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トルストイの民話/トルストイ(ロシア)

「戦争と平和」を書いたロシアの文豪トルストイによる珠玉の短編集。神は愛である――と喝破したトルストイならではの思想が、民話の装いを借りて、美しく力強く語られます。【福音書館HP】

 福音書館より、小学校上級以上向けの童話として出版された、トルストイの民話集。”キリスト”とは何か。人の正しい生き方とは何か。労働とは何か。人生における根源的な問いを民話という平易な言葉、素朴な物語を用いて、表現している。

 物語の前には聖書の言葉が掲げられ、聖書の言葉を深く理解するための物語ともなっている。

 それぞれの物語が含む、深淵かつ実践的な思想と易しい言葉で語られながらも単純でない物語がとても魅力的。

  17の物語の中からひとつ。

愛のあるところに、神もある

 ある靴屋がキリストを見る話。

 靴屋は妻に先立たれ、子供達もみな病気の為に亡くなってしまった。靴屋は熱心に福音書を読むようになるが、ある晩にキリストの声を聞く。
「あした外を見ていなさい。私が来るからな」

 靴屋は晩の事は自分の気のせいだと思いながらも、キリストの姿が見れるのを期待し、何度も窓の外を見やる。しかし、偶像としてのキリストが現れることはない。

 代わりに現れたのは赤ん坊を抱えた貧乏な女と盗みを働いた男の子、盗まれた商屋のばあさん。靴屋はキリストの姿を期待して、眺めていた外の景色から、思いがけず、困っている人たちの姿を見ることになる。彼はすぐに乳飲み子を抱えた女を家に入れてやり、食べ物を与える。また、盗人の男の子に注意をして、気が立ったばあさんをなだめてやる。

 靴屋は期待していたキリストの姿を見ることはなかったが、その代わりに窓の外で困っている人達を見つけ、彼女らに尽くすことになり、結果として、自身の善行の中にキリストを見ることになる。

 神とは何であるか、を易しい物語の中でうまく表現している。

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