酒井泰幸

和歌山県那智勝浦町の色川地区でフォレストガーデンを作っています。

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【日本語訳】気候:新たなる物語(チャールズ・アイゼンスタイン)目次

(訳者からのお知らせ) 《目次》 プロローグ     プロローグ:迷宮 第1章:存在の危機     失われた真実     「彼ら」の正体     戦い 第2章:気候原理主義を超えて     他のことは関係ない?     炭素還元主義のあべこべな結末     社会の気候     原因への突進     あらゆる原因の母     コミットメントが息づく場所 第3章:気候論争のグラデーションとその向こう側     私が付くのはどちら側?     懐疑論の世界を訪れる   

    • ぼくが田舎移住を選んだワケ (そしてチャールズ・アイゼンスタインを翻訳する理由)

      いつもの翻訳から離れて、自分語りをしてみます。 寄生虫とアレルギー 寄生虫がアレルギーを緩和するという話があります。「寄生虫博士」として知られた藤田紘一郎氏が提唱した説です。人体が回虫やサナダ虫のような多細胞の寄生虫に感染すると、侵入者である寄生虫から身を守るために、免疫グロブリンE(IgE)と呼ばれる抗体が作られます。IgEはアトピー性皮膚炎や花粉症、喘息などのアレルギー疾患を引き起こす物質でもあります。しかし、ある種の寄生虫の分泌物が刺激となって作られるIgEは構造が

      • 人間の完全な堕落

        訳者コメント: 東京オリンピックを招致するため、当時の安倍晋三首相が2013年の国際オリンピック委員会総会で高らかに宣言したのは、(2年前の震災で破壊された福島原発の状況は)「アンダー・コントロール」だというものでした。この言葉が象徴的に示したのは、コントロールできないものをコントロールするという人間の欲望でした。  この節では、キリスト教プロテスタント主義の概念である「人間の全的堕落」を手がかりに、宗教と科学とテクノロジーが、内的・外的世界の両方で、自然状態を悪と見なしてコ

        • ガザの傷を癒すには(チャールズ・アイゼンスタイン)

          訳者より: 報道を目にする限り、ガザでの虐殺が止む気配は無く、イスラエルと強く結び付いた米国はイスラエル支援を続け、米国と強く結び付いた日本は傍観者を決め込んでいるように見えます。著者は、この対立する世界で「どちらが正しいか」決着を付けようとする限り和平への糸口はないと書きます。残虐行為を働いた者を処罰するなら、復讐を誓う若者たちが次から次へと現れるでしょう。過去の行為を忘れはしないが、赦す。自分の正義も相手の正義も否定することはないけれど、とにかく赦して戦うことを止めるとい

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        【日本語訳】気候:新たなる物語(チャールズ・アイゼンスタイン)目次

          資本の危機

          訳者コメント:  革命は英語でレボリューション、つまり転回し「ひっくり返る」ことで、荷物を積み過ぎた船がバランスを崩して逆さまに転覆するようなものです。そういう意味では自然に起きることですが、搾取され尽くしていない市場や資本や植民地が、地図の上だけでなく社会の中に残ってる限り、真の革命が起きることはなく、資本主義が延命されてきたのです。現在の社会に漂う閉塞感は、資本主義がとうとう危機に追い込まれている証なのかもしれません。第4章の締めくくりとして、やや悲壮感の漂う文章となって

          資本の危機

          利子と利己心(後)

          訳者コメント:  遠い未来のことは、いま目の前にあることよりも「小さく」見えます。今日お茶碗1杯のご飯があるのと、1年後にお茶碗1杯のご飯を約束してくれるのと、どちらが有難いかといえば、今日のご飯でしょう。これが減価とか割引といわれるもので、私たちの直感に一致しているように見えます。それは遠近法のようなものです。利子とは、この遠近法の絵画の中で、目の前で伸ばした手に持った50円玉が50m先まで移動したとき、同じ大きさに見えていなければならない(つまりヤップ島の石のお金のように

          利子と利己心(後)

          利子と利己心(前)

          訳者コメント:  所有と貨幣と利子のもたらす社会と生態系の破壊についてカール・マルクスが残した指摘を基に、テクノロジーと成長を是とし、中央集権国家によるコントロールで運営されるソビエト連邦が作られましたが、これは国家サイズの企業体のようなものでした。想像ですけれど、日本の大企業で働いたことのある人なら、ソビエト社会に放り込まれても全く違和感は無いと思います。日本の企業では、役員は選挙で選ばれるわけではありませんから、民主主義などありません。予算計画に基づいた計画経済を粛々と執

          利子と利己心(前)

          他者の経済学

          訳者コメント:  蒸気機関車は直線的な機械テクノロジーの典型ですが、ボイラーに入れられた水が沸騰し、蒸気がピストンを押して車輪を回し、使い終わった蒸気が煙突から煙と共に捨てられるのは、この直線性の象徴のように見えます。しかしこのような熱機関を研究する熱力学が明らかにしたのは、蒸気が環境中に捨てられて終わりなのではなく、周囲の空気に熱を奪われて冷え、水滴に戻ったところで一巡するサイクルとして捉える必要があるということでした。そうすることで初めて熱機関の性能が計算できるようになっ

          他者の経済学

          時間、お金、商品

          訳者コメント: 自分で何かをするのはタイパが悪い。そんなことしてるぐらいなら、お金を出して既製品を買った方がいい、人にやってもらった方がいい。じゃあその間に自分は何をするのか? 自分の時間を売ってお金にすれば、得られたお金でできることが増える。お金で買えるのは「商品」と「サービス」。それがじつは、売り渡してしまった時間の、失われた人生の、代用品に過ぎないということに、もっと自覚的であっても良いのかもしれません。 (お読み下さい:訳者からのお知らせ) 4.8 時間、お金、商品

          時間、お金、商品

          魂の資本(後)

          訳者コメント:  私は幸いなことにモノづくりの大好きな子供として育ちました。熱心に通った「発明クラブ」では大先輩の技術者たちが新しいアイデアを発想する方法について真面目に教えてくれました。でも高校大学と進むにつれ、自分で考えるというよりも、覚えなければいけない数式やら何やらに圧倒されました。技術者として企業に就職しましたが、求められたのは上から与えられた要求に基づいて製品を設計すること。それなりに面白いことではありましたが、パズルを解くようなものでした。(宮崎駿の『風立ちぬ』

          魂の資本(後)

          魂の資本(前)

          訳者コメント: 子育て中の親御さんたちに、ぜひ読んでもらいたい内容です。ここでは子供の世界から(大人もですが)遊びが奪い取られ、オモチャやエンタメとして売り戻される様子が語られます。いまどきのオモチャ屋を覗いてみると、アニメのキャラクター商品をはじめ、既製品のプラスチックのオモチャがあふれています。私が子供だった1970年代のレゴブロックは数種類の四角いブロックだけで成り立っていたのですが、それを組み立ててお城でも車でも動物でも、何でも作って遊んでいました。今のレゴブロックは

          魂の資本(前)

          自然の資本(後)

          訳者コメント: ここで語られるのは、環境経済学と生態経済学(エコロジー経済学)の違いだと思います。環境経済学は主流経済学の一部をなしていて、環境汚染のように金銭的尺度で測れない「外部性(エクスターナリティー)」を数値化することで「内部化」し費用便益分析(コスパ)で評価できるようにすることに主眼を置きます。工業製品の製造から廃棄に至る全てのコストを合算する「ライフサイクル・アセスメント(LCA)」や、炭素会計などです。これと似ているようで全く異なるのがエコロジー経済学で、人間の

          自然の資本(後)

          自然の資本(前)

          訳者コメント: 著者のチャールズが「自然資本」と捉えているものは、まさに経済学でコモンズと呼ばれているものだと思います。アメリカの生物学者、ギャレット・ハーディンが1968年に『サイエンス』に論文「The Tragedy of the Commons(コモンズの悲劇)」を発表したことで一般に広く認知されるようになった概念です。かつて放牧地は誰のものでもない共有地、コモンズでした。牧夫はそこに牛を数多く放牧すれば自分の儲けが増えます。そこでおおぜいの牧夫が自分の経済的利益を最大

          自然の資本(前)

          文化の資本(チャールズ・アイゼンスタイン『人類の上昇』)訳者コメント

          Facebookでチャールズ・アイゼンスタイン『人類の上昇』の翻訳を紹介するときに書き添えていた前書きを、noteにもアップしてはどうかという提案をいただいたので、試しに本文とは別立てで書いてみます。 今回のは第4章5節「文化の資本」です。前編後編に分かれています。私たちの文化を構成している「知識」が、著作権と特許という形で囲い込まれ、所有され、金銭化されてきた流れを議論します。 今回の内容は私の生い立ちから職歴に至る流れの中に共鳴する部分が多くあったので、前書きにしては

          文化の資本(チャールズ・アイゼンスタイン『人類の上昇』)訳者コメント

          文化の資本(後)

          この節の訳者コメントはこちらに。 (お読み下さい:訳者からのお知らせ) (前半から続く) 同じような状況がイノベーションにも当てはまるのは、科学的発見の自由な利用が、その応用に関する法的所有権によってますます制限されているからです。生物医科学の領域で、従来から行われていた情報や菌株などの自由な交換が崩れつつあるのは、遺伝子操作された微生物が特許を取得できるようになった、つまり所有できるようになったからです[14]。かつてなら科学の進歩は競争よりも協力に基づいていました。人

          文化の資本(後)

          文化の資本(前)

          この節の訳者コメントはこちらに。 (お読み下さい:訳者からのお知らせ) 4.5 文化の資本 文化資本とは、言語、芸術、物語、音楽、アイデアなど、人間の心の産物が蓄積されたものを指します。それらが所有権の有効な対象とみなされるようになったのは最近のことであり、専門家によって大衆の消費のために生産されるようになったのも最近のことです。 狩猟採集時代には、芸術や音楽の分野で卓越した才能を持つ人もいたでしょうが、「芸術家」や「音楽家」という独立したカテゴリーが存在しなかったのは

          文化の資本(前)