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「運用会社は新しい形の金融業」といえるワケ

「運用会社は新しい形の金融業」という表現をみて、筆者は膝を打った。日経記事でのブラックロック有田社長のコメントである。

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これが的を射た事実であることの背景には、日本の金融の在り方そのものの大きな変化がある。

日本は戦後長年にわたり、国民に対する金融教育の基本は、お金を節約して銀行に預けさせる”貯蓄増強”にあった。筆者の親世代は、「貯蓄=善 投資=悪」という発想に、ある意味洗脳されたのである。そして事実、家計の資金が銀行に預けられれば、銀行は信用創造により効果的に貸し出しを行い、また株式保有もした為、必要なところに必要な資金が提供される構造にあった。

結果として今や銀行は国民にとって、安全な貯金箱として扱われ、盲目的にお金を預けておく存在になっている。しかし現在、銀行は預かった資金の多くを国債購入にあて、また日銀の当座預金に眠らせている。株は持合い解消で売る一方だ。”間接金融”はあまり機能しなくなった。

このような状況になり、現在は家計が全てを銀行に預金するのでなく、リスク資産に直接資金を投資する「貯蓄から投資」の必要性が生じている。そこで投資資金を預かり運用する運用会社が以前の銀行に代わり「新しい形の金融業」と言えるわけだ。

ただ家計からの観点では、当然いかに上手く資産運用を行うかが重視される。そして長期積立投資やパッシブ投資という古典的な投資定石が改めて注目され、「オルカンかS&P500への長期積立投資」が唯一の正解であるかのような認識も少なからず広まってしまった。

しかし、マクロ的な「貯蓄から投資」の必要性に立ち返ると、オルカンやS&P500への投資が求められているわけではない。本来必要なのは、家計によるリスクマネーの直接金融であり、お金を預かる運用会社が本当の意味で「新しい形の金融業」である為には、プライベート・アセットを含めた投資対象へのリスクマネーの資金循環、すなわちインベストメント・チェーンの推進に寄与しなければならない。それが上手く回れば産業が興り成長し、家計も潤うことになる。更にそれがグローバルに行われれば尚良く、日本のマネーが海外に投資されるだけでなく、海外のマネーが日本に、それも上場株だけでなくプライベートな融資や出資に投資される状況になると理想的だ。

現に社債市場が発達している米国では企業のデットファイナンスが銀行による間接金融だけでなく運用会社を通じた直接金融の形で行われているし、米国における貸付の8割以上はプライベート・クレジット・ファンドを含めた銀行以外の貸し手が占めている。特にプライベート・クレジットやプライベート・エクイティの運用会社は真の意味で新しい形の金融業と言えよう。