考えるというよりも、覚えなければいけない数式やら何やらに圧倒されました。技術者として企業に就職しましたが、求められたのは上から与えられた要求に基づいて製品を設計すること。それなりに面白いことではありましたが、パズルを解くようなものでした。(宮崎駿の『風立ちぬ』

          魂の資本(後)

          魂の資本(前)

          訳者コメント: 子育て中の親御さんたちに、ぜひ読んでもらいたい内容です。ここでは子供の世界から(大人もですが)遊びが奪い取られ、オモチャやエンタメとして売り戻される様子が語られます。いまどきのオモチャ屋を覗いてみると、アニメのキャラクター商品をはじめ、既製品のプラスチックのオモチャがあふれています。私が子供だった1970年代のレゴブロックは数種類の四角いブロックだけで成り立っていたのですが、それを組み立ててお城でも車でも動物でも、何でも作って遊んでいました。今のレゴブロックは

          魂の資本(前)

          自然の資本(後)

          訳者コメント: ここで語られるのは、環境経済学と生態経済学(エコロジー経済学)の違いだと思います。環境経済学は主流経済学の一部をなしていて、環境汚染のように金銭的尺度で測れない「外部性(エクスターナリティー)」を数値化することで「内部化」し費用便益分析(コスパ)で評価できるようにすることに主眼を置きます。工業製品の製造から廃棄に至る全てのコストを合算する「ライフサイクル・アセスメント(LCA)」や、炭素会計などです。これと似ているようで全く異なるのがエコロジー経済学で、人間の

          自然の資本(後)